危険《デンジャー》──④

   ◆



 おー。やっぱり派手だなぁ、皆。



『ウオオオオオオンッッッ!!!!』



 宙を翔けるフェンリルが、魔水晶の腹部を難なく切り裂き。



『豪炎の前に跪きなさい!』



 クレアの豪炎が傷付いた腹部の内側と頭部を焼き。



『目標補足。──爆撃ファイア



 ソフィアのミサイル(?)が16本の足を順に破壊していく。



 俺、見てるだけ。



 まあテイマーとしては正しい戦い方だ。

 でも傍から見れば、俺だけサボってるって見られなくもない。


 うーん、どうするか……。


 そのまま見てることしばし。

 デス・スパイダー亜種は、抵抗することも断末魔を上げることも許さず絶命し、落下してきた。



『弱々! 激弱!』

『これなら、フェンリルだけでよかったわね』

『油断大敵ですよ。……油断してそのまま食われればよかったのに』

『ぬあんですってぇ!?』

『知ってます? 蜘蛛って羽虫を食べるんですよ』

『ぬがああああああ!』



 まだまだ余裕そうだね、皆。

 皆の戦いっぷりは、見ていて爽快だ。

 殲滅、蹂躙って言葉がよく似合う。


 さて、デス・スパイダー亜種も倒したし、どうせなら魔水晶でも回収して──。


 ガシャッ。


 ん? 金属音?


 音がした背後を振り返る。

 あれ、この人達は……?



「……アシュアさん、でしたっけ?」

「ぁ……あ、ああ。そうだ……けど……」



 ……まさか、今の戦いを見られてた?

 それは……ちょっとまずいかもしれない。


 この人達は幻獣種ファンタズマの姿が見えない。

 それなのにあんな戦いを見せたら、何を言われるか……。


 俺が警戒したのを感じ、皆が俺の傍に寄り添う。


 俺の警戒を感じ取ったのか、アシュアさんは剣を鞘に納めた。



「安心して欲しい。君と敵対するつもりはない。俺達は、さっきの魔物に用があったんだ」

「……何か知ってるんですか?」

「……俺達と君が洞窟で会った日の朝に、ここは危険区域デンジャラスゾーンに認定されたんだ」

「えっ!」



 危険区域デンジャラスゾーンだって!?

 そんな……じゃあここに来たのが俺達じゃなくて別のハンターだったら、誰か被害に合ってたかもしれないのか。



「本当はあの時点で止めるつもりだったが……まさか、君があそこから1日でここまで掘り進めるとは思わなかった。完全に俺の落ち度だ。許してくれ」

「ぅ……えと、俺も好き勝手掘っちゃったんで、オアイコってことでここはひとつ」



 フェンリルを褒めて、調子に乗らせたのは俺だし……。


 若干気まずくなって目をそらす。

 アシュアさんは苦笑いを浮かべ、「それにしても」と続けた。



「あの化け物を単身で倒すなんて、凄いね」

「ど、どうも」



 本当は単身じゃないけど。

 皆のことを言っても信じてもらえそうにないし、ここは黙って──。






「君、噂の幻獣種ファンタズマテイマーでしょ」






 ──え?



「う、噂?」

「うん。最近テイマーギルドに入った新人で、幻獣種ファンタズマテイマーがいるって噂。バトルギルドにも届いてるよ」



 そ、そんなに噂になってるの?

 


「……何で俺がそうだと?」

「昨日会ったとき、君はテイマーギルドのブローチを付けていたのに、近くに使い魔がいなかった。それが切っ掛けで、確信したのはたった今。あの化け物巨大蜘蛛を圧倒した火力……間違いなく、見えないなにか、、、がいると思った」



 なるほど……さすがバトルギルドのシルバープレート。洞察力も半端じゃないみたいだ。



「……その通りです。俺は幻獣種ファンタズマテイマー。今はトワさんのテイマーギルドでお世話になっています」

「やっぱり! いやぁ、まさかこんな所で伝説の幻獣種ファンタズマテイマーに会えるなんて!」



 アシュアさんは興奮してるのか、目を輝かせて近付いてきた。



「お近づきに、改めて自己紹介させてくれ。俺はアシュア・クロイツ。バトルギルド所属の剣士だ」

「僕はコル・マジカリア。同じくバトルギルド所属の魔術師です」

「俺ぁロウン・バレット。同じくバトルギルド所属の拳闘士だ、よろしくな!」

「は、はい。俺はコハクです」



 1人ずつ握手。

 ……強いな、この人達。シルバープレートとは思えない。



「……それにしても、危険区域デンジャラスゾーンにシルバープレートの皆さんが来るなんて、やっぱりバトルギルドの人達はレベルが高いんですね」

「……シルバープレート?」



 首を傾げる3人。

 あ、あれ? 違った?



「ははははは! 暗いからわかりづらかったかな。──俺達3人とも、ミスリルプレートだよ」

「え」



 魔銀ミスリル


 チラッとブローチを見る。

 ……確かに暗くてわかりにくいけど……シルバーとは違う。

 て、ことは……。



「バトルギルド、ミスリルプレートのハンター!?」

「がはははは! やっと気付いたか!」



 ロウンさんが豪快に笑う。


 いや笑いごとじゃない。

 バトルギルドは、戦闘職を集めた最強のギルドだ。

 その中でミスリルプレートと言ったら最強の称号。最強オブ最強の証だ。


 まさか、この3人がミスリルプレートだったなんて……!



「す、すみませんっ。失礼なことを言ってしまって……」

「はは、気にしないでくれ。それに、いずれ君には会いに行こうとしていたんだ」

「……俺に、ですか?」

「ああ」



 アシュアさんは再び手を差し出し、にこやかな笑みを浮かべ。




「コハク君。バトルギルドに入らないかい?」




 そんなことを言い出した。

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