剣聖の試練──④

   ◆



「ふぅ……終わった」



 最後の1体が灰になり、シルバープレートが淡く光を帯びた。

 討伐対象を全て倒したら光るとは聞いていたけど、本当なんだ。


 因みに理屈は不明。サリアさんに聞いてもわかんなかった。


 刀身に付いた血を振り払って鞘に収める。

 それと同時に、体に漲っていた剣士の感覚も霧散した。


 なるほど……一時的とは言えとんでもない力だ、これは。



『コハク、カッコよかったわよ!』

『コゥすごい! コゥ素敵!』

『お見事です』

「皆のおかげだよ、ありがとう」



 こうして皆に助けられて、できないことができるようになっていく。


 そうすれば、皆に任せるだけじゃなく……俺も皆と肩を並べて戦える、かもな。



『コハク、この後どうするの? 帰る?』

「そうだな……せっかくここまで来たんだし、ミラゾーナ村に寄っていこうか」



 何でこの村がこんなに豊かになったのか、聞いてみたいし──。




「あれ、コハクくん?」




 ──ん? この声は……?



「え? ……あ、アシュアさん……?」



 ……どうしてここにこの人が?

 アシュアさんは驚いたような顔で近付いてきた。



「驚いたな。まさかここで会えるなんて」

「俺も驚きました。どうしてここに?」

「調査だよ」

「何故ここの土地がいきなり豊かになったのか、ですか?」

「察しが早くて助かる。俺も剣士だ。剣士の聖地に何かあっては寝覚めが悪いからな……」



 俺の背後に広がる花畑や草原を見て、目を細めた。



「ここは何度も足を運んでいるけど、こんなこと初めてだ」

「まあ、そうそう起こらないですよね、こんなの。俺もミラゾーナ村に行こうと思ってたので、一緒に行きますか?」

「いいね。その間に、その剣のことを聞かせてくれ」



 流石、目ざとい。

 剣を見て目を輝かせるのは、剣士としてのサガか。


 フラガラッハについて話すと、アシュアさんは驚いたり考えたり笑顔になったりと、まさに百面相。


 剣が好きなんだなぁ、アシュアさん。



「流石ザッカスさんだ。俺も作ってもらおう」

「そうしてあげてください。宣伝よろしくって言われてるので」

「なら10本くらい頼もうかな」



 それ白金貨10枚なら出す余裕があるってこと?

 ミスリルプレートの財力すご。



 世間話も交えて歩くことしばし。

 ようやく俺達が最初に降り立った場所まで戻ってきた。



「む? あれは……?」

「どうしたんですか?」

「あの巨木……前に来たときはなかったはずだ」



 え? ……どう見ても、樹齢1000年くらいの老木なんだけど。

 でも、よくここに来ているアシュアさんが言うんだ、間違いないだろう。


 ということは……。



「……コハクくん、ここで待っててくれ。あの女の子達に聞いてくる」

「わかりました」



 アシュアさんが、少し離れた場所にいる女の子達に話しかけた。

 少女も女性も、アシュアさんを見て頬を赤らめた。

 あれが俺だったら、あんな反応されないだろう。


 ただしイケメンにかぎる、というやつだ。


 ちょっと複雑な気持ちになってると、皆が俺に擦り寄ってきた。



『ご主人様、ご安心を。あなた様のよさは、愚鈍な人間には理解できません』

『そうそう。あんな優男よりコハクの方が何百倍も魅力的よ』

『ボク、コゥ大好き!』



 慰められてるみたいで、これはこれでちょっと傷つく。



「はは。あ、ありがとう。……っと、そうだスフィア。あの木ってもしかして……」

『はい、ご主人様。幻獣種ファンタズマの力を感じます』



 やっぱり。



「この花畑は……」

『あの木から供給されている栄養で花咲いたのでしょう。そしてこれをできる幻獣種ファンタズマを1体知っています』

「誰?」

『ガイアです』



 ……ガイア? ガイアって……大地の神ガイア様!?

 まさかの名前に目を見張ると、クレアが俺の頭に乗って肘をついた。



『人間は神様だって信仰してるけど、あの子も幻獣種ファンタズマ。立派な魔物よ』

「マジですか……」



 まさかまさかだ。

 大地の神ガイア様は、豊穣と実りを司る神。

 この世界では、いくつもの国が主神として崇めている。


 それが幻獣種ファンタズマ……魔物だなんて、誰が信じられよう。



「ガイア様は貧困に喘ぐ村を見兼ねてこんなことをしたのかな?」

『さあ? ま、あの子も無意味なことはしないから、何かしら意味があるとは思うけど』



 何かしらの意味、か。


 クレア達の話から色々と考えていると、アシュアさんが戻ってきた。



「お待たせコハクくん。どうやらあの木は、3日前に女王陛下が植えたらしい」

「女王様が?」

「ああ。あそこに種を植えた瞬間、見たこともない速さで成長し、この村を豊かなものにしたんだとか」



 ふむ。ここまで来たら、間違いないみたいだ。



「それと、あの木の根元には何やら妙な文字が刻まれているらしい」

「妙な文字?」

「誰にも読めないからわからないが……調べてみる価値はありそうだ。今からあの子達に、村長の家に案内してもらう。行こう」

「あ、はい」



 アシュアさんのあとに続いて村へ向かう。


 でもね、アシュアさん。さっきからその女の子達が俺をゴキブリを見るような目で見てくるんです。


 くぅっ、これがイケメンとの差……!

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