剣の里──④
◆
『本日は休養日に致しましょう。よく食べ、よく休み、よく鍛錬する。時間はありませんが、これも必要な時間です』
とかライガに言われたけど、スフィアのフルポーションのおかげで肉体的疲労はゼロなんだよな。
精神的にはかなりキツかったから、休みにしてくれて嬉しいけど。
剣の里内部は外敵の心配はない。
ライガにも散歩を勧められ、人生初個人で行動することに。
「傍に誰もいないなんて、不思議な感覚だな……」
いつもは絶対に誰かしら隣にいたからなぁ。
広大な剣の里を1人で歩く。
刃こぼれし、錆びつき、折れている剣達。
そんな剣達から顕現している剣精霊達が、みんな笑顔で遊んでいる。
そのおかげで一切寂しさを感じない。
剣の里。別名剣の墓。
墓と言ってもみんな楽しそうで……いいね、こういうのんびりした雰囲気も。
けどまあ遊んでると言っても、やってることは真剣でのチャンバラだけど。見てるだけでハラハラする。
そんな光景を見ていると、俺に気付いた剣精霊達がこぞって俺の元にやって来た。
『あーっ、お客さんのお兄ちゃん!』
『遊ぼっ、遊ぼっ!』
『チャンバラしよー!』
『たのしーよ!』
「えっ」
あー……どうしよう。一応、今日1日は休むことにしてるんだけどな。
だけどこんな純粋な目で見つめられたら、無下にもできないよね……。
「うん、いいよ」
『『『『やったーーー!!』』』』
少しチャンバラするくらいなら、逆にいい骨休めになるかも。
みんなに手を引かれ、ちょっとした広場に着いた。
チャンバラするにはかなりいい感じの場所で、普段からここで遊ぶことが多いらしい。
『ここで遊ぶのー』
『チャンバラ、チャンバラ』
『タイマンです』
『勝敗は審判がつけるわ』
『みんなとやるですー』
「うん、わかったわかった」
ちっちゃくてわちゃわちゃしてて、可愛いな。
広場の中央に立つ。
その周りを剣精霊達が囲い、1人の男の子が俺の前に立った。
『お兄ちゃん、構えて』
「うん」
腰からフラガラッハを抜く。
夜空のような漆黒の刀身。
アクアブルーに輝く刃。
そんなフラガラッハの輝きに、剣精霊達がザワついた。
『ほわぁ〜……』
『しゅごい……!』
『綺麗ね』
『こんなの見たことないです』
『とってもかっこいい!』
おお、褒められた。やっぱりフラガラッハが褒められると、俺まで嬉しいな。
俺と剣精霊が剣を構える。
その中央に立った別の剣精霊の女の子が、赤と白の旗を持っている。
『お兄ちゃんは白。剣精霊は赤です。殺すのダメ。傷つけるのダメ。審判の私の指示に従うこと。いいですね?』
『『『『あーい!』』』』
あぁ、可愛い。癒される。ホッコリ。
『それでは、構えて』
互いに剣を構える。
……流石、剣精霊なだけあり素人目にも隙がない。
対して俺は剣士の技能も付与されていない一般ピーポー。
構えも、剣士の技能を付与してもらった時に本能的に理解した程度のものだ。
洗練されたものでも、熟練したものでもない。
そんな対象的な俺達。
中央に立っていた審判が、息を大きく吸い込み、
『始めッ!』
始まった。
『ふっ──!』
ッ! 速い──!?
小さい体を利用した素早い動き。
自由自在な剣捌きに、チャンバラとは思えない気迫。
それに、一撃一撃が重い……!
上下左右。立体的な動きと、型にハマらない剣筋に圧される。
剣精霊って言うだけあるから、剣に精通しているとは思ったけど……こんなに強いだなんて……!
フラガラッハで何とか剣をいなして反撃する。
けど、俺よりこの子達の動きが正確すぎて何もさせてもらえないぞッ。
避け、かわし、いなす。
魔物との地獄の鬼ごっこで鍛えられた体力と最小限の動きで、なんとか食らいついてるけど……それでも、このままじゃ押し切られる……!
『えいっ!』
他の攻撃より大振りの攻撃……見えた、隙!
大振りの攻撃を弾いて、反撃を……!
『ハッ!』
「うっ!?」
う、腕が弾かれたッ。
まさかさっきの大振りはフェイク……!?
しまった、胴体がら空き……斬られる──!
『そこまで!』
ピタァッ──!
す、寸止め……正に紙一重だ。
『勝者、赤!』
『やったー! 勝ったー!』
「は、はは……参りました」
凄いわ、本当。
「みんなありがとう。俺、まだまだだってわかったよ。鍛えて強くなったら、またチャンバラで──」
『何言ってるです? 次は私です』
「……え?」
男の子に代わり、次は女の子が剣を構えて出てきた。
……えっとぉ。
『ここにいるみんな、お兄ちゃんと遊びたいです』
『みんなとやるまで帰さないです』
『楽しみましょ、お兄ちゃん』
『とっても楽しい無限チャンバラだよ』
『逃がさないですよぉ』
……………………………………。
ま、まさかライガの奴ッ……このことがわかってて、俺に散歩を勧めたなぁ!?
「ちょ、待っ……うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます