神隠し──④

   ◆



 部屋には既にスフィア達が戻っていた。



『コゥ、おかえり!』

『お帰りなさいませ、ご主人様』

「うん、ただいま。……その様子だと見つかったみたいだね」

『はい』



 スフィアの目が光り、ホログラムの地図を出す。

 今俺達がいる場所を青い点。

【紅蓮会】のアジトがある場所を赤い点で表示した。


 これは……どうやら街中じゃないみたいだ。

 場所からしてアレクスの外。

 ホログラムマップを見るに、古びた教会だな。



『こちらが【紅蓮会】のアジトになります。現在この場にいたのは13人。話を聞く限り、構成人数は42人ほどです』

「かなり多いな……特徴は?」

『この場にいた人間は全員赤いローブを着ていました』



 と、ホログラムで赤いローブを着た人影が映し出された。

 フードを目深にかぶり、頭から足まで覆う長いローブだ。

 その数13人。



「身長差はあるけど、これだけじゃ男か女かもわからないか」

『フェンリルが臭いで判断した結果、男が9人。女が4人だそうです』

『オスとメスのにおい、わかりやすい!』

「なるほど。でかした、フェン」

『えへへ~』



 フェンリルの頭を撫でると、わかりやすく尻尾を振った。

 でも男女の人数はわかっても、どこの誰かわからないんじゃな……。

 ……考えても仕方ないか。



「……今からトワさんと一緒にバトルギルドに向かう。アシュアさん達も、【紅蓮会】を壊滅させたいだろうし。味方は多いに越したことはない」

『ダッカスの仇だもんね!』

『確かに、逃げられるようなことがあってはなりませんから』



 子供は人類の宝だ。

 未来ある少年少女を殺させるような真似、断じてさせない。



『それともう1つ。調査した結果、直近の失踪事件と3年前の失踪事件は新月の夜に発生していたそうです』

「新月……次の新月はいつ?」

『3日後です』



 3日か……。

【紅蓮会】にばれないように秘密裏に対策するとなると、間に合うか微妙なところだ。

 だけどやるしかない。

 俺だけじゃ不安だが、この街には俺に味方してくれる人が沢山いる。


 だから……大丈夫だ。



   ◆



 バトルギルド。

 戦闘職だけを集め、争いごとにおいては右に出るギルドはいない最強のギルド。

 トワさんに声を掛けてここまで来た。

 運よくアシュアさんにも会えた。

 それにコルさんとロウンさんも一緒にいた。

 そこまではいい。


 だけどそこに、第三者が居合わせたのだ。


 一見少年のように見える男。

 黒髪に赤い瞳。

 でも、そこにいるだけで圧倒的な威圧感を放つ。


 この人が、バトルギルドのギルドマスター……レオン・レベラードさんか。


 ミスリルプレートのアシュアさん達と同じ……いや、それ以上の存在感を感じる。

 バトルギルドを腕っぷし1つで纏め上げてるだけある。


 しかし、だ。



「やあトワ。久しぶりだね。相変わらず化粧が濃い。シワ隠しかな?」

「ええ、久しぶりですねぇ~おチビさん。少しは身長は伸びましたぁ~?」

「ははは。俺は身長を伸ばす分の才能を全て天職に注いでいる。君こそ、無駄にでかいだけの乳に才能を持っていかれて龍種ドラゴンを扱いきれてないじゃないかい?」

「ふふふ。身長が伸びない劣等遺伝子が何を言っても僻みにしか聞こえませんねぇ~。なんなら慰めてあげましょうかぁ~?」

「ははははは」

「ふふふふふ」



 うーん……空気が重い!


 バトルギルドのギルドマスター室。

 トワさんとバトルギルドのギルドマスターは、さっきからこの調子でバチバチに睨み合っている。

 明らかに仲が悪い。なんで?


 我慢できず、隣に立っていたアシュアさんに声を掛けた。



「あの2人ってなんで険悪なんですか?」

「あー……昔、色々あったらしい。俺も、まさかこんなタイミング悪くあの2人がかち合うとは思わなかった……」

「なんか、すみません」

「コハクくんの謝ることじゃないよ」



 それにしても仲が悪すぎる。

 こんなんじゃ話が進まないんだけど。



「……コハク? ああ! 君が幻獣種ファンタズマテイマーのコハクか!」

「えっ……あ。は、はい。そそそそうです」



 唐突に話し掛けられてめっちゃどもった。恥ずかしっ。

 レオンさんは満面の笑みでソファーから立ち上がると、まるで値踏みするように俺の頭から足先をじろりと見る。



「……うん、いいオーラだ。魂の高潔さを感じる」

『! ごごごご主人様! この人絶対いい人です!』

『コハクの聖なる魂のよさに気付くなんて、見る目あるわねこいつ!』

『ちっちゃいけど!』



 君達、俺がちょっと褒められただけでちょろすぎません?



「──む……いるな、そこに」



 ……え。

 レオンさんの視線の先。

 スフィア、クレア、フェンリル。

 この3人がそこにいた。



「み、見えるんですか!?」

「いや、見えはしない。だが、気配は強く感じる。3体いるね。凄まじい強さだ」



 そ、そんな……今まで気配を探知できる人すらいなかったのに……!

 ……この人、いい人かも。



「レオン。うちのハンターに色目を使うの止めてもらえます? ……食い散らかすぞ」

「……へぇ。前線から退いて腑抜けたと思っていたが、見当違いだったらしい」



 2人の視線が交錯する。

 それだけで、空気の密度が濃くなった気がした。



「……まあいい。こんなことをしに来たんじゃないだろう、君も」

「ええ。私としてもこんなことで時間を奪われたらたまったもんじゃありません」

「じゃ、コハク。また後で話そう」

「あ……はい」



 え、俺に話し、ですか?

 何言われるんだろう。怖い……。



「それで、要件は?」



 レオンさんがソファーに座って続きを促す。



「……【紅蓮会】の足取りについてです」

「「「「────ッッッ!」」」」



 この場にいる全員の目が見開かれた。

 コルさんがずれた眼鏡を上げ、平静を保って口を開く。



「【紅蓮会】、ですか……あの事件以来大人しいとは思っていましたが……」

「また動き出したってのか、あのクズ野郎ども!」



 ロウンさんが激高し、壁を殴って簡単に穴を空けた。

 それに対して誰もなにも言わず、レオンさんは腕を組んで黙考する。



「……トワ。間違いないのか?」

「ええ。うちの優秀なコハクさんが調べてくれたので、間違いないかと~」

「……コハク。詳しいことを教えてくれ」

「わかりました」

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