危険《デンジャー》──①

 夕飯を食った後、どうやら一晩ぐっすり寝てしまったらしい。

 気付いたら朝だった。


 昨日は移住に加えてトワさんとバトル。念願のギルドにも入れたし、疲れてて当然か。


 若干の体のだるさを覚えつつも、ギルドへやってきた。



『コハク、今日はどうするの?』

「うん、午前中は鉄鉱石の採掘依頼。その後時間があれば、魔物の討伐依頼を受けようと思う」

『討伐依頼なら、骨のある相手がいいわ!』

「骨のある相手?」

龍種ドラゴンとか!』

「ブロンズじゃ無理だなぁ」



 思わず苦笑い。

 龍種ドラゴンの討伐はゴールドプレート以上だ。

 まだブロンズの俺達には無理だなぁ。


 ぶーたれるクレアの頭を撫で、鉄鉱石の依頼書を手に取ろうとすると。



『ご主人様、それでしたらこちらの方がよろしいかと』

「え?」



 スフィアが指さす依頼書を見る。

 ……確かに、こっちも鉄鉱石の採掘依頼だ。

 ただ、依頼達成報酬がさっきのやつと比べると少しだけ高い。

 何が違うんだろ?



『採掘する場所が違いますね』

「……本当だ。こっちはブレオス鉱脈。これはレゾン鉱脈か。何が違うんだろ?」

『検索しますか?』

「お願い」



 スフィアの目の中に魔法陣が輝く。


 彼女はこの世の全ての知識を持っている。

 あらゆる場面で彼女の知識は役に立つから、結構重宝している能力だ。



『……わかりました。ブレオス鉱脈はここから馬車で2日。レゾン鉱脈は馬車で5日掛かります。しかし、レゾン鉱脈の方が質のいい鉄鉱石が採れるそうです』



 なるほど、それでレゾン鉱脈の方が報酬が高いんだ。

 うーん、どうせだったらやっぱり、質のいい鉄鉱石を持っていった方がいいよね。



「レゾン鉱脈に行こう。フェンの足なら、数時間で着くかな?」

『はい。採掘時間も合わせて、念の為ご昼食を用意した方がよろしいかと』

「わかった」



 レゾン鉱脈の鉄鉱石採掘依頼を取り、受付のサリアさんの元に向かう。



「サリアさん、おはようございます」

「あっ、おはようございますコハクさん。今日も依頼ですか?」

「はい。鉄鉱石の採掘依頼をお願いします」



 持っている依頼書を渡すと、僅かに目を見開いた。



「レゾン鉱脈……こちらでいいんですか?」

「え? はい。そっちの方が質のいい鉄鉱石が採れるらしいので」

「……本当、このギルドのハンターに、あなたの爪の垢を煎じて飲ませたいです」

「爪の垢って……」



 どういうことだろうか。

 若干引いてると、サリアさんは苦笑いを浮かべた。



「鉄鉱石の採掘依頼は、ブレオス鉱脈とレゾン鉱脈があります。2つのうち、ブレオス鉱脈の方が近いんですが……少し質が悪い鉄鉱石しか採れないんですよ」

「……つまり他のハンターは、レゾン鉱脈に行くのが面倒くさいから、ブレオス鉱脈にしか行かないと?」

「まあ、その通りです」



 人間は、本質的に面倒くさがる生き物だ。

 馬車で2日の場所と5日の場所では、通常なら前者を選ぶ。

 俺も多分、フェンリルがいなかったらブレオス鉱脈に行こうとしてただろな。



「……今ギルドでは、質のいい鉄鉱石は不足してるんですか?」

「そうですね。慢性的に不足しています」

「なるほど……じゃあ、これをお願いします」

「助かります、コハクさん。準備もあるでしょうから、出発は明日で大丈夫ですよ」



 依頼書を受領してもらい、まずはご飯の確保のために宿フルールへと向かった。



「フレデリカちゃん」

「あ、コハクさん! どうしたんですか?」

「ギルドの依頼で、明日から数日にかけて遠征に行くことになったんだ。申し訳ないけど、お弁当作ってくれないかな?」

「わかりました! 何食くらいです?」



 そうだな。

 俺、クレア、フェンリル、スフィアの4人分。それを3日として……。



「28食分。出来る?」

「はい! にじゅうはち……え」



 あ、やっぱりいきなり過ぎたかな。



「こ、コハクさん、すごく遠くに行くんですか?」

「いや、そんなには」

「じゃあ、そんなに作っちゃうと腐っちゃいますよ……?」

「大丈夫。3日で食べるから」

「3日!? ほへぇ。コハクさんって大食らいなんですねぇ」



 別に大食らいな訳じゃない。

 説明も難しいから、今はそれでいいか。



「できるかな?」

「えっと……お、お父さんに聞いてきます!」

「うん、お願い」



 フレデリカちゃんが宿の奥に行き、しばらくして戻ってきた。



「特急料金がかかるけど、できます」

「わかった。いくらかな?」

「えっと……1食銅貨25枚で、28食分。特急料金が1.2倍だから……むむむ」



 指を折り、折り……。



「銀貨16枚に銅貨80枚!」

「銀貨8枚に銅貨40枚よ」



 テーブルを拭いていた奥さんがすかさず訂正した。

 フレデリカちゃん、顔真っ赤。



「えへへっ、間違えちゃった」

「ふふ、大丈夫だよ。はい、お金」

「まいどです! お父さんに言ってきます!」



 再び奥に引っ込むフレデリカちゃん。

 それと入れ違いに、奥さんが近付いてきた。



「すいませんお客様、落ち着きのない子で……」

「いえ。フレデリカちゃんはいい子だってわかってますから」

「ふふ。ありがとうございます。この後はお休みになりますか?」

「いえ、明日からの依頼のために少し準備をするので、また外に出ます」

「わかりました」



 宿フルールを出て、次に雑貨屋へ向かう。



『むぅ。コハクはお人好しなんだから』

「少しでも、俺を拾ってくれたギルドへの恩返しをしたいから」

『流石ご主人様! 不肖スフィア、敬服致しました……!』



 そんな大層なことじゃないよ。


 雑貨屋で麻袋を大量に買い込み、準備を終えた翌日。

 フレデリカちゃんからお弁当を受け取り、フェンリルに乗ってレゾン鉱脈へ向かう。



「フェン、重くない?」

『大丈夫! ボク力持ち!』

「疲れたら言ってね。いつでも休憩するから」

『ありがと! でもがんばるよ!』

「うわっ」



 更にスピードアップ。

 想定では3時間かかる距離を、2時間で着いてしまった。

 流石天狼フェンリル、速いなぁ。



「スフィア、鉱脈の中には誰かいる?」

『……いえ、いないみたいです。私達だけですね』

「そっか。なら皆、採掘するよ」

『かしこまりました』

『掘る! 掘る!』

『任せなさいっ。今日も私が1番がんばるわ!』

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