神隠し──⑤

   ◆



「──わかった、信じよう」



 簡単に説明しただけなのに、あっさりと信じてくれた。



「……信じてくれるんですか?」

「うん。アシュアから君のことは聞いているから。アシュアが信じる君を、俺は信じるよ」

「……ありがとうございます」



 深々と腰を折るとレオンさんは立ち上がり、アシュアさん達を一瞥した。



「お前ら、ダッカスの弔い合戦だ。次で【紅蓮会】を潰す」

「了解」

「腕が鳴るぜ!」

「絶対逃がしません」



 闘志を燃やしてる3人。

 バトルギルドのミスリルプレートが味方にいるんだ。これほど心強いものはない。



「テイマーギルドからも、ミスリルを2人出しますねぇ〜」

「あいつらか……助かる」



 そういえばテイマーギルドのミスリルプレートには会ったことないな。

 どんな人達なんだろう。



「今回は人数が多すぎるとバレる可能性がある。ここにいるメンバー。それとテイマーギルドからのミスリルプレートが2人。合計8人で対処する」



 当たり前のように俺もメンバーに組み込まれてるのね。

 まあ、自分で言うのもなんだけど、幻獣種ファンタズマの3人がいれば足でまといにはならないだろう。


 しかし問題は、どうやってその組織をおびき出すか……。



「マスター、よろしいですか?」

「コル、なんだ?」



 コルさんが1歩前に出ると、俺の考えていた問題を口にした。



「3日後に奴らが子供を攫い、儀式を行うことはわかりました。ですが、これ以上子供達を危険な目には合わせられません。子供達を被害に合わせず、奴らを一網打尽にする策が必要です」



 そう、奴らは神出鬼没。

 それこそ、神隠しなんて呼ばれるほどに。


 子供達は巻き込まず、秘密裏に動く策。

 それを考えているが、何も思い浮かばない。



「ふむ……わかった。ならこうしよう。まずは街に神隠しの噂を流す。子供達の安全を守るために。それから──」



 レオンさんが作戦を話した。

 目を見張るような、だけど確かに上手くいきそうな作戦だ。



「トワ、テイマーギルドの方でも噂は流してくれ」

「……っ……わかり、ました……ぷっ」

「殺すぞ」



 トワさん、今ばかりは笑いをこらえるの我慢してください。

 ほら、レオンさんガチギレしてますから。



「こほんっ、では私達はこれで失礼します〜。コハクさん、行きますよぉ〜」

「あ、はい。皆さん、また後日」

「ああ。コハクくん、やってやろう」

「お互い頑張りましょう」

「ギッタギタにしてやろうぜ!」



 アシュアさん、コルさん、ロウンさんが突き出してきた拳に、俺も拳をぶつける。

 こういうの、ハンターらしくてちょっと嬉しい。



「じゃあコハク。またね」

「はい。レオンさん、失礼します」



 しかし、俺は気付かなかった。

 この時レオンさんが……不敵な笑みをこぼしていたのを。



   ◆



 3日後の夕方。


 場所はテイマーギルドのギルドマスター室。

 今ここに、俺とトワさん以外の2人の人間がいた。



「【紅蓮会】ねぇ。まーたアイツらやってんのかい。ダリィ……」



 ボサボサの黒い天パは目元まで伸び。

 よれた服は気崩され。

 口元には無精髭。

 その背後には漆黒の獅子が2体。

 胸元には、テイマーギルドのミスリルプレートが光っている。


 獣種ビーストの中でも、獣王種キングしか使役できない異端児。


 獣王種キングテイマー、ザニア・ウルクライン。



「ザニアァ! 貴様、相も変わらずたるんでおるな! そこに直れ! 矯正してやる!」



 淡いクチナシ色のロングヘアーを緩い三つ編みにし。

 瞳は燃えるような赤。

 赤と白が入り交じった軍服のような服を着ているが、豊満な胸は隠しきれていない。

 背後には人間と同じような姿を持つ、半透明の魔物が3体。

 胸元には、ザニアさんと同じくテイマーギルドのミスリルプレートが光っている。


 自然種ナチュラルの中でも超希少種、妖精種フェアリーを使役するテイマー。



 妖精種フェアリーテイマー、コロネ・ザンバート。



「コロネちゃ〜ん、怖い顔しないでぇ。ま、怒った顔も可愛いんだけどねぇ」

「去勢するぞ貴様。私に触れるな」



 ……この人達が、テイマーギルドのミスリルプレート……。



「想像と違う、って顔してますよぉ〜」

「えっ!? あ、いやぁ……」



 流石トワさん、鋭い。

 しれっと目を背けると、コロネさんとザニアさんが俺を睨めつけた。



「貴様が幻獣種ファンタズマテイマーか?」

「あ……はい。コハクと言います」

「へぇ〜。いい面してるじゃない」



 ザニアさんは楽しそうに笑い、フェンリルの方を見る。



「天狼フェンリルか。あの月食い伝説と依頼を共にできるなんて光栄だよ」

「……見えてるわけじゃないですよね?」

「ああ。俺の使い魔、黒獅子が教えてくれた」



 月食い伝説……?

 見ると、ザニアの後ろに控えている2体の黒獅子がフェンリルの前に頭を垂れた。



『うむっ、くるしゅーない!』



 フェンリル、偉そうだなぁー。

 いや、獣界の中では神様みたいな存在なんだろうけど。



「ふむ、火精霊クレアか。原初の炎を使役するとは、コハク殿は素晴らしい才覚を持っているようだ」



 原初の炎?

 コロネさんの使い魔もクレアの前に跪く。



『あんたら、そんな堅苦しくなくていいわよ』



 やっぱりクレアも偉かったりするんだな。


 ……思えば、フェンリルやクレアについて俺って何も知らないな。

 後で幻獣種ファンタズマについて調べてみよう。



「さてぇ〜、顔合わせは終わりましたね〜? ……ではこれより【紅蓮会】殲滅へと向かいます」

「了解」

「へいへい」

「わかりました」

「では、行きましょう」



 遂に始まる。

 ダッカスさん、見ててください。

 絶対にあいつらを終わらせます。

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