神隠し──②

 女将さんからお金を預かり、フレデリカちゃんと宿を出た。


 こうしてゆっくり大通りを歩くのは初めてだ。

 いつもはギルドと宿の往復だったから、ちょっと新鮮。


 あっちをキョロキョロ。

 こっちをキョロキョロ。

 そうしてると、隣のフレデリカちゃんが可笑しそうに笑った。



「どうしたの?」

「いえ。なんだかお兄ちゃん、子供っぽいところもあるんだなって思って。ちょっと可愛いです」



 なんと。これでも真っ当に不純な大人って自覚はしてたんだが。

 いかん。ここはしっかり、ピシッとしないと。

 背筋を伸ばし、キリッとした顔をする(当社比)。



「ふふ。可愛いです」

『ほう。フレデリカ様、よくわかってらっしゃる』

『コハクってたまーにすごく可愛いのよね』



 ……解せぬ。


 そのまま、軽く世間話をしながら大通りを歩いた。



「お兄ちゃんってハンターさんなんですよね? 今までどんな魔物と戦ったんですか?」

「でっかい蜘蛛と戦ったよ」

「蜘蛛さんですか? どのくらい大きいんですかね? 私くらい?」

「宿フルールが押し潰されそうなくらいにはでかかったな」

「ええっ!? そんなの街に出たら、みんなぺっちゃんこです!」



 絶望的な顔をしているフレデリカちゃん。

 いいリアクションだ。話がいがある。



「ああ。でも皆のおかげで無事倒せたよ」

「みんな?」

「ほら、俺テイマーだから」

「あっ、なるほど! ……お兄ちゃんの使い魔さん、どこにいるんです?」



 あっ……あー、しまった。どう説明したらいいか……。



『全く、仕方ないわね』



 え、クレア?

 クレアはフレデリカの頭の上に座ると、炎を灯した指で空中に何か書いた。



『はじめまして、フレデリカ。私はコハクの使い魔、クレアよ』

「! 火の文字が……!」

『訳あってあなたには見えないけど、こうして文字でなら会話はできるわ』

「そうなんですね! はわわっ、見えない使い魔さんっ、はじめまして……!」



 え、信じた……?

 フレデリカちゃんが信じたことに困惑してると、スフィアが説明してくれた。



『子供はいい意味で単純ですからね。もし大人に同じようなことをやったとしても、ご主人様が何か策を弄したとしか考えないのです』

「なるほど……」



 幻獣種ファンタズマが文字を書いてるなんて説明しても、大人は信じないか。


 2人が楽しそうにしているのを見ながら、大通りを進む。


 すると。



「ねえ、聞いた? 子供の失踪事件……!」

「先月で3回目だってさ……」

「1ヶ月に1人……怖いねぇ」

「今月はまだだってよ」

「神隠しだって噂だぜ」



 ……なんだろう。神隠し?

 なんだか不穏だな……。



「フレデリカちゃん、神隠しって聞いたことある?」

「神隠し、ですか? いえ、ないです」

「そう……」



 井戸端会議の内容からすると、昨日で3人の子供が消えたみたいだ。

 1ヶ月に1人……神隠しか……。



「フレデリカちゃん、おつかいして急いで帰ろうか」

「えー。もうちょっとデートしましょうよ!」

「だーめ。大将もスパイスがなくて困ってるだろうし、急ごうね」

「むー。あーい」



 むくれるフレデリカちゃんの頭を撫でると、嬉しそうに笑顔になった。



『ご主人様』

「ああ。調べてくれ」

『かしこまりました』



 スフィアの目が妖しく光る。

 そのまましばし。



『──検索にかかりません。神隠しという事象は存在しませんね』

「そうか……」



 てことは、人為的なものか。

 それとも幻獣種ファンタズマが関係するものか……。

 いや、幻獣種ファンタズマはこういうことはしない。


 だけど……月に1度子供が消えたって、どこかで聞いたことがある。

 どこだ……どこで聞いたんだ?






『月に1度15歳未満の子供を誘拐して生きたまま燃やす──』






 あ。



「お兄ちゃん? お顔こわいよ?」

「っ! ……なんでもないよ。さ、行こう」

「うんっ」



   ◆



 目当てのスパイスを買い、宿に戻ってきた俺達。

 今日はギルドに向かわず、部屋に引きこもった。



「スフィア。これってまさか……」

『ええ。私も同じことを考えてました』



 やっぱり、スフィアも気付いてたか。



『なになに? 何の話?』

『わかんない』



 クレアとフェンリルがこてんと首を傾げた。



「どうやら、1ヶ月に1人の頻度で子供が失踪する事件が起きてるらしい。神隠しって噂だ」

『神隠しねぇ……でも、コハクはそうは思ってないんでしょ?』

「ああ。思い当たる節がある」



 アシュアさんが言っていた。

 子供を誘拐し、火の精霊に捧げるため生きたまま燃やす非人道的な組織。






「【紅蓮会】が動いてる可能性が高い」

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