プラチナプレート──③

「どれくらい採ればいいんだっけ?」

『コハク様、依頼書によれば20ほどでよいと書いてあります』



 依頼書を見ていたライガが教えてくれた。


 20か……うーん。まあ採りすぎても問題はないでしょ。多くて困ることもないだろうし。



『コゥ、もう帰る? 帰る?』

「うーん、どうしようかな……フェンは疲れてない? 大丈夫?」

『だいじょーぶ! ボク、体力には自信あるから!』



 尻尾をぶんぶん振り回し、俺の頬を舐めてきた。

 ちょ、くすぐったい、くすぐったいっ!



『あ、アンタ! コハクをぺろぺろするなんていい度胸じゃない!』

『そんな羨ま……無礼なこと許しませんよ! ちょ、フェンリル、そのまま私の頬舐めてください。間接ぺろぺろしてくださいっ!』

『ずっるいわよアンタ! フェンリル、私もしなさい!』

『ななな、なにっ? なに!? コゥ、たすけてー!』



 ……何してんの、この子達。



『ふむ、楽しそうだな。昔とは大違いだ』

「ライガ。昔って?」

『はい。コハク様が現れる以前は、我らはただ悠久の時を生きるだけの存在でした。それこそ、このような笑顔も尽きていたほどに』



 あ……そうか。みんな、想像も付かないほど長い時間の中を生きてるんだ。

 俺達人間の寿命なんて、長くても100歳くらい。でもみんなは、その何十倍、何百倍も生きてきた。

 こうしてみんなと一緒にいられるのも、みんなにとっては一瞬の出来事なのかもね……。



『? コハク様?』

「あ……いや、なんでもない」



 落ち込んでる暇はないぞ、俺。

 今、みんなと楽しい時間を過ごす。それがみんなのためだし、俺のためにもなる。


 沈みかけた気持ちを切り替えて、みんなの頭を少しずつ撫でていった。



『こ、コハク様……!?』

『コハク、何を……うにゅっ』

『ご、ご主人様からナデナデ……!?』

『コゥ、もっとー!』

「はいはい。みんな、もう帰るよ」



 みんな仲良く、というのは幻想かもしれない。

 でも、少しでも仲良くしてほしい。それは間違いない。



   ◆



 今度は半日以上の時間をかけて、アレクスの街に戻って来た。

 特に急ぐ予定もないし、本来だったらこの依頼も数週間かけて達成するものだしね。


 テイマーギルドの前に降り立った時には、すでに丸一日以上経過していた。



「あぁ~……さすがに腰が痛いっ」



 ずっとフェンリルの上だったからなぁ。ストレッチしないと腰が爆発しそうだ。



『あぅ……ごめん、コゥ……』

「ああ、いや。フェンのせいじゃないよ。乗り心地はすごくよかったから」



 ただ、同じ体勢でいるのがきついんだよね。

 今後は長距離の依頼も増えるだろうし、どうにかしないと。


 みんなを引き連れてテイマーギルドに入る。

 と、そこにいた他のハンター達の視線が俺に突き刺さった。



「おい、見ろ。噂のヤツだぜ」

「入って半年でプラチナプレートに昇格したってやつか」

「コハク、だったか?」

幻獣種ファンタズマテイマーだってよ」

「嘘なんじゃないか?」

「だがよ、マスターも認めてるって話だぜ」

「それにバトルギルドのマスターや剣聖達も懇意にしてるって」

「マジかよ……!?」

「信じらんねぇな……」

「他国も認めてるくらいの実力だってよ」

「この間のターコライズ王国の件も、コハクが関係してるらしい」

「他国から狙われる程の実力者かよ……!」

「すげぇ……!」



 うぐ……よく聞こえないけど、なんか噂が聞こえる。


 変な風に言われてたらどうしよう……い、いや、しっかりしろ、俺。俺は今やプラチナプレートのハンターだ。胸を張って行こう。



『何よこいつら。ヒソヒソ話なんてしちゃって……燃やしてやろうかしら』

『いえ、「ピーーー」にミサイルぶち込んでぶっぱなしましょう』

『丸呑み? 丸かじり?』

『否、ミンチにしてやろう』

「落ち着きなさい」



 全く……いつまで経っても、俺が何か言われることに我慢できないんだから。


 他のハンター達からの視線を無視し、受付で事務作業をしているサリアさんの元に向かった。



「サリアさん、ただいま戻りました」

「あ、おかえりなさい! 相変わらず早いですね!」

「ええ、みんなに助けられてますから」



 フェンリルの背に乗せていた麻袋を下ろし、1つずつサリアさんに渡した。



「おお……これ、全部マグマ草ですか?」

「はい。すみません、採りすぎちゃって」

「いえいえ! いつも助かっていますので

大丈夫です!」



 サリアさんはいつも俺が採りすぎてくるのをわかってるから、なんとも思ってないみたいだ。


 それはそれでいいのか、と思う。



「あぁそうでした。コハクさん、実は今朝からお待ちしている方が──」

「やぁコハク、待っていたよ!」



 と、ギルドの奥から元気よく出てきたのは、他でもない。



「レオンさん!」

「そこの受付嬢から、コハクなら一日で戻ってくると聞いてね。今朝から待たせてもらっていたんだ。さあ、次はバトルギルドに行って、プラチナプレートの依頼を受けてもらおうじゃないか!」

「え、ちょっ、さすがに休ませ──」

「善は急げだ! 行くぞ!」



 ほ、本当に休ませ……! って力強いなこの人! この体のどこにそんな力が!


 あっ、ああああああぁぁぁぁぁ……!

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