剣聖の試練──⑤

 女の子達に、村の中を案内してもらう。

 村民は笑顔に溢れているが、まだ建物はぼろぼろのまま。

 いくつかは建て替え工事をしてるみたいだ。



「すごいな。村の人達の表情も、まるで別人だよ」

「これも土地が豊かになった恩恵でしょうね」



 見ると、畑には鮮やかな色の野菜がなってる。

 箱詰めして、あれを他の都市に売ったりしているみたいだ。


 これがつい先日まで寂れた村だったなんて、信じられないな……。


 決して大きくはない村を進む。

 村は高齢化が進んでるのか、ほとんどが老人ばかり。

 何人か若い人がいても、片手で収まる程度だ。

 まだ俺の生まれ育った村の方が若者がいる。


 そんな感想を抱いてると、1軒のボロ屋の前に止まった。



「アシュア様、お付の方。こちらが村長の家です」

「ありがとう」

「ありがとうございます」



 いやお付の方って。

 まあ、バトルギルドのミスリルプレート(イケメン)と、テイマーギルドのシルバープレート(お察し)の2人組なら、そう思うのも無理はないけどさ。



『ご主人様、こいつぶち殺──』



 はーいストップー。

 軽く手を挙げて3人の暴挙を止める。

 俺のことを思ってくれるのは嬉しいけど、過激すぎるのはよくない。


 3人は渋々と言った感じで矛を収めた。



「村長。バトルギルドのアシュア様と、お付の方をお連れしました」

「あー、はいはい。どうぞ」



 中から返事が聞こえてから、中に入る。

 外見と同じく部屋もかなりボロボロだ。

 床もところどころ抜けてるし、そこらからミシミシという音が聞こえる。


 これが村長の家でいいのか……?


 と、椅子に座っていた1人の老人が杖を突いて立ち上がった。



「はじめまして。私、ミラゾーナ村の村長をしておりますヨサクと申します」

「はじめまして。アシュアです」

「コハクと言います」

「アシュア様、コハク様ですな。お2人がここに来たのは、やはりあの御神木についてですかな?」



 御神木……そう呼ばれてるのか、あの木は。



「はい。急激に豊かになった大地と、あの巨木の調査に参りました。女王陛下がお植えになったとは聞きましたが……」

「その通りですじゃ。3日前、女王陛下の神秘なる力によって芽生え、大地も豊かになりました」

「ふむ、女王陛下の神秘なる力……」



 アシュアさんが腕を組んで思案する。

 俺も、この国の女王陛下がそんな力があるなんて聞いたことがない。

 つまりは。



『ガイアの力ですね』

『何がしたいのかしら、あの子』



 やっぱりガイア様か。

 ……とりあえず、あの木を見ないことにはわからないな。



「ヨサクさん。御神木の根元に意味不明な文字が刻まれてると聞きました。見せてもらうことはできますか?」

「承知しました。その子、ミミリに案内させましょう」



 ミミリというのか、この女性は。


 俺、アシュアさん、ミミリさんが村長宅を出て、丘を登る。

 かなりの高さだ。村を一望できるし、地平線にアレクスの街も見える。


 ゆったりした足取りで丘を登り、登り……やっと頂上にたどり着いた。



「こちらが御神木になります」

「……でか……」

「首が痛くなるでかさですね……」



 遠くから見てもでかいとは思ったけど、これほどなんて……。


 一定の間隔で杭が打たれ、しめ縄が囲いを作っている。

 まさに御神木。崇め奉ってる感がすごい。



「それで、文字というのは?」

「あちらです。立ち入り禁止となっていますので、ここからで申し訳ありませんが……」



 ミミリさんの指さした先。

 木の根元に何か刻まれている。

 だけど、確かに見たことのない文字だ。



『へぇ、古代ルーン文字の暗号じゃない』

『羽虫にもわかりましたか。その通り、あれは古代ルーン文字の暗号です』

『あんた私のこと馬鹿にしすぎじゃない!? ねえ、聞いてんのあんた!?』



 スフィアの罵倒に憤慨するクレア。

 スフィアはそれを無視し、暗号を解読する。



『永久の平和は果てなき幻想──

 幻想を体現するは至高なる剣士──

 至高の剣士を従えるは幻想の王──

 見よ・観よ・視よ──

 悪を打ち破るは聖なる極地──

 今平和への扉は開かれた──』



 …………。



「どういうこと?」

「何がだい?」



 あっ、やばっ。声出てた……!



「あ、その、何でもないです」

「いや、コハクくんの気持ちはわかるよ。あんなの、俺でも見たことがない」



 ほっ、流せてよかった。

 スフィアに目配せすると、思わせぶりな言葉を口にした。



『一度解散し、アシュアさんと共に来ましょう。今ミミリさんは邪魔ですので』



   ◆



 その場は一旦解散した俺は、アシュアさんに声をかけて再び御神木の前に来た。



「やっぱり、何かわかったんだね」

「はい。使い魔が解読してくれました」

「やはりすごいね、幻獣種ファンタズマというのは」

『ふふん。もっと褒めていいんですよ』



 スフィア得意げである。珍しい。



「スフィア、どうすればいい?」

『2人であの巨木に触れ、先程の呪文を唱えるのです』

「わかった」



 しめ縄を飛び越え、巨木に触れる。

 流石、荒地を豊かにするだけある。かなりの生命力だ。



「アシュアさん、手を」

「ああ」



 アシュアさんも同じように木に触れる。

 深呼吸を1回、2回……よし。



「永久の平和は果てなき幻想──

 幻想を体現するは至高なる剣士──

 至高の剣士を従えるは幻想の王──

 見よ・観よ・視よ──

 悪を打ち破るは聖なる極地──

 今平和への扉は開かれた──」



 刹那。



「な──!?」

「木から光が……!?」



 俺とアシュアさんが触れている真ん中。

 そこから目が眩むほどの光が漏れ出る。


 光が強くなると共に、ゆっくり木が割れる。

 いや、扉のように開かれた。


 完全に扉が開かれたのか光は収まり、木の中は洞窟のように真っ暗になっている。



「どうします?」

「……進もう。コハクくんは俺の後ろへ」



 アシュアさんが剣を抜き、先行して中に入る。

 俺もフラガラッハを抜くと、スフィアに剣士の力を《技能付与エンチャント》してもらった。



「クレア、灯りをお願い」

『わかったわ』



 クレアが熱を持たない炎を複数出し、中を照らす。


 ……樹木の中とは思えないほど広い。

 明らかに普通の空間じゃないな。



「助かる、コハクくん」

「いえ。……行きましょう」

「ああ」



 アシュアさんを先頭に、俺達もゆっくり中へと進む。


 ……背後の穴が、閉じられたとも知らずに──。

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