神隠し──⑦

   ◆



「やあコハク。そこにいたんだ、気づかなかったよ」

「超光学迷彩っていう化学の力で……って、今はそれどころじゃないですね」



 前には俺とレオンさん。

 後ろにはアシュアさん、コルさん、ロウンさん。

 上にはトワさん、ザニアさん、コロネさん。

 プラスして使い魔各種。


 圧倒的かつ絶望的な戦力差。

 レオンさんが過剰戦力と言ったのも頷ける。

 43人の悪党に対しては、余りにも過剰すぎる力だ。


 それなのに……あのリーダー格の男からは、不穏な気配がする。

 余裕……とも違う。なにかする気だな。



『ご主人様。《技能付与エンチャント》致します』

「頼む」



 スフィアが剣士の技能を付与した。

 細胞の1つ1つが、剣士の力を得ていく。

 それを自覚していると、隣のレオンさんが「へぇ……」と目を見開いた。



「雰囲気が変わった……剣士の心得でもあるのかい?」

「まあ、ちょっと裏技を使いまして」

「……やはり思っていた通りの人材だ、君は」



 ……思っていた通り? どういう意味だろう。

 それを聞こうとすると──俺の肌を殺気が貫いた。



「クレア!」

『ええ!』



 咄嗟にクレアが俺の前に躍り出ると、指を鳴らした。

 次の瞬間、目の前まで迫っていた炎の槍が霧散する。



「っ! 魔法の強制解除……!?」

「馬鹿な! 魔術図書は動いてすらないぞ!」



 ああそうか。クレアが見えない奴から見たら、突然魔法が掻き消されたように見えるのか。



「くそっ! 武器を取れ!」



 リーダー格の指示で、全員懐にしまっていた武器を取り出す。

 あの武器から放たれる感覚──間違いない。



「魔法武器か」

『はい。全て魔法武器と思われます。その中で……15本は、ザッカスさんの銘が刻まれています』



 やっぱりそうか。

 特にあのリーダー格の持っている魔法武器。あれからやばい空気を感じる。



「総員、あの男を殺せ! 奴がこの見えない結界を維持している!」

「「「「「おおおおおっ!!!!」」」」」



 野太い声と共に、【紅蓮会】が全員俺へ向かって駆け出した。



「コハク、1人でも大丈夫?」

「はい。俺には皆がいますから」



 俺を守るように威嚇しているフェンリル。

 傍から離れず、腕をミサイル砲にして構えるスフィア。

 両腕に炎を灯しているクレア。


 戦闘準備万端って感じだ。



「わかった。なら……こちらも行かせてもらう!」



 レオンさんが駆け出し、アシュアさん達も走る。

 それを合図に、屋根から黒獅子と妖精種フェアリーも飛び出した。



「クルシュちゃんは、ここでお留守番ですよぉ〜。あなた、おっきいですからぁ〜」

「グルルル……」



 ちょっと寂しそうなクルシュ可愛い。


 レオンさんがクリスタルの槍を構え、横薙ぎに払う。

 それだけで敵が5人吹き飛ぶ。

 更にコルさんは水の槍を連射。

 ロウンさんも一殴りで複数の敵を吹き飛ばした。


 が……敵は受身を取り、すぐさま反撃してくる。



「へぇ! やるじゃねーか!」

「動きはゴールド並……中にはプラチナに近い人もいますね」



 確かに、このスピードと体捌き……並のハンターじゃ相手にもならないだろう。

 ミスリル3人、ギルドマスター1人。獣王種キング妖精種フェアリーを相手にしてこの動きは尋常じゃない。



「くっ! 総員、まずは周囲から削れ!」



 リーダー格の指示の元、4人から5人のチームになった。

 鋭い剣筋、絶妙なコンビネーション。

 更に何人かいる魔術師や魔法士が、タイミングよく援護している。

 よく訓練された動きなのは明白だった。



「あらら。ダリィなぁ。俺の使い魔、狭いところの戦闘が苦手なんだけど……ノワール、ネロ。ちょっと本気出していいよ」



 ザニアさんの言葉に、黒獅子2体ノワールとネロの黄金の目が妖しく光る。

 筋肉が隆起し、2体の体が一回り大きくなる。


 直後──その巨体からは考えられないスピードで近付き。



「速ッ──」



 前脚を振るい、防御シールドと挟んで敵を叩き潰した。

 相手も決して弱くはない。むしろ、俺とタイマンで戦えば間違いなく俺が負けるだろう。

 それが、まるで潰れたカエルのように息絶えた。



「ふむ。アイレ、アネモス、リーフ。ザニアの獣風情に遅れを取るな。蹂躙せよ」



 コロネさんの指示により、妖精種フェアリー3体の体が緑色に輝く。

 あれは……妖精種フェアリーの魔法、自然同化か。


 自然同化。

 妖精種フェアリーは自然の力をその身に宿し、自然と一体になることで莫大な力を得るらしい。

 妖精種フェアリーの色によって同化できる力は決まっているらしいが……あの色、それにこの魔力。3体共、風の力を得ているみたいだ。


 アイレ、アネモス、リーフが両手を前に突き出す。



「っ! 逃げ──」



 次の瞬間。3体から放たれた突風により、目の前にいた4人が防御シールドに叩きつけられて絶命した。



「ふん。他愛もない」

「ちょっとちょっと。俺の大切なノワールとネロを獣風情ってのは聞き捨てならないよ」

「男など全て獣。それは貴様も同じことだ、ザニア」

「いやいや、俺ちゃん紳士よ?」

「黙れ。去勢するぞ」

「しどい」



 ……凄い……なんと言うか、使い魔に任せっきりじゃない。

 ちゃんと指示を出し、使い魔の力を引き出している。


 そう言えばトワさんも、《魔力付与エンチャント》を使って黒龍クルシュの力を底上げしていた。


 使い魔達が好きに力を使うだけじゃなく、使い魔の力を上げて手助けする……。


 これが、テイマーの本当の戦い方か……。

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