神隠し──⑧

「テイマーギルドもやりますね。ロウン、こちらも見せてあげましょう」

「おうよ!」



 ロウンさんが拳同士をぶつけて火花を散らす。

 同時にコルさんが詠唱を唱えた。

 余りにも早い詠唱。全く聞き取れない。

 詠唱が完成すると同時に、散らした火花が業火となってロウンさんの体にまとわりついた。



「《魔力付与エンチャント・フレイム》!」

「ぶちかますぜァ!」



 両腕から吹き荒れる業火。

 だがロウンさんが握り拳を作ると、業火は拳に集まり圧縮される。

 色が赤から青。青から白へ変化し。



「魔闘殲滅流──鬼殴打!」

「ヒッ──」



 近くにいる敵の腹部へと叩き込んだ!


 敵は恐怖の悲鳴を上げる。

 しかし魔法武器を腹部と拳の間に滑り込ませ、ギリギリの所でガードしたが──。



「オルァァァァアア!!」

「ゲバッ」



 魔法武器をへし折り、腹部へ直撃。

 体はくの字に折れ曲がり、勢いをそのままに防御シールドへと叩き付けた。



「ば、化け物──!」

「まだまだこれからだぜ!」



 いや、《魔力付与エンチャント》してるからって、魔法武器を破壊してる時点で化け物すぎるだろ……。



「ロウン、そっちは任せましたよ」

「おうよ!」



 コルさんは目を細め、戦いの中央にいる3人の魔術師へと目を向ける。



「あなた方も《魔力付与エンチャント》しているようですね。面倒なので片付けさせてもらいます」

「うっ……!」

「ひ、怯むな! こちらは3人! 過去にプラチナプレートも破っている!」

「手数で魔術図書を潰すぞ!」



 3人が魔法武器の杖を構えて詠唱を始める。

 この3人の詠唱も目を見張るスピードだ。


 だが。



「遅いですね」



 コルさんが杖で床を突く。

 次の瞬間、足元に水色の魔法陣が展開。

 辺りに冷気が立ち込め──3つの氷の槍が現れた。

 狙いを定め。



「なっ!?」

「無詠唱──」



 掃射。

 突然のことで反応できず、敵魔術師は抵抗することなく氷の槍に貫かれた。



「残念ながら無詠唱ではありません。この魔法杖には魔術を保存する力があり、その数は500。発動スピードは無詠唱の比では……って、説明しても無駄ですか。もう死んでますもんね」



 ……圧倒的すぎる……。

 破壊力が群を抜いているロウンさん。

 その力を更に引き出しつつ、自分自身の戦闘力も並ではないコルさん。


 しかも、2人ともまだ全然本気じゃなさそう。

 これがバトルギルド、ミスリルプレートの力……。



「2人とも、やる気満々だな。なら俺も少しやる気を見せよう」



 ゾッ──。


 な……なんだ……? アシュアさんの圧が、1段高まった……!


 全身の毛が逆立つような圧。

 その圧に、敵味方関係なく一瞬動きが硬直した。

 鞘から鈴を鳴らしたような音と共に、剣が引き抜かれる。

 それと共に、アシュアさんの周りに小さな白い光が灯った。


 大きくなった光同士が合体し、更に大きな光となってアシュアさんを包み込む。



「初お披露目だ。──《剣聖の加護》」



 直後、炎のように揺らめく光が、七色に変化。

 瞳も七色に輝き、底知れない何かを放つ。



「け……《剣聖の加護》!?」

「馬鹿な! 《剣聖の加護》はターコライズ王国の剣士に授けられている唯一無二のスキルだぞ!」

「何故貴様が……!」



 えっ、そうなの?

 ターコライズ王国に剣聖のスキルを持ってた人がいたんだ……。



「さあね。でも、今は俺が持っている。これは動かない事実だ」



 確かに。

 あれが剣聖の試練で手に入ったスキルだとすると、ターコライズ王国の剣聖はスキルを失ったことになる。


 ……何故?



「そんなこと気にする余裕があるなら、自分の命を守った方がいいよ。……このスキルを使うと、ちょっと加減できないから」

「ッ! 逃げ──」



 一瞬、アシュアさんの姿がブレる。

 直後に響く不協和音。

 だけど……何も、起こらない?

 何をしたんだ、アシュアさんは?


【紅蓮会】も首を捻って互いに顔を見合わせる。



「な、何だ……?」

「何も起こらない……?」

「……い、今がチャンスだ!」

「そうだっ、今のうちにやちゅをろぉら?」

「お、おいどうしだろろろろろろろろ」



 グシャアッ──。


 え……ぁ……え……?

 い、一瞬で……10人もミンチに……!?



「《剣聖の加護》。俺の中に眠る潜在能力を引き出し、更に戦闘力を倍増させるスキル。……英雄の力、見るがいいよ」



 え……えぇ……化け物すぎん、この人ら。

 これ、俺完全にいらん子じゃん。

 敵の人数も残り8人。

 しかもほとんどが戦意喪失状態だ。




 そう、ほとんど、、、、


 ……リーダー格の男を除いて。

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