剣の里──⑤

   ◆



『本日の分、しゅーりょー!』



 お……終わ……た……。


 合計数十人の剣精霊とのチャンバラ(と言うなの真剣勝負)が終わったのは、太陽が沈み辺りが暗くなった頃。


 少しでも手加減すればやり直し。

 ちょっとでも油断すればやり直し。


 結局数十人を相手するのに、100回以上チャンバラをやることに。

 しかも全員俺よりも格上の剣士達。

 当然のごとくボロクソにやられた。


 見た目は俺より年下の子供達。

 そんな子らに手も足も出ずやられたからか、肉体より精神的なダメージの方がでかい。ぐぅ……!



『それじゃあお兄ちゃん、また明日ねー!』

『またね!』

『明日も来るのよ? 絶対よ?』

『明日はぼくから!』

『なに言ってんだ、おれからだ!』

『わたしからー!』



 あぁ、こりゃ逃げられませんね。

 ……あ、そうだ。



「俺、今日は休みだったけど、明日以降は訓練に戻るんだ。だから明日も一緒に遊べるかはわからないなぁ」

『『『『『えーーー!』』』』』



 う、悲しそうな眼差し。

 でもここで変に約束するのも、この子達に悪いし。

 ……別にそれを理由に逃げようなんて、思ってはないからね? ……ホントダヨ?






『よろしいですよ』






「え。……ライガ?」



 いつの間にか傍にいたライガ。

 その存在に気付いた剣精霊達が、一斉に群がった。



『ライガさまー!』

『ライガ様、こんばんは』

『ばんちゃ!』

『ライガ様だー!』



 精霊にまとわりつかれながらも、ライガはゆっくりこっちに歩いてくる。



『実は、次の訓練内容は剣精霊達とチャンバラを予定していたのです。それを察知し、いち早く自主的に訓練するとは……このライガ、感服いたしました』



 白々しい……こいつ、こうなること絶対わかってたでしょ。

 じとーーーー。



『…………(ぷい)』



 おいコラこっち見ろ。目を逸らすな。



「……はぁ。……ここにいる間の俺の人権はないようなものだし……わかった、従うよ」

『おおっ、それでは……!』

「その代わり、これが終わったらマジで休みが欲しい。3日間くらい何もしない日が欲しい」

『む……わかりました。お約束致しましょう』



 よしっ。やったぞ、約束を取り付けた!

 これでこの訓練が終われば休みが貰える!



「ということだ。みんな、明日もまた来るよ」

『『『『『やったーーーー!!』』』』』



 ふふふ、喜んでおるわ。


 喜ぶみんなと別れ、俺はライガと肩を並べてその場を後にした。



『そうだ、コハク様。次の訓練の終了条件なのですが』

「そう言えば聞いてなかったね。何?」






『剣士の技能を付与した状態で、1000体の剣精霊に連勝することです』






 …………………………………………?



「え」

『本当は全剣精霊、数億万体をと思ったのですが、それは流石に無謀ですからな』



 1000体相手に連勝する方も十分無謀ですけど!?



『あの子達は、見た目こそ子供のようですが剣の腕は達人級。それを1000体、連勝することができれば、コハク様の剣の腕も格段に上がるはずです』

「あー、どおりで異常に強いはずだ」



 剣精霊だから、剣の腕は達人級……ちょっと納得いった。

 そんなあの子ら相手に1000連勝……。



「無理でしょ」

『可能ですよ』



 間髪入れずに肯定してきた。



「確かに幻獣種ファンタズマのみんなからしたら、ボスである俺ならできるって肯定したいとは思うけど……いくら何でも、こればっかりは無理だと思うけど」

『コハク様。あなたは今、私と契約しています。それがどういうことか、もうわかるのでは?』



 ライガと契約してる意味?

 それって……。



「……魔人化……?」

『そうです。私とあなたは、今は契約で繋がっています。契約で繋がっているということは、少なからず私の力があなたに流れているということ。それを使いこなせれば剣の腕も格段に上がり、魔人化することも可能でしょう』



 お……おおっ。そういう伏線(?)だったのか。

 魔人化するために必要な訓練……そう思うと、俄然やる気が出てきた。



「……あ」

『どうかされましたか?』

「……ライガと魔人化できるのは嬉しいけど……」

『クレア達のことですかな?』

「まあね」



 クレア達との付き合いは長い。

 それでも、まだ魔人化ができてないのにライガと魔人化するのは、拗ねられそうだ。



『ふむ……では1度試してみるのはどうでしょう』



 試す?



『──魔人化を、です』

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