神隠し──⑨

「きょ、教主様ッ」

「助けてください教主様……!」

「こっ、こっ、このままじゃ……!」

「…………ふむ」



 確かに、このままじゃ奴らは全滅だ。

 だがあれだけいた信者も、あと8人のみ。

 当然、俺達は逃がすつもりはない。


 それなのに……教主呼ばれる男は、未だに焦った様子を見せない。

 レオンさんも訝しむように目を細めた。



「こんな絶望的な状態でその余裕……何か隠しているな」

「ふむ……隠している、というほどのことでもないが──潮時か」



 教主が掲げた剣。

 どす黒いオーラが滲み出ている、禍々しい刀身だ。

 明らかに普通の魔法武器じゃない。


 でも……おかしい。

 あんなものをザッカスさんが作ったのか……?


 皆にバレないよう、隣にいるスフィアに小声で話しかける。



「スフィア、あの魔法武器って、ザッカスさんの作ったものか?」

『違います。あれが作られたのは300年前……斬った相手の魂を刀身に封印する呪われた魔法剣、魂魄喰らいです』

「斬った魂を? ……封印するとどうなるんだ?」

『魔力に変換され、刀身の斬れ味を高め……持ち主本人の、狂気を呼び覚まします』



 狂気を呼び覚まします?

 聞き慣れない言葉だ。どういう意味なんだ?

 そのことを聞こうとした次の瞬間──野太い断末魔が上がった。



「え……!?」



 嘘……信者を……味方を斬りつけた!



「教主様!?」

「な、何をっ……ぎゃあああああああああ!?!?」

「何をなさるのですかっ、教主さ……あああああああああああぁぁぁ!!」



 1人、また1人と斬り殺す教主。

 乱心したのか、呪われた魔法剣に取り憑かれたのか。

 とにかく狂気じみた光景だ。



「ん〜? トワちゃん、あれはちょーっとヤバい気がするよ」

「ですねぇ〜。クルシュちゃん」

「ゴルアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」



 ブレスッ──!

 やばっ、このままじゃ焼け死ぬ!



「クレア!」

『ええ!』



 ブレスの熱波をクレアが掻き消す。

 敵以外、この場にいる全員に熱波が届く前に守りきることができた。



「ふぅ……ちょっとトワさん!」

「怒らないでくださいよぉ〜。コハクさんがいるから大丈夫だって思ってましたからぁ〜」



 だからって事前打ち合わせとかできるでしょうに!

 だけど、これであいつらは……。



『嘘……コハク、あれ!』

「え? ……なっ……に……!?」



 もうもうと立ち込める煙の中に佇む人影。

 あのブレスを食らって、傷1つ付いてないのか……!


 魂魄喰らいを手にした教主。

 最後の1人になっているにも関わらず、フードの端から見える口元には狂気の笑みな浮かんでいた。



「おぉ……おぉ、おぉっ、おおっ! 偉大なる火を司りし、大いなる精霊よ! 今こそ! 今こそ我ら最大の信仰をお受け取り下さいェ!」

『いらないわよ気色悪い!』



 クレアの怒りも尤もだ。

 だが……こいつ、何をする気なんだ?


 魂魄喰らいを逆手に持ち、剣先を自分自身の喉へ突きつける。



『自殺かな? 自殺かな?』

「どうだろ……」



 それなら俺らも楽でいいけど……俺の脳内危険警報がビンビンに鳴ってやがる。

 これは、そのままやらせちゃまずい!

 レオンさんもそう感じたのか、慌てて槍を構えて床を蹴る。



「アシュア、奴を仕留めろ!」

「了解!」



 しかし、それよりも1歩早く。




「【紅蓮会】に幸あれ! 外道魔術──《呪縛覚醒》!」




 自分の喉に、魂魄喰らいを突き刺した。


 直後、闇色の何かが教主の体から吹き荒れ、暴走する。

 神経を逆撫でされるというか、近くにいるだけで嫌悪感で気が狂いそうになる。


 いったい、教主が何をしたのかはわからない。

 でもこれだけは言える。


 今から出てくる『ナニカ』は、ここで仕留める必要がある!



「な、何だあれは!」

「おいおい。やばいんじゃないのこれ」

「これはちょっとまずいですねぇ〜」



 頭上から聞こえてくるトワさん、ザニアさん、コロネさんの声。

 それよりも近くでこの圧を感じている俺達は、言葉すら発することができずにいた。


 高まる重圧。

 本能で察する嫌悪感。

 だけど、この場から1歩たりとも動くことができない。


 動いたら即死。

 そう予感させる何かが、闇の渦の中心から放たれる。



『この気配……スフィア!』

『ええ、間違いありませんね』

『あぁ、出ちゃったかぁ……』



 クレア達、何かに気付いてるのか……?



「な、なあ。あれは何なんだよ……!」

『……あれこそが、剣神ライガの言っていた封印されし4つ目の種族、、、、、、です』



 封印されし、て……まさか……!?



『【紅蓮会】が信仰していたのは、火精霊ではありません。正確には、火精霊の名を騙り、生贄を捧げさせ自分自身の封印を弱めていた最悪の種族』



 スフィアの目が嫌悪と憎悪に歪み。



『──魔族が、復活します』



 予想通りの言葉が飛び出した。

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