ギルド登録──③

「よくお勉強していますねぇ〜。この子はドレイク型龍種ドラゴン。世間的には黒龍と呼ばれる、ちょっと凄い子なんですよぉ〜」



 黒龍……やっぱり……!


 龍種ドラゴンの中にも格がある。



 ドラゴネット、ワイバーン、ムシュフシュ、ヴリトラ、ヒュドラ。



 この順で格が上がり、最上位に位置するのがドレイクだ。


 しかしドレイクの中でも更に格が分かれる。

 緋龍、青龍、緑龍、黄龍、白龍。そして黒龍。

 これらが色付きと呼ばれ、ドレイクの中でも最強と言われている。


 その中でも黒龍は、硬質さと獰猛さが桁違いに高い。


 つまり──。



「グルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ──!!!!」



 ──正真正銘の化け物だ。


 まさか、テイマーギルドのギルドマスターが龍種ドラゴンテイマーだったなんて……。



『おー、トカゲ! トカゲ!』

『全く、煩い爬虫類ね』

『ご主人様、私が滅しましょうか』

「君たちはいつも通りだね」



 あの黒龍を前にして、豪胆というかなんというか。

 ただ、そうだな……。



「皆は、あれとタイマンして勝てる自信ある?」

『よゆー! よゆー!』

『造作もないかと』

『包丁持って大根切る方が苦戦するわね』



 クレアの身長からしたら、包丁を持つだけで一苦労だもんな……。


 ただ、そうだな……。



「今回はクレアにお願いしようかな」

『! 任せなさい! いい所見せてあげるわ!』

『しょもん』

『チッ。無様な真似をしたら許しませんよ、羽虫』

『はいはい。選ばれなかったからって僻まないの、お人形ちゃん』

『むぎぎ……!』



 ……ホント、仲良いなぁ君達。


 クレアは意気揚々と俺の前に出ると、フェンリルとスフィアは後ろに下がった。



「グルルルルッ──!」

「……クルシュちゃん、そこにいるんですかぁ〜?」



 黒龍にはクレアの姿が見えている。

 牙を剥き出しにし、思い切り威嚇していた。



『あはっ。一丁前に威嚇しちゃって……かーわい♡』

「こらクレア。お待たせしました、トワさん。こっちは準備オーケーです」

「はいは〜い。因みにぃ、どんな幻獣種ファンタズマなんですかぁ〜?」

精霊エレメンタルです。火精霊クレアが、俺と契約している1体です」

「──へぇ……火精霊、ですか」



 トワさんの目が僅かに開く。

 紅い……真紅の瞳だ。

 ほんの少ししか開いていないのに、圧が濃くなった気がする。



「クレア、行けるか?」

『この私を誰だと思ってるのよ。まあ任せなさい』



 ……クレアが、そう言うなら……任せるか。


 クレアと黒龍が睨み合う。

 黒龍は牙を剥き出しに。

 だがクレアは、余裕そうな笑みを浮かべている。


 クレアの強さは分かってるつもりだけど……龍種ドラゴン相手は初めてだ。


 無理はするなよ、クレア。


 俺達の丁度中央に立っているサリアさんが手を挙げ──。



「では、両者準備は整いましたね」

「はい」

「大丈夫ですよぉ〜」

「それでは……始め!」



 ──振り下ろした。



「クルシュちゃん、《ブレス》」



 直後、黒龍から放たれる真紅の炎弾。

 龍種ドラゴン特有の、炎の吐息だ。



「クレア!」

『ええ!』



 クレアが前方に右手を掲げる。

 すると、ハニカム構造のシールドが展開され、黒龍のブレスを受け切った。



「それは……防御魔法ですかぁ〜?」

「その通りです」

「黒龍のブレスは、鋼鉄すら蒸発させますがぁ〜……それを防ぐとは思いませんでしたぁ〜」

「クレアは火属性最強の幻獣種ファンタズマなんで。炎系統の力を無効化出来るんです」

『ふふん、頭を垂れなさい!』



 調子に乗るんじゃありません。



「なるほどぉ〜。流石、幻獣種ファンタズマですねぇ〜。……クルシュちゃん」

「グルルルオオオオオオオッッッ!!!!」



 咆哮を上げた黒龍が、爪を立てて飛んでくる。

 だけど、俺は慌てない。


 クレアならどうにかしてくれるって、信じてるから──。



『甘いわよトカゲちゃん』



 シールドが幾重にも重ねられ、厚みを持つ。

 黒龍の爪が、クレアの防御魔法へ触れた。


 ギャギャギャギャギャッ──!


 火花を散らし、黒龍の爪が止まる。

 黒龍も止められるとは思わなかったのか、眼が僅かに揺れた。



「グルルルルッ──!」

「なんと……《ドラゴン・クロー》まで止められたのは初めてですね」



 トワさんも流石に驚いたのか、間延びした声は鳴りを潜めた。


 が。



『あっっっぶなぁ〜……! 魔力込める量をミスったら破られてたわ』



 だから調子に乗るなとあれほど……。

 これはあとでお説教だな。



「クルシュちゃん、纏いなさい」

「ガルッ──!」



 纏い……?

 ……あっ!



「クレア!」

『ッ!』



 俺の声に、クレアがその場を離脱。

 すると黒龍の爪が赤く変質して、防御魔法を簡単に斬り裂いた。



「《魔力付与エンチャント・パワー》……!」

「その通りです〜」



 人間の使う魔法に、身体強化の魔法がある。

 これは人間にしか使えず、他の魔物は使えない。

 だが一つだけ、魔物がそれを使える方法がある。


 それが、テイマーと契約していること。


 テイマーと契約している魔物は、テイマーが使える魔法を使うことが出来る。

 つまり、トワさんは身体強化魔法を使えるってことだ……!


 戦闘職でもないのに、身体強化魔法を使えるなんて……やっぱり只者じゃなかったな。



「クレア、次はこっちの番だ」

『任せて!』



 クレアが大きく息を吸い込み、人差し指と親指で丸を作る。

 それを口元に寄せて狙いを定め。



「ブレス!」


 ゴオオオォォォッッッ──!!!!


「んなっ!?」

「ガアァッ!?」



 黒龍と遜色ない巨大な炎弾が2人を襲う。

 間一髪の所で黒龍がトワさんを連れて上空に飛んで逃げたが、2人がいた場所は爆ぜてクレーターを作った。



「……まさかとは思いますが、火精霊は炎系統の魔法も思うままなのではぁ〜?」

「御明答です。他にも元ある炎を自由に操ったり、体感温度を変えられたり……熱系の能力に特化してるんですよ」

『どやぁ〜!』



 クレアが無い胸を張っている。

 だから調子に(以下略)。



「……ふふ……ふふふ……あはははははは!」



 お調子者に説教しようとすると、黒龍に乗っているトワさんが豪快に笑いだした。


 何だろう、壊れた?



「あははっ! まさか、幻獣種ファンタズマがここまで強いなんて思いませんでしたよぉ〜。私もまだまだですねぇ〜」



 そりゃあ、幻獣種ファンタズマと戦う機会なんてないもんな。


 トワさんと黒龍が俺達の前に降り立った。



「《ブレス》を防がれ、《ドラゴン・クロー》を防がれ、更に同威力の《ブレス》まで使う幻獣種ファンタズマ……この他にも、もう2体いるんですよねぇ〜?」

「あ、はい。同じくらい強いのが」

『んな! 私の方が強いわよ!』

『いいえ私です! ご主人様、私が1番です!』

『ボクはコゥの1番ならなんでもいーや』



 あーはいはい。ちょっと黙ろうね皆。



「なるほど〜。あなたの力がよく分かりました〜。これはもう、文句はありませんねぇ〜」

「え、じゃあ……!」

「むしろこちらからお願いしたいですぅ〜。コハクさん、是非テイマーギルドのハンターとして、入ってくださ〜い」



 ぉ……お、おおっ……!

 遂に……遂に……!



「内定キタコレーーーーーー!」

『ご主人様、おめでとうございます!』

『さすがコゥ! コゥさすが!』

『ま、私のおかげね。褒めてくれていいのよっ』



 テイマーとなって苦節7年。

 やっと……やっと安住の地を手に入れた!


 ここからスタートするんだ。


 俺の……俺のテイマー人生が!

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