神隠し──③

【紅蓮会】。

 この言葉に、皆ピクっと反応した。


 3年前にダッカスさんを死に追いやった、非合法の組織。

 話にしか聞いていないけど、このやり口……。



『ちょ、それ本当なの?』

「間違いないだろうね」

『外道め……!』



 クレアの体が怒りで燃え上がる。

 比喩ではなく、物理的に、



『スフィア! そいつらの場所を今すぐ教えなさい!』

「クレア、ストップ」

『どうして! 火精霊を崇めてるなんて言われてるのよ! 私の名誉を傷つけてる! 無関係じゃないわ!』

「君の怒りはわかってる。でも、落ち着いて」



 クレアの頬をそっと撫でる。


 ぐっ、熱い──!


 クレアの炎で焼かれる右手。

 呆然としていたクレアも、直ぐに炎を消した。



『コハク、あんた何で……!』

『ご主人様っ!』

『コゥ! 大丈夫!?』



 皆、直ぐに駆け寄ってきてくれた。

 スフィアが上級回復薬を振りかけると、見る見ると傷が治っていく。

 本当、優しい子達だ。



『あなた! 我らが主を傷付けるなんてッ……それでもご主人様に仕える幻獣種ファンタズマですか!』

『ガルルルルルッ──!』

『な、なによ! 私のせいだって言うの!? 私だって好きでコハクを傷付けたりしないわよ!』

『そもそも怒りに任せて炎を出したのが半人前だと!』

『はあぁっ!?』



 …………。



「皆──落ち着け」

『『『はっ』』』



 俺の一言で跪く3人。

 本当はこんな風にされるのは嫌いなんだけど。



「わざとじゃないっていうのは、俺がよくわかってる」



 クレアの頭を撫で、次いでスフィア、フェンリルの頭も撫でる。



「ただ、熱くなりすぎ。確かに今から【紅蓮会】に乗り込んで組織を潰すのは簡単だ。でも1人でも逃がせば、同じような組織が作られかねない」



 3年前、ダッカスさんが【紅蓮会】の壊滅へ向かったとき、抵抗できずに殺されたとは考えづらい。


 あの人のことだ。絶対半数以上は道づれにしてることだろう。



「壊滅寸前に追いやられてなお、3年掛けてでも人数を集めて再興した。それ程執着してる組織だ。一網打尽にしないといたちごっこになる」

『……わかったわ。ごめんなさい、焦っちゃって』



 シュンとするクレア。

 頭を撫でると、ほにゃっとした顔で俺の肩に飛び乗ってきた。



「ここからは二手に分かれる。俺とクレアはギルドへ情報の提供。スフィアとフェンリルは、アジトの場所を突き止めてくれ」

『うん!』

『承知しました』

『ワオーーーーンッ!』



 よし、じゃあ……。



『あ……少々お待ちください、ご主人様』

「ん? どうしたの?」



 む、珍しくスフィアがモジモジしてる。

 バツが悪そうに目を逸らしていたが、意を決してクレアを見つめた。



『な、なによ……』

『……先程は感情的になり、言いすぎてしまいました。申し訳ございません……クレア』

『ごめんね、クレア』



 おぉ……あの2人がクレアに謝ってる。

 特にスフィア。あれほど犬猿の仲だったのに……。



『……私こそごめん。熱くなっちゃって……』

『いえ。……最悪の組織に勝手に崇められて、子供を捧げられているあなたの気持ちを考えると、感情的になる気持ちもわかります。……ご主人様の護衛、任せましたよ』

『……ええっ、任せなさい!』



 うんうん。やっぱり、皆仲よしのほうが俺も嬉しいよ。



「じゃあ、後で宿に集合。行け」

『『『はっ!』』』



   ◆



 宿を飛び出し、テイマーギルドへと向かった。



「サリアさん」

「あら、コハクさん。今日は遅かったですね」

「ちょっと色々ありまして……トワさんいます? 話したいことがありまして」

「マスターですか? いますよ。少々お待ちください」



 サリアさんがギルドの奥に引っ込むと、しばらくして戻って来た。



「コハクさん、こちらへ。マスターの許可が降りました」

「ありがとうございます」



 サリアさんに続き廊下を歩く。

 そういえば、トワさんとは久々に会うな。



「マスター、コハクさんをお連れしました」

「はぁ〜い」



 この間延びした声。相変わらずみたいだ。


 中に入ると、女性特有のいい匂いに包まれた。

 ファンシーな内装の部屋。

 トワさん自身の匂いなのか、鼻腔をくすぐる匂いに男心がざわつく。



「コハクさん。お久しぶりで〜す。お元気でしたかぁ〜?」

「お久しぶりです、トワさん。すこぶる元気ですよ」

「ふふふ、それはよかったです〜。さあ、ソファーに座ってくださ〜い。今紅茶をいれますねぇ〜」

「ありがとうございます」



 勧められるままにソファーに座る。

 紅茶を入れているトワさんの背を横目に、早速本題を切り出した。



「トワさん。街で噂されている件は知っていますか?」

「唐突ですねぇ〜。噂の類いは色々と聞きますがぁ〜……直近では、子供の神隠しですかねぇ〜」

「では、神隠しの正体はわかっていますか?」

「いえ、そこまでは……1ヶ月に1人の頻度でしか起こらない上に、まだ3回。場所もランダムなので足取りも掴めていません」



 トワさんも切羽詰まってるのか、いつもの間延びした声ではなく、真面目な口調になっていた。



「神隠し、もしかしたら解決するかもしれません」

「……何かわかっているのですね」

「はい」



 入れてくれた紅茶を飲み、推測も含めて話した。

 この失踪事件には、【紅蓮会】が動いてる可能性があることを。



「【紅蓮会】……3年前のあれ以降、大人しいとは思っていましたが……」

「あくまで可能性ですが」

「いえ、考えると3年前も同様の手口でした」



 やっぱりか。



「トワさん、【紅蓮会】の情報を教えてください。お願いします」

「……わかりました。本来ならプラチナプレート以上にしか開示できない決まりですが、コハクさんなら大丈夫でしょう」



 トワさんから【紅蓮会】の情報をあるだけ聞き、俺とクレアはギルドを後にした。



『儀式の時じゃないと、信者は全員集まらない、か……つまり今月の子供が攫われたタイミングじゃないと、一網打尽にできないって意味よね』

「ああ……とりあえず、宿に戻ろう」

『ええ』

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