第19話 負けヒロインは妹①
俺は麻衣ちゃんを見る。
相変わらず、公人とは全く似ていないなと思った。
公人は良く見れば可愛らしい顔をしているものの、基本的には黒髪の地味顔だ。
しかし、妹の麻衣ちゃんはと言うと、誰もが一目見て美少女と思うような容姿端麗。
その上、公人とは違う綺麗な銀髪の影響もあり、まるで天使か妖精に見紛うような神秘的な雰囲気も併せ持つ。
ちなみに銀髪は地毛だという。
……複雑な家庭環境で、血のつながっていない義妹かとも思ったが、麻衣ちゃんは紛れもない実妹だという。
公人の父と母は二人とも黒髪で、公人と同じく整ってはいるものの、地味な容姿だ。
麻衣ちゃんだけが、華やかな容姿をしている。
――やはり公人はギャルゲー主人公だったかと、俺は隣でジュースをすする彼を見てそう思った。
「ん、どうしたの?」
公人は俺に視線に気づき、そう問いかける。
俺は彼に目配せをしてから、
「麻衣ちゃん、高校入学おめでとう。ここは俺と公人の奢りだから、好きな物を何でも注文してくれ!」
「二人がご馳走してくれるんですか……?」
「おう、先輩たちに任せておけ、な?」
麻衣ちゃんの言葉に答えてから、俺は公人を見る。
彼は少々呆れた様子だったが、
「可愛い妹のお祝いだしね」
と、苦笑を浮かべて答えた。
麻衣ちゃんはその言葉に、僅かに頬を染める。
彼女は、お兄ちゃんのことが大好きな妹キャラ。
これまでのループでは、【禁断の兄弟愛ルート】もあり、立派な攻略対象キャラだ。
しかし、現状公人に向ける好意が、兄妹愛か恋愛による愛情か、自分でもよく分かってはいない。
「ありがとう」
照れくさそうに、麻衣ちゃんは公人に向かってそう言い、「……あ、阿久さんも、ありがとうございます」と、思い出したように付け加えた。
俺は麻衣ちゃんのお礼に、サムズアップをして答えた。
「それじゃあ、遠慮なく……これを」
そう言って、麻衣ちゃんはタッチパネル式の端末で注文を決定した。
ついでに、盛りに盛った山盛りフライドポテトも一つ注文をする。
それから、すぐに麻衣ちゃんの注文したパフェが運ばれた。
「……美味しそう、いただきます」
瞳を輝かせながら、麻衣ちゃんは言う。
小さな口でパフェを美味しそうに食べ進めるさまは……とても幸せそうで、めちゃくちゃ可愛らしかった。
俺と公人は彼女を見てから顔を合わせて、微笑み合った。
「麻衣ちゃん、高校生活はどう?」
俺の質問に、彼女はこちらを一瞥してから答える。
「慣れてきました。……けど、通学時間が長くなったのは、ちょっと大変です」
「麻衣も寮に入れば良かったのに」
麻衣ちゃんの言葉に、公人はついさっき運ばれたポテトを口に運びながら言った。
「……人見知り、するもん」
公人の言葉に、不満そうに頬を膨らませ、それから麻衣ちゃんはじぃっと公人を見て言う。
「兄さんは、連休になっても家に帰ってこないから。お母さんが怒ってるよ」
「それは……麻衣が誤魔化しといてよ」
あはは、と苦笑した公人。
彼に対し、尚もジト目を向ける麻衣ちゃん。
「あ、クリームついてるよ麻衣」
そう言って、公人は麻衣ちゃんの頬についていたクリームを、紙ナプキンで拭った。
話を誤魔化すのには、丁度良いタイミングだった。
「……子供じゃないんだから、やめてよ」
恥ずかしそうに、麻衣ちゃんはそう言った。
それから、ムスッとした様子でパフェを食べ進める麻衣ちゃん。
どうやら公人の作戦は成功したようだ。
それから、パフェを食べ終えた麻衣ちゃんは「ご馳走様でした」と、言ってから、
「そうだ。今度、お礼に私が二人にお弁当を作ってきます」
と告げた。
「良いよ、気にしないで麻衣! お祝いするのは当然なんだから! ね、友馬!?」
「もちろんだ公人! 俺たちはただ麻衣ちゃんの入学祝のために、ご馳走しただけに過ぎない。当然、見返りなど求めないのであるっ!」
俺と公人は慌ててそう答えた。
こうも俺たちが慌てているのには、理由があった。
麻衣ちゃんは、誰もが見惚れるような美少女であり、運動は苦手なものの、成績はとても良い。
そんな、とても魅力的なヒロインな彼女には、致命的な欠点があった。
「遠慮しないでください。二人とも、栄養バランスとか全然考えてなさそうだし、私が健康的なお弁当を作りますから。次のお昼は、一緒に食べましょう」
微笑みを浮かべて、彼女は言った。
決意は固いようだ。
俺と公人は互いに顔を合わす。
公人は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
悲壮感が漂っているが、麻衣ちゃんは全く気付いていない。
「……わぁ、ありがとう麻衣」
「……楽しみにしてるぜー」
俺たちの言葉に、麻衣ちゃんは答える。
「はい、腕によりをかけて作りますね」
儚げだが、可憐なその笑顔。
彼女の致命的な欠点を知らなければ、まさしく天にも昇る気持ちで眺められるのだろうが――。
麻衣ちゃんは今時のヒロインには珍しい、メシマズ系ヒロインのため、これっぽっちも嬉しくなかった。
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