疑惑──⑤

 そこで、パンッとトワさんが手を叩いて注目を集めた。



「コハクさんの報告とコルさんの情報提供のおかげで、ある程度敵の姿が掴めました。問題は、まだ七魔極が復活していないのにも関わらず、漏れ出た魔力のみで数十体の魔物を擬似的に作ったことです」



 そう、それだ。

 幻獣種ファンタズマのみんなが探知しても、魔族が復活した気配はなかった。


 完全に復活した後のことを考えたら、ボード森林付近は一瞬で滅ぼされる。


 それどころか、ブルムンド王国が危ない。


 ブルムンド王国は俺を拾ってくれた国だ。

 このまま指をくわえて滅ぶのを待つつもりはない。



「コハクさん、七魔極が封印されている場所はわかりますか?」

「今のところはなんとも。でもしばらくボード森林に滞在して、封印されている場所を探ろうと思います」

「……すみません、また無茶な役回りを押し付けてしまって」



 しゅん、とした顔をするトワさん。

 みんなも同じことを思ってるのか、沈痛な面持ちで俯いた。



「き、気にしないでください。俺だって皆さんの役に立ちたいし、幻獣種ファンタズマのみんなもいますから」

『えっへん! えっへん!』

『ま、私にかかれば余裕ね』

『ご主人様、お任せ下さいませ』

『然り。コハク様に害なすものは全て斬ってごらんにいれます』



 みんなもやる気満々だ。

 みんながいて、俺が傷つくようなことはない。

 だから、大丈夫だ。


 みんなの心強さに安心していると、ザニアさんがダルそうに手を挙げた。



「あー、それなんだが、さすがに少年1人に任せっきりってのもいかんでしょ、大人として」



 お……おお。あの面倒くさがりのザニアさんが、率先してそんなことを……!


 その言葉を聞いたコロネさんも、腕を組んで頷いた。



「ザニアの言う通りだな。持ち回りでもいいから、我らもコハク殿と協力してボード森林を見回るべきだ」

「そうですね……バトルギルドの皆さんはどう思いますか?」



 トワさんが聞くと、レオンさんは大きく頷いた。



「もちろんだ。そもそも、これはバトルギルドの依頼で見つかったものだからな」



 レオンさんがアシュアさんに目配せし、小さく頷く。



「では、バトルギルドからはプラチナプレート以上で部隊を編成します。相手は七魔極。ゴールド以下だと、犬死の可能性がありますから」



 通常の魔族が相手でも、ゴールド以下は厳しいと思う。

 七魔極相手に、どれだけ人類が通用するか……。


 チラッとスフィアを見る。

 俺の意図を察したのか、目が光りモーター音が聞こえてきた。



『……正直なところ、擬似的に作られた魔物には遅れは取らないでしょう。しかし七魔極本体が現れた場合、足でまといになるかと』



 本当に正直に言ったな。俺しか聞こえてないからいいけど。



『七魔極は能力も然ることながら、本体の力も驚異的です。ご主人様とミスリルの方々ならともかく、プラチナプレート以下は危険かと』



 そういえば、バトルギルドとテイマーギルドのプラチナプレートの人って見たことないな。

 どんな人がいるんだろう。気になる。


 そんなことを考えていると、コロネさんが口を開いた。



「それでは、テイマーギルドも足並みを揃えよう。指揮は私が取る。ザニア、貴様は副指揮官だ」

「え。他の人が働くから、俺働かなくていいと思ったんだけど」

「去勢するぞ貴様ァ! まだその腐った性根は直っとらんのかァ!」



 あはは、そういうこと……ザニアさん、変わらないなぁ。

 2人のやり取りに苦笑いを浮かべる。と、トワさんがにこやかに笑った。



「そういうことなら、私達は女王陛下に報告ですね〜。レオンさん、それでいいですか〜?」

「ああ。アシュア達に任せれば、現場は大丈夫だろう。任せたぞ」

「はい、マスター」



 レオンさんに恭しく頭を下げるアシュアさん。

 こうして見ると、テイマーギルドは【ファミリー】みたいな感じで、バトルギルドは【チーム】って感じがする。


 あくまで俺の主観だけど。


 ……ん? あれ?



「あの、いいですか? 思ったんですけど、他のギルドに手助けを要請することってできないんですかね?」



 なんて、疑問に思ったことを口にすると。



「「「「「…………………………」」」」」



 全員黙っちゃった!? なんで!?



「あー、コハクさんはまだこの街の事情をわかっていませんでしたねぇ〜」

「え?」

「アレクスには、4つのギルドしかないんですよ。他の街に行けば別のギルドはありますが、ボード森林付近ではアレクスが1番近いんですよねぇ〜」

「なら、あと2つにお願いすればいいのでは?」



 それの何がいけないんだろう?



「その2つが問題でして〜。いえ、正確には1つですが〜」

「……? よくわからないですが……どこなんです、それは?」



 トワさんは苦笑いを浮かべ、指を立てた。



「1つ。こちらはオーシャンギルドといい、アレクスの海域を専門としているギルドです〜。ここは港町ですからねぇ〜」



 あ、なるほど。海専門のギルドだから、陸では本領発揮できないのか。


 納得すると、更に指を1本立てた。



「もう1つ。こちらですが〜……少々厄介と言いますか、表には出てこないと言いますかぁ〜」

「表には出ない? それはいったい……?」






「いわゆる、殺人を生業としているギルド……闇ギルドというものです〜」

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