危険《デンジャー》──②

 洞窟の中は、電灯が点いてるとは言えかなり薄暗い。

 これじゃあ作業もしづらいな。



「フェン。洞窟の中に嫌な匂いはある?」

『すんすん。ないよ!』

「わかった。クレア、火を出して照らしてくれ」

『了解よ』



 熱を持たない炎が、洞窟の中を照らした。


 かなり広いな。

 天井は俺がジャンプしても届かないくらい高いし、横幅も俺達が並んで歩いても余裕がある。

 この奥に鉄鉱石があるのか。


 中には人の気配も魔物の気配もない。

 完全な無人だ。


 スフィアの案内で進むことしばし。

 洞窟の1番奥へとやって来た。



『着きました。こちらが採掘場です』

「了解。スフィア、より上質な鉄鉱石が光るよう、探知フィールドをお願い」

『かしこまりました』



 スフィアを中心に青い探知フィールドが展開。

 岩壁の中に青く光る何かが無数に現れた。

 これが上質な鉄鉱石か。



「じゃ、俺とフェンで掘っていこう。クレアとスフィアは、上質な鉄鉱石を麻袋に入れてくれ」

『ふふん、任せなさい!』

『承知しました』

『がんばる! がんばる!』



 俺は近くの鉄鉱石へピッケルを振るう。


 ギイイイイィィィンッッッ──!


 うぐっ。か、硬い……!

 ピッケルが跳ね返されて、痺れるみたいだ……!



『ここ掘れわんわんっ、ここ掘れわんわんっ』



 対してフェンリルは、プリンのように掘り進めていく。

 これが人間と幻獣種ファンタズマの違いか……。


 そう言えば、フェンリルの爪は伝説のオリハルコン鉱石すら砕くって聞いたことがある。

 うーん……これ、全部フェンリルに任せた方がいいかも?

 ……いや、ダメダメ。俺は皆の主なんだ。かっこ悪いところは見せられないっ。


 悪戦苦闘しながらも掘り進める。

 麻袋も見る見るうちに満杯になり、30分もしないうちに2袋目に突入した。



『大量ね! 麻袋全部に詰めたら、ギルドの鉄鉱石不足も解消されるんじゃないかしら?』

「そうだね。一応3日を想定してるけど、この調子で行くと明日には詰める麻袋が無くなっちゃうかも」



 俺1人だったら、こんなに効率よく進められなかった。

 本当、皆がいてくれて助かってるよ。


 そのまま2つ、3つ目の麻袋に突入したその時。



『──ご主人様。人の気配です』

「え?」

『こちらに近付いています』



 人……別のギルドの人かな?

 皆に止まるよう合図を出す。

 と、奥から3人組の男達がこっちに来るのが見えた。



「む」

「おや……」

「なんだよ、先約か」



 目を見開いた、色男の剣士。

 先約がいたことに驚いている、眼鏡をかけた魔術師。

 面倒くさそうにため息をつく、厳つい外見の拳闘士。


 何だろう、この人達……。



「コル。中に人はいないんじゃなかったか?」

「ええ。探知の魔術で確認済みです。ですが……」

「いたじゃねーか」

「ですね……」



 3人が何か言ってる隙に、素早く観察する。


 胸に着いているブローチは、炎の中心に剣がクロスしているような形。

 確かこの形は、戦闘職を集めてるギルド、バトルギルドのもの。

 色は……暗くてわかりづらいけど、恐らくシルバー、、、、


 全員バトルギルドに所属している、シルバープレートのハンターみたいだ。


 俺が観察していることに気付いたのか、剣士の男が両手を挙げて敵意がないことを示した。



「ああ、驚かせてすまない。俺達も鉄鉱石の採掘に来たんだ。悪いけど、少しだけ分けてくれないか?」

「……はい、大丈夫ですよ。あっちに山積みになってるものは全部いらないものなので、適当に持っていってください」

「……あれをかい?」



 俺達が求めてるのは上質な鉄鉱石。

 それ以外の鉄鉱石は、全部よけてあった。

 当然上質な鉄鉱石より普通の鉄鉱石の方が多いから、俺の身長程の山が出来上がっている。



「おいおいっ、これ全部鉄鉱石だぞ!」

「しかも純度も高い……本当にこれを貰っていっていいんですか?」

「あ、はい。問題ありませんよ」



 早く持って出ていって欲しい。

 いつまで経っても作業が進まない。


 表面上はにこやかに。内心は帰れコールの野次を飛ばしてると、剣士の男が貼り付けたような笑みで近付いてきた。



「いや、助かるよ。礼をさせて欲しい。それか何か手伝えることはあるかい?」

「お気持ちだけ受け取っておきます」

『かーえーれ! かーえーれ!』

『邪魔よ邪魔! 仕事できないじゃない!』

『処します?』



 それはダメ。

 あとその人達の近くに寄らないの。



「そ、そうかい? なら、何かあったらアレクスのバトルギルドへ寄ってくれ。俺はアシュア。俺に用があると言えば、取り合ってくれるから」



 3人が山積みになっている鉄鉱石を麻袋に詰め、もと来た道を戻って行った。



「……はぁ。よかったぁ、戦闘にならなくて」



 バトルギルドの人間は血の気が多い。

 ターコライズ王国では、採取や採掘依頼がバッティングすると場所を取り合って戦闘が起こっていたらしい。


 ブルムンド王国のバトルギルドのハンターは、話せばわかる人達みたいだね。



「さ、皆。ちゃっちゃと集めようか」



 この日、麻袋7つ分の鉄鉱石を集め終えた俺達は、明日の体力も考えて少し早めに休むことにした。



   ◆



 レゾン鉱脈から出て来た3人組の男。

 その中で、拳闘士のロウンが慌てた様子で振り返った。



「おいおい、話がちげーじゃねーか、コル。中に人はいないんじゃなかったのか?」



 その問いに、魔術師のコルが眼鏡を中指で押し上げながら答える。



「言ったでしょう。探知魔法で確認はしたんですよ。ですが、彼は探知魔法に引っかからなかったんです」



 それを聞いた剣士のアシュアは、腕を組んで思案する。



「……彼のプレート、見たかい?」

「はい。テイマーギルドのブロンズプレートでしたね」

「そのテイマーギルドだが、最近おかしな噂を聞くようになった。何でも、幻獣種ファンタズマテイマーが入ったとか」



 アシュアの言葉にコルは息を飲み、ロウンは驚愕した。



「はあ!? 幻獣種ファンタズマテイマーだと? あんなもん伝説上の存在だろ!」

「だが現に彼はテイマーギルドのハンターだ。それに……彼の周りには、テイムされた使い魔がいなかった」



 その言葉に、ロウンとコルは先程の青年を思い出す。

 確かに、テイマーギルドの人間だと言うのに、彼は1人だった。


 テイマーは、テイムした魔物がいなければ1人で依頼を受けられない。


 ということは……。



「彼が、その幻獣種ファンタズマテイマーだと?」

「確証はない」

「だがよ、そうならこの先、、、のことを教えておいた方がいいんじゃないか?」



 自分達がここに来た本当の理由、、、、、

 それを伝えるか否か。


 アシュアは、伝えないことを選択したのだ。



「……様子を見よう。彼がいつまでここにいるかわからないし。それに、もし彼が例の場所に辿り着いても……俺達なら助けられる」



 直後、夕陽が3人に差し込み……魔銀ミスリルで作られたプレートが、妖しく輝いた。

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