疑惑──①

   ◆



「ここがボード森林?」

『はい、ご主人様』



 フェンリルに乗って数時間。

 俺達はワイバーン40体の討伐のため、ボード森林を訪れていた。


 さすがにマグマ草採取からのワイバーン討伐は、体力的に来るものがあるな。


 主に移動時間で。


 腰をぐいーっと伸ばしていると、ライガがキョロキョロと周りを見渡した。



『ふむ……ワイバーンの気配がありませんな』

「え……本当?」

『はい。気配探知に何やらモヤが掛かっているような……妙な感じです』



 ライガの気配探知は超一級品だ。

 絶海の孤島大陸で修行してた時に、それは身をもって味わっている。


 そのライガの気配探知でも捉えきれない……一体どういうことだろう。



『ご主人様、私のマッピングにも映りません』

『匂いもしないよ。なんか鼻がムズムズする』



 スフィアとフェンリルも探知には優れてるのに、それでも引っかからない……? いよいよ怪しくなって来たぞ。



『コハクー!』

「あ、クレア!」



 どこかに行っていたのか、クレアが慌てた様子で飛んできた。



『大変よ、コハク! この森、ワイバーンどころか通常の魔物すらいないわ!』

「なんだって……!?」



 通常の魔物がいない。これは異常なことだ。

 人の手が加えられていない自然には、多かれ少なかれ野生の魔物がいる。

 それがいない。ということは──。



「まさか、この森に何かあったのか……?」

『恐らくね。ワイバーンが食い荒らしたって訳でもなさそう。血の匂いもしないし』



 ワイバーンもいない。魔物もいない。血の匂いもない。

 これ、異常なことが起こってないか……?

 一度帰ってレオンさんに報告した方が……。



『──コゥ!』

「え? うわっ!」



 ふぇ、フェンリル!?

 襟首を咥えられ、突然の浮遊感と共に地面が遠くなる。

 その直後──。



「ギャアアアアアアアッッッ──!!!!」

「えっ……? わ、ワイバーン!?」



 俺がさっきまでいた場所に、突然一体のワイバーンが飛来した……!


 俺の身長を優に超える体躯。

 巨大な翼。

 獰猛な目と鋭い牙。

 硬質な鱗。


 間違いない──ワイバーンだ……!



『ど、どういうこと!? さっきまで姿どこか気配までなかったのに……!』

『ッ! 私のマッピングにも、突然現れました!』

『私の気配探知にもです!』



 と、森の中から、上空から、そして地面から。

 まるで湧いて出るかのように、次々とワイバーンが姿を現した。


 全く意味がわからない。こんな近くに来るまで、みんなの探知に引っかからなかったなんて……!



「フェン!」

『うんっ、行くよ!』

「『“魔人化”!』」



 急遽、俺を咥えていたフェンリルと魔人化する。


 肩まで伸びたシャンパンゴールドの髪。

 鋭く伸びた歯と爪。

 腰から伸びた尻尾。頭の上の耳。

 更に服装も変わり、上半身裸に毛皮のコートのような出で立ちになった。



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッ──!!!!」



 咆哮による衝撃波。

 それにより、この場にいる幻獣種ファンタズマ以外の生物の動きが硬直した。



「今だ!」

『《フレイム・クロー》!』

『龍殺剣──瞬き』

『ガトリング砲!』



 各個、ワイバーンを殲滅していく。


 よし、俺も……!


 空中で体をたわませ、脚にグッと力を入れる。

 そして──空間を蹴った、、、、、


 強力すぎる脚力で蹴られた空間が足場となり、空中を亜音速のスピードで駆け抜ける。


 そのまま近くにいたワイバーンへ一直線に向かい。



「ハァッ!」



 硬質な鱗で包まれた肉体を粉々に殴り砕いた。

 そして更に空間を蹴り、蹴り、蹴り──。



黄金の流星フェンリル・メテオ!」



 黄金の軌跡を作り、ワイバーンの群れを屠った。

 地面に降り立つと、みんなの協力もあってものの数分でワイバーンの群れを片付けられた。


 けど……。



「なんか、手応えがなかったような……?」

『そうね。姿形は本物だけど、なんだか作られたものと戦ってる感じだったわ』



 みんなも同じことを思ってたらしい。

 そう、みんなの力は強いけど、あまりにも手応えが無さすぎるんだ。

 まるで紙や土で作られた、似た何かと戦っていたような……。



『ご主人様、警戒を』

『嫌な匂い! ガルルルルッ!』

『皆の者、コハク様を護れ』

『言われなくてもわかってるわよ』



 3人が俺の周りを囲い、魔人化しているフェンリルも最大限の警戒をしている。


 相変わらず、嗅覚や聴覚、直感には何も引っかからない。

 でも……いる。間違いなく、何かいる。


 このボード森林に──。

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