女王の祈り/国王の嘆き

   ◆



 ミラゾーナ村。

 アレクスの街から西に位置するそこは、貧困に喘ぐ小さな村だ。

 土地は痩せ、作物も満足に育たない。


 だがこの村には、1つの伝説があった。


 300年前、ブルムンド王国を滅ぼしかけた邪龍を討伐した大英雄、剣聖リューゴが生まれた地とされている。


 よってそこは、剣士職の人間からは聖地として崇められていた。


 そんな地に、1つの馬車がやって来た。


 4頭の白馬が引く荘厳な作りの馬車。

 車体には王家の証である太陽の紋章が刻まれている。



「あれは……」

「王家の方、だよな」

「なんでこんな場所に……?」



 馬車のスピードが落ち、ミラゾーナ村の入口で止まる。

 と、村の奥から杖をついた老人が、急いで駆け寄っていった。


 馬車から降りる、神々しい輝きを放つ1人の女性。


 ブラチナブロンドの髪に、深海のような瞳。

 柔和な笑みを浮かべるその女性は、ブルムンド王国13代女王、カエデ・ムルヘイムだ。



「女王陛下、お初にお目にかかります。私はこの村で村長を務めております、ヨサクというものです」

「はじめまして、ヨサク様。カエデ・ムルヘイムと申します。失礼、時間がありません。この土地で1番太陽光の当たる場所をお教え下さい」

「は? ……はい、わかりました。こちらです」



 ヨサクの後に続き、村の中を歩く。

 荒れてはない。だが活気もない。



(今まで政務に追われて来れませんでしたが……噂以上ですね。これはどうにかしなければ……)

「女王陛下、着きました」



 と、思考している間に着いたらしい。

 村の端にある、小高い丘。

 なるほど、確かにここなら村も見渡せ、太陽の光もよく当たりそうだ。



「ヨサク様、ありがとうございます。こちらで結構です」

「かしこまりました」



 カエデは振り返り、従者にこの場で待機するよう命じると、丘を登っていった。



「はぁ……はぁ……う、運動不足、ですかねっ」



 たったこれだけの丘を登っただけで、汗がにじみ出る。運動しよう。


 頂上にたどり着き、振り返ると……眼下には小さな村が広がっていた。



「……ガイア様は、何故ここにこの種を……」



 手に持っていた、小指の先ほどの大きさの種を見る。

 何の種なのかはわからない。

 でも……今は我らが神を、信じる他ない。


 丘の上に跪き、汚れるのも気にせず土を掘って種を植える。



「これで……いいのですよね、ガイア様……ぁ……?」



 植わった場所から淡い金色が漏れ出る。

 暖かい。まるで母親に抱き締められているかのような光。

 それが徐々に強く、大きくなる。


 何故かはわからない。わからないが……カエデは無意識のうちに跪き、手を組んで祈っていた。

 この光を見たヨサクも、従者も、村の住人も、皆祈りを捧げている。


 本能が囁いている。

 この光は、この村を救うのだと。


 直後──ピョコッ。


 光り輝く小さな芽が出た。


 芽は見る見るうちに成長し、成長し、成長し……それに伴い輝きも増していく。


 それはまるで、神が降臨したかのような輝きであった。



「こ、これは──!?」



   ◆



「まだか……まだ見つからんのかァ!」



 ターコライズ王国、王宮。

 玉座の間にて、国王は激怒していた。


 国を建て直すため身を削り、心を削り、睡眠時間も削っていた国王。

 新しい水脈の確保。

 家畜の飼育方法。

 痩せた大地への栄養補充。

 他にも様々な国政の対応や各国との話し合い。


 国王の心労はピークに達していた。


 そのストレスの中、まだ男が見つからないと報告を受けた国王。

 激怒するのも無理はなかった。



「貴様らギルドはなんのためにある! ハンターというのは、男1人見つけられんのかぁ!」

「「「「「……ッ」」」」」



 あれから数日が経った。

 しかし男の行方どころか、足取りさえ掴めていない。

 念の為ターコライズ王国中も探し、近隣諸国へと捜索を広げているが、全く情報はない。


 それに、他国を捜索するとしても、これは極秘任務。

 もし例の幻獣種ファンタズマテイマーが自国にいるかもしれない、なんて思われたら、その男を巡って戦争になる可能性がある。


 今国力が衰退してる中、それだけは避けなければならない。



「……もうよい、行け。捜索を続けよ」

「「「「「はっ……」」」」」



 ギルドマスター達が玉座の間を出ていく。

 扉が閉まったのを確認した国王は、痩けた頬、やつれた顔両手で覆い、天を仰いだ。



「何故……何故こうなったのだ……何故……!」



 その問いに答える者は、誰もいない。

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