ブロンズプレート──③

「サリアさん、ただいま戻りました」

「あ、お帰りなさい。お疲れ様です」



 ギルドに戻り、受付の椅子に座る。

 思ってたより疲労が溜まってたのか、突っ伏すようダレてしまった。



「はふ……」

「ふふ。どうです? 採取の依頼でも、中々疲れたでしょう」

「はい。アイアンの方は、これを1日に幾つもこなしてるかと思うと尊敬します……」



 俺なんて、たった数時間腰を屈めてただけで体中が痛いのに。

 ……ああ、そうだ。採取した薬草を出さないと。



「サリアさん、薬草ってどこに出せばいいですか?」

「あ、ここに出してくたらいいですよ。鑑定スキルを使って鑑定するので」

「分かりました。スフィア」

『はい、ご主人様』



 スフィアが、フェンリルの背に乗っけてた麻袋を机の上に乗っけた。

 こうして見ると、やっぱりかなりの量だ。



「……え。今、どこから……?」

「俺の仲間には、背に載せたモノの姿を隠せるやつがいますから」

「な、なるほど。……それにしても、これ全て薬草……ですか?」

「え? はい。そうですけど……」



 唖然とするサリアさん。

 うーん。これじゃあ足りなかっただろうか。

 実は他のギルド員は、もっと集めてる、とか……?

 これでもかなり頑張ったんだけどなぁ。


 なんて思っていると、慌てたように中を確認し始めた。



「全て薬草……こっちも薬草! ……えっ! こっちは全部上薬草!?」

「あ、はい」



 ザワッ──。

 サリアさんの大声に、ギルド中の視線が俺に向いた。



「おい、あれ全部薬草だってよ」

「でも上薬草って言ってたような……」

「あの中の1つが上薬草でいっぱいらしいわよ」

「何だよそれ……!?」

「とんでもねぇな、そりゃ……」

「ナニ者だろう、あの人……?」



 うーん……話を聞く限り、俺が採ってきたのは多い方らしい。

 よかったぁ。想定より少なくて、使えない新人扱いされるかと思った……。


 ホッと一息。

 すると、サリアさんが声を震わせて問いかけてきた。



「な、何でこんなに上薬草が……!?」

「うーん……やり方は説明しづらいですけど、まあ俺の仲間達の力ということで」



 俺の近くにいるフェンリルの頭を撫でる。

 甘えるように擦り寄ってくる姿が、何とも愛らしい。



「な、なるほど……」

「ところで、上薬草は依頼とは違うアイテムですけど……採ってきてよかったんですかね?」



 昔、ギルドに入ったときに恥をかかないために、ギルドのことをある程度予習したことがある。


 ギルドは、依頼中に採取したものと別のアイテムを持っていくと、それも換金してくれるらしい。


 でももしかしたら、それはターコライズ王国だけで、ブルムンド王国では違うのかも……。

 それだったらまずいことをした。

 どうしよう、この上薬草の山。


 腕を組んで悩んでると、サリアさんは前のめりになって興奮気味に声を上げた。



「だめじゃないです! むしろこんなに採ってきていただいて、ありがとうございます!」

「そ、そう?」

「はい! 特に上薬草は、薬草とほとんど見分けがつかず採取ランクも上がっているのです! それを袋いっぱいに……感謝してもしきれません!」



 そ、そうだったんだ。よかった、採ってきて。



「それじゃあ換金をお願いします」

「は、はいっ。数がありますので、少々お時間をいただきますが、よろしいですか?」

「大丈夫です」

「では、直ぐに鑑定致します」



 サリアさんと他数人が、薬草の入った麻袋を持って奥へ入っていった。

 ふぅ……どうやら無事、依頼を達成出来そうだ。



『コゥ、おつかれ! おつカレー!』

『ふふん、私のおかげねっ。褒めてくれていいのよ!』

『私達、ですよ。なに1人の手柄にしようとしているのですか』

『何よ。私が飛び回って集めたから、こんなに採れたんじゃない』

『私のスキャンがなければそれも出来ませんでしたよね』

『むぐぐ……!』

『ふん』


「はいはい、皆すごいからちょっと落ち着こうね」



 いくら周りには見えてないし聞こえてないからって、そんなにいがみ合ってたら他の魔物が怯えちゃうでしょ。


 全くもう、この子達は……。



「はぁん? 俺ぁ……ひっく! みとめねぇぞこんな優男なんざぁ!」



 ──え? 何?


 声がした方を振り向く。

 そこにいたのは、かなり大柄な男だった。

 手には酒が入ったカップを持ち、真っ赤になっている顔で俺を睨みつけている。


 ……え、優男って俺のこと?



「テメェ幻獣種ファンタズマていまーなんだってぇ? うそつけぇあ! なーにが幻獣種ファンタズマていまーだこのやろう!」

「えっと……嘘じゃありませんよ。現に、トワさんには認めてもらいました」

「とわさんだぁ? ますたーをなまえで呼んでんじゃねーよくそがきゃあ!」



 ダメだこの人。話にならない。

 昼間っから酔いすぎだ。


 見ると、男の後ろでは蔓と木で出来ている自然種ナチュラルの魔物が、必死になって男を止めていた。


 顔のパーツはないが、人の形をしている。

 確か、木人って名前の魔物だったっけ。


 木人が俺達にぺこぺこ頭を下げ、羽交い締めにして止めようとしている。



「あぁん!? てめぇどっちの味方だぁ! あいつをぶっころせぇ!」

「────! ────!」



 とんでもない男だな。

 あんな男にテイムされてる木人も可哀想に。



「おい優男! てめぇもていまーなら、ていまーらしく使い魔でしょーぶしろや!」

「同ギルドに所属しているギルド員同士の私闘は禁止のはずでは?」

「かんけーねー! ……あぁ、わかったぞぉ? てめぇ、ていむしてる魔物がいねーから、俺とたたかえねーんだろ! ぎゃははははは!」



 はぁ……またか。

 ターコライズ王国でも、同じような理由で突っかかってくるテイマーはいた。

 本当、面倒なことこの上ない。



『なんだァあいつ。咬み殺すぞ』

『コハク。あいつぶっ殺していい?』

『処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す』

「まあ落ち着いて皆」



 ここで皆が暴れたら、本気であの人を殺しかねない。

 皆には、無駄な殺しはしてほしくないんだ。



「どーしたクソガキがぁ。びびったかぁ? お? ビビっちゃっいましたかぁ? ぎゃは! ぎゃはははぶぼべっ!?」



 ……ん? 何だ?

 突然吹っ飛んだ男。

 前歯が折れ、血まみれになって痙攣している。

 そんな男の上に飛んでいるのは、黒い何か。


 よく見ると……この子、ドラゴン?

 俺の掌の上に乗りそうな、本当に小さいドラゴンだ。



『あら? クルシュじゃない』

「……え。クルシュって……トワさんの使い魔の?」

「グルッ」



 手乗りサイズのドラゴン──クルシュが、キメ顔で俺を振り返る。

 やだ何この子イケメン。


 でも、何でこんな小さく……?



「あらあら〜。私のギルドで騒いでるのはぁ〜……どこの馬鹿ですかぁ〜?」



 突然のことに首を傾げてると、背後から声が掛けられる。



「あ、トワさん」

「どうも〜、コハクさん」



 ほんわかとした、でも圧のある笑顔。

 だけど……いつもより圧が強いような……?



「説明、していただけますかぁ〜?」



 あ、怒ってらっしゃる。



「は、はい」



 とりあえず、起こったことをありのまま話そう……マジで怖いです、トワさん。

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