終戦──③

 ……どうして……どうしてこうなった。


 トワさんに案内させられ、俺は幻獣種ファンタズマのみんなを引き連れて会議室へ訪れていた。


 目の前にいるのは、映像で見るよりも美しく見えるブルムンド王国女王陛下。

 そして、やつれた姿のターコライズ王国国王陛下とギルドマスター達。


 なんで俺、こんな場所に呼ばれたの……?

 トワさんは女王陛下の後ろに行っちゃったし……誰か俺をサポートして。泣きそう。


 そんなことを考えていると、女王陛下が美しい笑顔を俺に向けた。



「初めまして、コハクさん。私はカエデ・ムルヘイム。ブルムンド王国の女王です」

「は、はいっ。はじめま……あ、えと、お初にお目にかかりますっ。こ、コハクで……コハクと申し……!」

「ふふ。緊張なさらないでください。どうか、いつも通りでお願い致します」

「は……はい……!」



 やばい。緊張しすぎて、いつも通りを忘れた。

 いつもの俺って、どんな感じだったっけ……?



「いきなりお呼びたてしてしまい、申し訳ありません。少しばかりお話を聞かせて頂けないでしょうか?」

「は、はい」

「では……コハクさんがターコライズ王国いた頃の扱いは、酷いものだったと聞いています。事実ですか?」



 女王陛下の言葉にターコライズ王国側は体を震わせた。

 ……ここで嘘を付いたら、後々面倒なことになりかねないし……正直に話そう。



「はい、事実です」

「なるほど……あなたは幻獣種ファンタズマテイマーだとお聞きしました。何か証拠を示すことはできますか?」



 えっ、証拠って……証拠を出せなかったから、ターコライズ王国では【無能】と【嘘つき】のレッテルを張られたんだけど。


 どんな証拠を見せれば……。

 悩んでいると、スフィアが提案した。



『ご主人様、魔人化の力をお見せすればよいのでは?』



 そ、そうかっ。今の俺は魔人化ができる。魔人化をすれば、間接的にとはいえみんなの力を示すこともできるな。


 俺は無言でうなずくと、女王陛下に向き直った。



「今から魔人化をします。少々荒れますので、離れていてください」

「魔人化ですか。確か、トワも同じことができましたね」

「はいー。コハクさんの魔人化は、私も初めて見ますがー」

「では専門家もいることですし、それでお願いします」



 みんなが俺から僅かに離れる。

 それを確認してから、スフィアが俺の肩に手を置いた。



『では——“魔人化”』



 直後。俺の体を膨大な光の粒子が覆い、超高密度のエネルギーが周囲に放たれる。

 粒子化したスフィアが、パワードスーツという形で俺の体を覆う。


 両腕両脚に純白のメタルアーマー。

 背中には三対六枚の漆黒の翼。

 頭には思考力を30倍に引き上げる演算装置。

 右目には敵を感知するスカウター。

 胸には琥珀色に光る動力源。


 その姿を現した瞬間、この場にいる全員が唖然とした。



「なんという高密度のエネルギー……これが、幻獣種ファンタズマと魔人化した姿ですか……!」

「驚いたな。これ、トワとクルシュの魔人化より強力なんじゃないか……?」

「レオンに言われるのは癪ですが~……悔しいですけど、その通りですね~」



 どうやら、信じてくれたらしい。

 ターコライズ王国側も、体をガタガタと震わせて身を縮ませていた。


『ふふん。ご主人様の雄々しき姿にブルッてやがります。ざまーみろ、です』

(スフィア、口悪くない?)

『今までご主人様を馬鹿にして来たのです。口の1つや2つ、悪くもなります』



 スフィアの言葉に、他のみんなもうんうんと頷いた。



『いっそのこと、ここでターコライズ王国の奴らぶっ飛ばしてもいいんじゃない?』

『賛成! 大賛成!』

『肯定。力を見せつけるには持って来いかと』



 却下。


 みんなの意見に内心苦笑いを浮かべていると、女王陛下が話を続けた。



「コハクさんが本当に幻獣種ファンタズマテイマーだということは、よくわかりました。それを踏まえて、1つ私から提案があります」



 提案?

 女王陛下はそっと俺に近付き、メタルアーマーで覆われている手にそっと触れてきた。



「コハクさん。あなたは幻獣種ファンタズマにとても愛されているのですよね?」

「は、はい。まあ……」



 なんだ? 何が言いたいんだ?



「その力を見込んで、お願いがあります。……どうか、ターコライズ王国の皆さんを助けてあげてもらえませんか?」



 …………。



「え?」



 たすける……助ける? ターコライズ王国の皆さんって……え?



「……それはつまり、現在衰退しているターコライズ王国の国力を回復してほしい……ということですか?」

「その通りです」



 その言葉に、幻獣種ファンタズマのみんなが激昂した。



『何言ってんのよこの女! ばっかじゃないの!?』

『コハク様、このような女の言うことを聞くことはありませんぞ』

『そうです。ご主人様、奴らが過去にご主人様にして来たことは忘れてはいけませんよ!』

『ガルルルルルルルル!!』



 まあ待って。みんな、落ち着いて。



「……理由を聞かせてください。その理由が納得のいくものであれば、一考します」



 俺の言葉に、女王陛下は深々とお辞儀をした。

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