プラチナプレート──④

   ◆



 レオンさんに拉致られ、俺達はテイマーギルドからバトルギルドへとやって来ていた。


 場所はバトルギルドのギルドマスター室。

 拉致られた俺はソファーに座らされ、そんな俺を目の前に座るレオンさんは舐め回すように見てきた。


 ここに来て数分。全く意味がわからない。



「あ、あの。レオンさん……?」

「ん? なんだい?」

「えっと……依頼があるんじゃないんですか?」

「ああ、あるとも。でもコハクがこうしてここにいて、実際にバトルギルドのプレートを付けているのを見ると、なんだか感慨深くてね」



 そう言ってもらえると俺も嬉しい。

 俺の……いや、俺達の力を認めてくれたみたいで。


 レオンさんはさっき入れたコップの水で口内を潤し、腕と脚を組んだ。



「まあ、急ぐほどの依頼でもない。少しだけオレと会話しないか?」

「はあ……まあ、急ぎでないのでしたら」



 といっても、会話って何をすれば……あ。



「えっと、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「どうして俺をバトルギルドに誘ってくれたんですか? 前に説明されましたけど……」

「納得がいかない。ってことか?」

「正直に言えば」



 俺とアシュアさん達は友人で、外部の組織から俺の力が狙われた時に助けやすいから。

 もっともらしい理由だけど、ちょっと違和感があるんだよな……。


 俺の疑問を聞いたレオンさんは、「ああ」と肩を竦めた。



「なんてことはない。俺がコハクを一目見た時に、その力の強大さに惚れたからだ」

「惚れた……?」



 レオンさんは前のめりになり、机に足を付いて俺の顔を思い切り覗き込んできた。

 まるで獰猛な肉食獣のように輝き、満面の笑みを浮かべている。



「あの時、お前を最初に会った時の感動は忘れない。あれは最初にアシュアに会った時と同等……いや、それ以上の可能性をお前の中に見た」

「そ、そんな……俺が強いのは、幻獣種ファンタズマのみんなのおかげです。みんなが俺に力を貸してくれるからです」



 俺が幻獣種ファンタズマテイマーじゃなかったら、多分俺の力はよくてシルバーくらいだろう。

 そんな俺が、剣聖にまでなったアシュアさんと同じ可能性を秘めてるなんて……。



「いや、コハク。お前は自分の力を卑下しすぎだ。お前の中にある才能は、並外れたものがある。俺はそう信じている」



 レオンさん……。


 テイマーギルドに入った時、トワさんに俺の努力を認められた。応援すると言ってもらえた。

 そして今、バトルギルドのギルドマスター、レオンさんからは俺自身の力を認められた。

 どうしよう、こんなに嬉しいことはない。


 込み上げてくる感情を抑えるように涙を拭うと、側にいるみんなが声を上げた。



『そうですよ、ご主人様。ご主人様のテイマーとしての素質は素晴らしいです』

『普通のテイマーは2体をテイムするのが限界なのに、それを4体……しかも幻獣種ファンタズマをテイムできてるんだもの。才能がないわけないわ』

『然り。さらに剣の才能も持ち合わせています』

『ずっと一緒にいるボクが保証するよ! コゥはつよい! コゥは最強!』



 みんな……ありがとう。

 自分の力に少しだけ自信をもらうと、レオンさんは執務机から一枚の紙を取り出した。



「そんなコハクに、バトルギルドのプラチナプレートとして初依頼をしてもらう」

「は、はい!」

「初めての依頼は、ワイバーン型龍種ドラゴンの群れの殲滅だ」

「はい!」



 …………。



「え、ワイバーン型龍種ドラゴン?」

「ああ。数は40体。最近、北西に位置するボード森林に大量に発生したらしい」

「40!?」



 龍種ドラゴンの中には格というのが存在する。

 ドラゴネット、ワイバーン、ムシュフシュ、ヴリトラ、ヒュドラ、ドレイクと格が上がっていく。


 ワイバーンは下から2番目。

 単体のワイバーンなら、シルバープレートが数人もいれば倒せるだろう。

 でもそれが40体となると話は変わってくる。

 ワイバーンは龍種ドラゴンに珍しく群れを作り、狩りを行う。


 龍種ドラゴンならではの獰猛さや鱗の鋼鉄さ。それに加えて群れのコンビネーションか加わると、依頼達成の難しさは半端ではない。


 それが、俺の最初の依頼か……。



「頼りにしてるよ、期待の新星くん」



 肩ぽんぽん。

 まさかこの人、俺に断らせないためにあんなに乗せてきたんじゃ……?


 そんな疑いの目を向けると、レオンさんは真面目な顔になった。



「コハク。この流れで言うのはなんだが、俺は本当にお前の力に惚れている。これも、お前なら絶対に達成できると信じているんだ」

「ぅ……わ、わかりました。元から断るつもりもありませんし……依頼を受けます」

「うん、頼んだぞ」



 レオンさんは俺に拳を向けてニカッと笑った。

 俺も少しだけため息をつき、拳をぶつける。


 かくして、俺の最初のバトルギルドプラチナプレートハンターとしての初依頼が決まったのだった。

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