ギルド登録──①

   ◆◆◆



「見えてきた。ブルムンド王国首都、アレクスだ」



 ターコライズ王国を出て1週間が経った。

 本来なら馬車で1ヶ月かかる距離。

 だがフェンリルのスピードでは、その距離を1週間で走破出来た。



「流石フェン。速い速い」

『えへへ! ボクさすが! さすがボク! 褒められた!』



 フェンリルの首を撫でる。

 多分、凄く尻尾を振ってる気がする。後ろ向きだから見えないけど。

 この子、昔から褒められるの好きだからね。


 眼下に広がる広大な大地。

 ブルムンド王国首都アレクスは、そんな大地の最東端に位置する港町だ。


 更にアレクスにはテイマー専門のギルド、テイマーギルドというものがある。


 ここがダメなら別の場所に行くしかないけど……どうなるだろう。心配だな。



『ご主人様、ご安心を。必ずうまくいきますよ』

『そうよコハク! ガラクタと同じ意見は癪だけど、あんたなら大丈夫!』

『叩き潰しますよ羽虫』

『はぁんっ!? は、は、羽虫って言ったわねぇ! それ精霊には禁句だから! 禁句だからぁ!』

『知ってますよ蝿』

『はははは蝿! 蝿って言った! コハク、今こいつ蝿って言ったぁ!』



 分かった分かった。分かったから揺らさないで、落ちる。



「スフィア。仲間なんだからそんなこと言っちゃダメだよ。ちゃんとクレアに謝ってね」

『……申し訳ございません』

『ふふんっ、頭を垂れなさい!』

「クレアも、スフィアにガラクタって言ったことちゃんと謝ること」

『むぐっ……ごめんなさい』

『ざまぁないです、ぷぷ』

『むぎぎぎっ……!』



 全く、この子達は。


 そうしてるうちにアレクスの門前に到着。

 既にブルムンド王国への入国と移住手続きは終わってるけど、ここでも街に入るために手続きがいるみたいだ。


 俺はフェンリルから降りると、近くにいた警備兵に声をかけた。



「あの、すみません」

「む? 何用だ?」

「テイマーギルドに入りたくて」

「ということは、君はテイマーか。何か身分を証明出来るものはあるかね」

「天職カードでいいですか?」

「うむ」



 天職が言い渡される13歳の年に発行される、天職カード。

 ここに俺自身の魔力を流すと、写真や名前などが浮かび上がる。


 仕組みは不明。さして興味もなし。



「……確認した。今、テイムしている魔物はいるかい?」

「……今はいません」

「……分かった。ようこそアレクスへ。コハク殿、我々は君を歓迎する」

「ありがとうございます」



 警備兵に敬礼され、門の中へ入っていく。

 テイマーなら検問の際に、テイムした魔物も確認する必要がある。

 だけど俺の場合は見えないから嘘ついた。

 だって見えないししょうがないよね。



『コゥ、宿行く? 宿行く?』

「いや、まずはギルドに行こう。スフィア、お願い」

『承知しました、ご主人様』



 スフィアの目が光り、ホログラムの地図が浮かび上がる。

 ギルドの位置を赤い点。俺達の現在地を青い点で示し、最短ルートを割り出した。



「流石、ありがとうスフィア」

『恐れ入ります。……っし』



 スフィアは嬉しいみたいで、隠れてガッツポーズをした。

 本当、うちの子達は褒められるのが好きだなぁ。



 機械人形マシンドールは魔法が使えない。

 その代わり、この世界の機械技術の数千年先の技術が詰め込まれているらしい。


 地図の通りに歩くことしばし。

 迷うことなく、テイマーギルドへやって来た。


 大きい。そして綺麗な外見だ。

 まだ出来たばかりなのか、改装したかは分からないけど。

 扉の左右には巨大な狼型と石像が建てられている。

 どことなくフェンリルに似てるような……?



『ねえ、あれフェンリルっぽくない?』

『ええ! ボクもっとかっこいいよ!』

「俺もフェンっぽいって思った」

『そんなぁ!?』



 しょぼんとするフェンリル。

 ああ、可愛いなぁやっぱり。

 フェンリルのしょぼん顔にホッコリしていると。



「何ニヤついてんだあいつ……」

「1人なのに」

「おかーさん、あの人わらってるー」

「シッ、見ちゃ行けませんっ」

 


 あ……そっか、周りには見えてないんだ。


 はぁ……行こう。

 少し意気消沈しながらもテイマーギルドに入った。



「おお……!」

『わあぁ……!』

『魔物いっぱい! いっぱい!』

『流石テイマーギルドですね』



 流石、テイマーギルドと呼ばれるだけあって魔物だらけだ。

 獣型、昆虫型、人型……とにかく多い。

 ターコライズ王国ではこんなにテイマーはいなかったなぁ。

 何だかワクワクしてきた。


 辺りをキョロキョロと見渡す。

 と……なんだろ、魔物達の動きが騒がしいな?



「お、おいどうしたんだよっ」

「え、なにっ、え?」

「おい! 言うこと聞けよ!」

「どうしたの? なにか怖いの?」



 魔物達が、テイマーの後ろに隠れて俺の方を見ている。

 ……あ、そうか。クレア達は人間には見えないけど、魔物には見えるんだ。

 しかも全員、幻獣種ファンタズマ

 通常の魔物は人間の言葉は喋れないから、ああやって行動で示すしかないんだ。


 悪いことしたな。

 ごめんね皆、怖がらせちゃって。


 心の中で謝罪し、ギルドの受付に向かう。



「あの、すみません。ギルド登録したいんですけど」

「はい、承知しました」



 栗色の髪を緩く編み込んだ女性が近付いてきた。

 テイマーギルドの制服なのか、紺色のロリータケープコートが特徴的だ。



「初めまして。テイマーギルドスタッフのサリアです。本日はギルド登録ですね」

「こ、コハクです。よろしくお願いしますっ」



 若干声が上擦った。恥ずかしい。

 き、緊張する。今まで登録すらさせてもらえなかったから……。


 サリアさんは少しだけ口角を上げると、テーブルの下から水晶玉を取り出した。



「では、こちらに触れてください」

「……あの、これは?」

「最近開発された水晶です。テイマーであること。テイム出来る魔物。今テイムしてる数。それらを自動的に表してくれるもので、量産出来ず現在このギルドにしか置かれていません」



 へぇ、なるほど。テイム出来る魔物が……え?



「て、テイム出来る魔物……?」

「はい。ですので、嘘をつこうとしても──」

「テイム出来る魔物を調べられるんですか!?」



 そんな……えっ、本当に!?



「は、はい。この水晶で……」

「……ぁ、ぁぁ……!」



 ど、どうしようっ。感極まって声が出ない……!

 今まで口頭でしか説明出来ず、それも嘘だと否定し続けられてきたのに……!



「……何か不都合でも?」

「滅相もない!!!!」



 こ、こんな……こんな求めていたものが、ここにあるなんて……!



「そ、そうですか……」



 あれ、ドン引きしてる? なぜ?



『きれーな玉! コゥ、投げて、投げて! キャッチボール!』

『フェンリルうっさい! コハク、早くやってみなさいよ!』

『本当に調べられるか、見ものですね』



 ゴクリ……。

 い、いざ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る