危険《デンジャー》──③
◆
翌日。
皆の監視のお陰で、警戒することなくぐっすり眠れた。
体力も回復してバッチリ。
今日も張り切って仕事しよう。
『ここ掘れわんわんっ、ここ掘れわんわんっ』
『わっ! ちょっ、フェンリルもう少し加減して!』
『ご主人様、お下がりください』
ここぞとばかりに頑張ってるな。
最近フェンリルは戦闘もしてないし、体を動かしたかったんだろう。
「いいよ。フェンのお陰で効率よく進んでるから」
『ボクえらい? えらい?』
「うん。助かってるよ」
『えへへっ、えへへっ』
更に張り切るフェンリル。
土埃はスフィアが除去してるから気にしていない。
けど、地響きが凄いことになってる。
『ご主人様はフェンリルに甘すぎます』
「そう? 皆に伸び伸びしてほしいだけなんだけどなぁ」
『ですが……そういうところもお慕い──』
ズゴオオオォォォォッッッ!!!!
「ん? なにか言った?」
『……いえ、何も』
え、なんでちょっと不機嫌なの。
スフィアの変調に首を傾げる。
と、穴の奥からフェンリルのご機嫌な声が響いた。
『おお! コゥ、抜けた!』
「抜けた? なにが?」
『穴! でっかい穴!』
でっかい穴?
皆と顔を見合わせて首を傾げる。
「……とりあえず行ってみよう」
『念の為、防御フィールドを展開しておきます』
『私は攻撃の準備をするわ』
スフィアを中心にドーム状の薄い膜が張られ。
クレアは赤い炎を両手に纏わせた。
それを確認し、穴の奥に進む。
「フェン」
『あっ、コゥ! ほら見て!』
わかった、わかったから尻尾振り回すのやめて。
フェンリルの尻尾を避けながら穴を覗く。
……確かに広い。広大な空間だ。
形状としてはドーム型。
天辺に位置する場所には天色に輝く巨大な水晶。
そこから、燦々と淡い光が降り注ぐ。
ゆっくり歩を進める。
……空気が冷たい。
俺達が空けた穴以外は完全に鉱石で覆われてるのに、息が出来る。
不思議な空間だ……。
『──臭うわね』
「えっ、俺臭い?」
『違うわよお馬鹿。この空間のことよ』
空間が臭う?
くんくん。……特に何も感じないけど。
『確かに……ご主人様、警戒を』
『コゥはボクが護る!』
えっ、護られなきゃいけない事態が発生しうるの?
「ね、ねえ、引き返す?」
『ここに入ってしまった時点で、恐らく目覚めさせてしまいました。ここで倒してしまった方がよろしいかと』
何を目覚めさせたの俺達!?
『安心して、コハク。私達がいれば、あなたは絶対死なないから』
『はい。ご主人様には指一本触れさせません』
『コゥ、任せて!』
「み、皆……うんっ、頼んだよ……!」
そうだ。俺には皆がいる。
皆がいるから……何も心配はない。
覚悟を決めて周囲を警戒する。
直後。
──ドクンッ──。
空間全体が、鳴動した。
「っ! これは……!」
『コハク、あそこ!』
クレアが指をさすのは、天辺に位置する水晶。
胎動し、まるで卵からかえるように形が変形していく。
頭胸部には目は12。足が16本。
強靭な顎に堅牢な牙。
巨大で、胎動している腹部。
その体は天色の水晶で作られており、一見すると芸術品だ。
が……こいつはそんな上等なものじゃない。
余りにも巨大で実感は湧かないが、このフォルム。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ──!!!!」
──蜘蛛だ。
「きも」
『デス・スパイダー。しかも体が魔水晶で出来ていますね』
「魔水晶? 魔石とは違うの?」
『魔石とは、魔物の体の中で作られる魔力の結晶体。対して魔水晶とは、魔物が死んで漏れ出た魔力が結晶化したものです。あれほど巨大な魔水晶……恐らく、数千体の魔物の魔力が集まっているのでしょう』
「それが蜘蛛の形をしてるのは?」
『魔水晶をデス・スパイダーが吸収し、変異したものと思われます』
つまりあのデス・スパイダーは、数千体の魔物の魔力を取り込んだ魔物だと。
「これ、まずい?」
『ご安心を。我らの敵ではありません』
スフィアが両腕をデス・スパイダーに突き出す。
手首を折り曲げると、モーター音と共に腕の形が変形。
前腕が筒のような形になった。
『あんた1人に美味しいところは持っていかせないわよ』
『わーい! 戦闘! 戦い!』
クレアとフェンリルもやる気満々だ。
『ご主人様、ご命令を』
「……スフィア、クレア、フェン。──殲滅しろ」
『『『了解!!』』』
◆
「「「ッ!」」」
レゾン鉱脈近くで待機していたアシュア、コル、ロウン。
ただならぬ気配を感じ、3人は反射的にレゾン鉱脈の中へ入っていく。
「この気配……まさかっ、
「そのまさかのようですね……!」
「くそっ、判断を誤ったか──!」
探知能力を持つハンターが、世界各地で
噴火間近の火山。
人が生身では渡れない大激流の河川。
雨のように雷が降る島。
──そして、強力な魔物が発生する可能性のある場所。
レゾン鉱脈の中に、強力な魔物が発生する可能性のある
奇しくも、既にコハクがレゾン鉱脈に到着した後である。
その後は立ち入り禁止となっていたが、コハクは採掘を始めていた。
本来なら直ぐに出て行ってもらうのが筋だが、レゾン鉱脈の最奥から
だからそこまで辿り着くことはない。
そう高を括っていたが……その勘は外れた。
「まさか昨日の今日で、6キロの距離を掘り進むなんて──!」
予想外とすれば、コハクには
だが、この3人にそれを知る術はない。
だから、この判断ミスは仕方のないことだった。
「アシュア、後悔する前に足を動かせ!」
「急ぎますよ!」
「……ああ!」
あぁ、どうか……どうか無事でいてくれ。
そう願わずにはいられなかった。
レゾン鉱脈に突入し、ほんの数分。
彼らは最奥に到達した。
「見えたぜ! あの穴だ!」
「コル、ロウン! 戦闘準備!」
コルは身の丈ほどの杖を構え、ロウンは鉄甲を嵌めた拳と拳をぶつける。
アシュアも両刃剣を引き抜き、穴の中に飛び込んだ。
「「「ぐっ!?」」」
直後、3人の体を強烈な熱風が襲った。
攻撃、奇襲、罠。様々な可能性が脳裏を過ぎる。
だが、いつまで経っても次の攻撃が来ない。
事態を把握するべく慎重に目を開ける。
「「「なっ……!?!?!?」」」
目に飛び込んできたのは、余りにも巨大すぎる蜘蛛。
腹部は、まるで巨大な獣に引き裂かれたように三本の傷跡があり。
頭部は豪炎で焼かれたように爛れ。
16本あったであろう足は、今なお何者かの攻撃で爆破されている。
見るも無惨な
そしてそれを、腕を組んで冷たい目で見つめる1人の青年。
その異様な光景に、3人はただ唖然とするしかなかった。
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