終戦──②

「──嘘をついてるな」



 俺の言葉に、サノアの瞳は揺れた。

 やっぱり。



「お前の性格、お前の言葉、お前の行動。何年見続けてきたと思ってる?」

「…………」

「お前は何かに後悔するようなたまじゃない」



 俺の真っ直ぐな言葉と、真っ直ぐな視線。

 サノアは直ぐに嘘泣きをやめ、深々とため息をついた。



「……ちょっと見ない間に、生意気になりましたね、コハク。お姉ちゃんは嬉しいですよ」

「嬉しそうな顔じゃないな」

「ええ、イライラします。鎖がなければ、ぶっ殺したいくらいに」



 と、獰猛な笑みを浮かべた。

 これだ。これが、サノアという女だ。


 自分の行動、自分の破壊に後悔せず。

 ただ自分の衝動に従順に動くだけ。



「あーあ、後悔している振りをすれば、心優しいコハクならここから出してくれるかと思いましたが……ダメですか」

「当たり前でしょ。お前のことは俺が1番知ってるんだから」

「実の姉を口説きますか。気持ち悪い」

「誰も口説いてない」



 ダメだな。最後に一目見ようと思って来たけど、サノアと話してると神経を逆撫でされる。


 早くここから出ていこう。



「──待ちなさい、コハク」

「……なんだよ」



 扉の前で振り向くと、サノアは目を見開いていた。

 ……何、どうしたの?



「あなた……強くなりましたか?」

「…………」



 思わず、目を見張ってしまった。

 驚いた。まさか、そこを見抜くとは思っていなかったから。



「……だとしたら?」

「いえ。そうですか……強く……」



 何かをブツブツと呟き、再度俺を見つめてくる。

 その顔はどこか誇らしげで、見たことがないほど優しい笑みを浮かべていた。



「よかったです。当時のままでしたら、あなたはこの世界じゃ生きて行けませんから」

「……どういうことだ?」

「そのままの意味ですよ。あなたは弱い。いえ、弱かった。あのまま世間に出ていたら、間違いなく死んでいたでしょう」



 ……こいつが何をいいたいのか、わからない。

 サノアがそんなこと気にするような奴か?

 俺が死んでも、きっとサノアは何も気にしないだろう。


 ……わからない。

 今の言葉の真意が、わからない。



「もし私が無事に解放されたら、戦いましょうね。お互い、全力で」

「お断りだ。……と、言いたいが」


 俺は扉の前で待っていたフェンリルに手を伸ばし。

 瞬時に魔人化をすると、獣人モードでサノアの前に立った。



「いつでも掛かって来なよ。……次は、俺が叩き潰す」

「────。……驚きました。変身……いえ、見たことがあります。魔人化、ですか」

「へぇ、知ってるのか」

「様々な相手と戦ってきましたから」



 好戦的に笑うサノア。


 そのサノアの戦意を折るように──俺はフェンリルの力の3割を解放した。


 ミシィッッッ──!!!!


 俺から発せられる圧力で、牢の壁や床、天井が鈍い音を立てる。

 けど、サノアは戦意を折るどころか。



「あはっ♡ いいっ、いいですよコハクっ。今すぐヤりましょうっ、ここなら誰もいないですし、早くヤりましょう……!♡」



 むしろ火がついた……!?


 あ、でもこいつ、こんな奴だったな。


 久々すぎて忘れてたけど、どんなに自分より強くて、どんなに勝ち目がなかろうと、最初から諦めるんじゃなくて、まずは挑む。


 最近人気沸騰中の小説という創作物の主人公なら、かっこいいと思うかもしれない。

 でもそれがリアルにいて、相手が俺だった場合。


 超絶、面倒くさい。


 今までごめんなさい、創作の中の敵。

 あなた達、こんな面倒くさい主人公相手と戦ってたんだね。


 これ以上ここにいると、精神衛生上よろしくない。

 そう思い、俺は足速に牢を後にしたのだった。



   ◆



 以上、数週間前の回想である。


 これを説明しようとしても言語化できる気がしないから、言わないでおこう。



「あ、話し合いが終わったみたいですね」



 コルさんが映像を見て呟いた。

 確かに、ターコライズ王国国王とブルムンド王国女王が握手をしている。


 してるけど……国王、さっきより老けてない?


 と、その時。

 話し合いの席にいたトワさんが、部屋に入ってきた。



「コハクさーん。女王陛下がお呼びですよー」

「……え?」



 ……………………………………え?

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