プラチナプレート──②

 結局、フェンリルが頑張ってくれたおかげで半日も掛からずに目的の場所に到着した。


 辺りは既に薄暗くなり、目の前には煮えたぎるマグマがある。


 これが、グレゴン火山の噴火口か……。



『コハク、暑さは大丈夫? もう少し遮断しましょうか?』

「いや、丁度いいよ。ありがとう、クレア」

『えへへっ。もっと褒めてもいいのよ!』



 空を飛び、胸を張って得意気なクレア。

 クレアの熱操作のおかげで、マグマ付近だけどまるで草原にいるかのように過ごしやすい温度になっている。


 更に毒ガスなんかは、スフィアの作ってくれたペンダント型空気清浄機で抑えている。


 本来、前に行った毒の渓谷やグレゴン火山は、危険区域デンジャラスゾーンに指定されている。

 準備に手間も掛かるし、攻略にも一癖も二癖もある場所だ。


 でもみんなのおかげで、ほとんど準備しなくてもこうして危険区域デンジャラスゾーンに来れている。


 本当、みんなには頭が上がらないよ。



『それにしても、気持ちよさそうねぇ。泳ぎたい気分だわ』

「え。クレア、あの中泳げるの?」

『ええ。私は原初の火精霊だからね。どれだけ高温でも問題ないのよ』



 へぇ……さすがだな。俺もクレアと魔人化すれば、マグマの中を泳げるのかな? ちょっとやってみたい気もする。



『コハク様。マグマの中から生命の気配を感じます』

「え?」



 と、ライガがマグマの中をじっと見つめていた。

 それに釣られて俺もマグマの中を見るけど……マグマまで数十メートルも空いてるから、気配を辿れない。


 これだけの距離で気配探知をするって、さすが幻獣種ファンタズマ……。



「どれくらいいるかわかる?」

『10……いえ、13といったところです。斬って来ましょうか?』

「うーん。無駄な戦闘が避けられるなら、それに越したことはないんだけど……それだけいると、戦わなきゃマグマ草は取れない、か」



 俺がライガやクレアと魔人化して取りに行くのでもいいけど、あれ疲れるんだよね。


 それに、ここはテイマーらしく。



「クレア、しばらく泳いできてもいいから、マグマ草の採取をお願いできるかな?」

『いいわよ! この私に任せなさいっ!』



 クレアは意気揚々と準備運動をすると、迷いなくマグマの中にダイブしていった。



『あはっ! トロトロで気持ちいいわ!』



 おぉ……本当にマグマの中を泳いでる。


 まるで小さい子供のようにパシャパシャと泳ぐクレア。

 が、しかし。



『コゥ、あれ! あれ!』

「あれは……背ビレ?」



 マグマの中から真っ赤な背ビレが現れ、クレアの周りを泳いでいる。

 しかも一匹や二匹じゃない。かなりの数だ。


 あれが噂に聞くマグマシャーク……本当にマグマの中をサメが泳いでるよ。



『コハク様、いかが致しましょう』

「……いや、ここはクレアに任せよう」

『承知しました』



 こうやって視認できるとわかるけど、マグマシャークの強さはそこまでではない。


 恐らく、危険区域デンジャラスゾーンに生息しているということもあり、討伐が難しいとされているんだろう。


 マグマシャークの群れが、円を描くようにクレアの周りを泳ぐ。

 クレアはそれにイラだったのか、ムスッとした顔を見せた。



『全く。せっかく溶岩遊泳を楽しんでるのに、下品な魔物ね。──消し炭にするわよ?』



 クレアから苛立たしげに放たれる僅かな魔力と殺気。

 その途方もない熱量に、マグマシャークの動きが一瞬止まり……我先にと、マグマの中へと消えていった。


 クレアの恒星のようなエネルギー量に、本能が逃げることを選んだらしい。


 うん、正しい選択だ。誰も犬死にはしたくないからな。



『ふん。魚類が私に牙を剥くんじゃないわよ』

『あのまま食われればよかったのに』

『ちょっと! 今何か失礼なこと言わなかった!?』

『気のせいですよ。それより、従者としてご主人様を待たせるものじゃありません。さっさとマグマ草を採取しに行きなさい。それしか脳がないのですから』

『ムキーッ! 何よ、アンタなんて今回クソの役にも立たないくせに!』

『私はご主人様のお側でお守りするという栄誉ある仕事を任されていますので』

『ああ言えばこう言う! もうっ、わかったわよ!』



 なんだかんだ、スフィアの言うこと聞くんだよな、クレアって。

 やっぱり2人って仲良いよね。


 クレアがマグマに潜って数分。

 火口に座って待っていると、クレアが沢山のマグマ草を取ってきた。



『見て見て、コハク! すっごく採れたわ!』

「ああ。ありがとう、クレア。……これがマグマ草か」



 マグマの中でしか育たない、特殊な草。

 色は赤黒く、葉っぱは鋭く尖っている。



『まだいっぱい生えてたから、採ってくるわね!』

「うん、お願いね、クレア」



 クレアが地面にマグマ草を置き、またマグマにダイブした。

 さすがにマグマからの採れたてほやほや。熱そうだし、触りづらいな。



「スフィア、どうしよう?」

『それではこちらを。耐熱耐火性能を加えた手袋と麻袋です』



 さすがスフィア。準備がいい。


 それから約30分。クレアが取ってきてくれたマグマ草をひたすら袋の中に入れ。

 身の丈程の麻袋、合計で4つ分のマグマ草を手に入れた。


 ……採りすぎたかな?

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