第34話 負けヒロインは委員長⑤

 とある日の放課後。


 今日は千代の手伝いが出来なかった。


 何故なら、亜希と麻衣ちゃんに呼び出しを受けたからだ。




 カラオケボックスの個室に入った途端、有無を言わさずに正座をさせられた俺。


 ……大体、見当はついているため、俺から文句を言うことはない。


 こちらを見下ろした亜希が、口を開いた。




「最近、友馬が伊院さんと仲良くしているのは、どうしてか。説明をしてもらえるかしら?」




 やはり、千代との行動のことを咎めたかったようだ。


 亜希と麻衣ちゃん、そして瑠羽とのコミュニケーション自体は、千代の攻略と並行して続けていただのだが、俺の想定以上に千代から頼りにされており、この数日学校にいる時間のほとんどを彼女と過ごしていた。


 下校後は亜希や麻衣ちゃんと出かけたり、瑠羽と電話をしたり、気をつかってはいたものの、彼女たちが不満を抱いてしまうのも仕方ないことだろう。




「伊院と行動を共にすることで、俺の『HENTAINOTE』という悪評が改善されるかと思いまして……」




 俺が言うと、亜希と麻衣ちゃんがクソデカ溜め息を吐いて、不機嫌そうに言う。




「この間も言ったでしょ? 友馬は今のままで良いのよ」




「そうです、友馬さんの良いところを知っているのは、私たちだけで良いんです!」




『お願いだから、お馬鹿でスケベな友馬君のままでいてよ、ね?』




 亜希と麻衣ちゃんの後に、瑠羽の声まで聞こえた。


 見れば、ビデオ通話の状態で、スマホから音声がお届けされていた。




「瑠羽、今日は撮影があるんじゃないの?」




『なかったらその場にいるからね』




 平然と答える瑠羽。


 そう言う事が言いたいわけじゃない。


 忙しいのでは、と気を使ったつもりだったんだけど……。




「そう言ってくれるのはありがたいんだけど。……やっぱり、嫌われ者のままだといけないって思ってな。あのノートを作ったことで迷惑を掛けた人も多いし、その分誰かのためになる行動をしたいんだ」




 俺がそう言うと、三人は呆れたような表情を浮かべた。




「何まともなこと言ってるのよ?」




『そうだよ、『HENTAINOTE』の製作者にして平然と3人の恋人をつくる人の言葉じゃないよね?』




「頭、大丈夫ですか……?」




 ぼろくそに言われる俺。特に、シンプル故に麻衣ちゃんの言葉はダメージがでかかった。


 しかし、彼女らの言葉はまさしく正論。何一つ反論ができず、ぐうの音も出なかった。


 ……それにしても、ちょっと言いすぎじゃなかろうか。、


 不安に駆られた俺は、彼女らに問いかける。




「……あの、本当に俺のこと好きなの?」




「はぁ、大好きだけど?」




『大好きだよ!』




「大好きに決まってるじゃないですか?」




 三人はそれぞれ即答した。


 嬉しくて恥ずかしくて、俺は思わずニヤケそうになり、顔を背ける。


 それから、コホンと一つ咳ばらいをして気を取り直し、三人に言う。




「ありがとう。三人の考えは分かったし、気持ちも嬉しい。……だけど、伊院のサポートは必要だと思ってるんだ」




 それから続けて、千代のサポートが必要な理由を説明をしようと思ったのだが、




「やっぱり、伊院さんのために一緒にいたってわけね」




 と、亜希が呆れたように言った。決して、嫉妬の感情ではなかった。




「伊院さん、真面目過ぎて言い方もキツイから、やっぱり周囲には反発する人も多くてさ。友馬はそれを知ってて、フォローしようと思ってるんでしょ?」




 亜希は非常に面倒見の良い性格をしている。


 クラス内の事情も把握しているのだろう。


 俺は無言で頷いた。




「……これは友馬に言うか迷ったんだけど」




 そう前置きをしてから、亜希は続ける。




「伊院さん、最近注意をするときの言い方が優しくなったんだけどさ。それを、テストで1位から陥落したから、って思ってる人もいてさ。そういう人たちがちょっと調子に乗ってるみたいなんだよね。その……『友馬みたいな不真面目な奴にテストで勝てないくせに威張るなよ』って感じで」




 恐る恐る俺の表情を窺いつつ、亜希はそう言った。


 そのことを、俺は知らなかった。予想すらしていなかった。




「……完全に、俺のせいだ」




『どう考えても、友馬君のせいじゃないと思うけど』




 俺の呟きに、瑠羽がそう言ってくれた。




「いや、俺が最近伊院に、もっと優しい言い方をした方が良いって言ったんだ」




「そうだったんですね……」




 俺の言葉に、麻衣ちゃんが暗い表情で呟いた。




「でも、やっぱり友馬のせいじゃないわよ。悪いのは、あくまで陰口を叩く奴なんだから」




 亜希はそう言って俺に微笑みかける。




「私がいる時はフォローするけど、それにも限度があるから。友馬のことは信頼してるみたいだし、辛そうな時は相談に乗ってあげなよ」




 亜希の言葉に、俺は頷く。


 それから、




「……ところで、最初の話の趣旨から結論が大きくそれてしまったけど、良いのか?」




 元々は、俺が千代と行動をするのが不満だったはず。


 にもかかわらず。結果的にサポートをすることが認められてしまった。




「良いわよ、そういう友馬のことが好きなんだから」




『そうそう、ここで伊院さんを見捨てるような薄情な人を好きになった覚えはないもん』




「あとはもっと、私たちに構ってくれれば、言うことないんですけど。しばらくは我慢ですね」




 優しい女の子たちだ、と改めて思った。


 俺なんかにはもったいないヒロイン達だ。




「俺も、他人のことを心の底から思いやれるみんなのことが、大好きだ」




 思わず本心を吐露してしまった。




「急に何言ってんのよ? そんなところも好きだけど」




『それって、そのまんま友馬君のことだよね。私もそういうところ、大好きだよ』




「あんまり恥ずかしいこと言わないでください。照れくさいけど、沢山好きって言いたくなるじゃないですか」




 三人が俺に向かって立て続けにそう言い。


 この場にいた全員が嬉しさのあまり照れて悶えることになった。




 きっとはたから見れば、さぞ奇妙な空間だったろうな、と後になってそう思うのだった――。

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