第33話 負けヒロインは委員長④
それからも俺は、休み時間や昼休み、放課後などで、千代の仕事につきあった。
「伊院、悪いが次の授業に必要だから、プリントを教室に持って行ってはくれないか?」
「分かりました」
先生から資料を運んで欲しいと頼まれれば力を貸し。
「てめーふざけんなよ!」
「うるせぇ、やるのかこの野郎!」
生徒同士のトラブルが起これば、
「他の人の迷惑になるから、喧嘩をするのは止めなさい」
物怖じせずに仲裁に入り。
「その制服の着崩し方は、校則違反です。シャツはズボンに入れて、柄物シャツも着てくるのはやめるようにしてください」
「このくらい別に良いだろ?」
「良くないわ! 服装の乱れは心の乱れ、制服を着崩すことから非行が始まるのよ」
「……んだよ」
校則違反をしている生徒には、毅然と注意をした。
「……というか、学級委員長の仕事というよりも、風紀委員としての仕事ばっかりだな」
ある日、俺は千代にそう言った。
彼女は一年生の頃から、学級委員長でありながら、風紀委員にも所属している。
千代は先輩後輩男女問わず、校則違反や問題行動を起こすあいてには、正論で注意をしていた。
「問題を起こす人が多くて大変だわ。でもこのくらい、風紀委員として、当然のことだわ」
彼女は呆れたようにそう呟いた。
学校をより良くするために、彼女は行動し、頭を悩ましているのだ。
「とはいえ、あんまり締め付けすぎるのはよくないと思うけどな。正論を押し付けられると、どうしても反発が生まれる」
「それじゃああなたは、ちょっとしたことだったら見逃せって言いたいの?」
俺の言葉を聞いて、彼女は不機嫌そうに俺を見た。
「そうは言っていない」
俺が彼女を見つめて答えると、視線を逸らされる。
それから、恥ずかしがるように、彼女は呟く。
「……あなたに伝えた時は、こうして変わってくれたじゃない」
急にしおらしく、俺を上目遣いに覗き込んできた。
突然の可愛い態度に、心臓が止まりそうになる。
「伊院は頑張りすぎじゃないかってことだよ」
俺の言葉に、千代は不服そうに首を傾げた。
自分は正しいことをしているのに、どうしてたしなめられないといけないのかと思っているのだろう。
彼女は、正しい。
――だけど、正しさだけじゃこの先に進めない。
千代は以前のループで、正論を押し付け個人の意見を軽視することが多かった。
そのことに不満を持った生徒たちから、徐々に嫌がらせを受けることになった。
公人と恋人になるルートでは、彼の支えにより、問題を乗り越えることが出来たのだが……。
他のヒロインと恋人になるルートでは、彼女の心の拠り所はなくなり。
誰にも悩みを打ち明けられないまま、失恋の傷を癒すこともできず。
――最終的に、自ら命を絶ってしまうのだ。
今回は、そんな結果を迎えるわけにはいかない。
千代のことは、俺が傍で支えないといけない。
おそらく今回の千代の攻略では、亜希の事故死、瑠羽の刺殺、麻衣ちゃんの転落死のように、死亡イベントを前倒しにして命を救うという衝撃的なイベントを経て告白をする、という手は使えない。
俺が公人の代わりに千代の傍にいれば、自死を選ぶことはないはず。
死亡イベントがこのまま起こらないことも考えられるが、楽観はできない。
全く想定していない死亡イベントが起こることも考えられるからだ。
死亡イベントを通して好感度を荒稼ぎするチート攻略法が使えない。
であれば、俺は正攻法を使うしかない。
「不満があったら、俺がいつでも愚痴を聞いてやる。だから、他の生徒には、もう少し優しく言う事って、出来ない?」
俺は千代をまっすぐに見つめて言う。
彼女は「もうっ」と呟いてから視線を逸らして言った。
「あなたが言うなら……善処してみるわ」
幸い、好感度は十分に稼げているようだ。
不安はある。
だが必ず、俺が攻略しすくってみせる……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます