第18話 三人でデート

 無事に、亜希と瑠羽から二股を許されてから、数日後。


 今日は、大型連休の初日だった。




 タイミングよく、瑠羽の仕事に空きが出たため、亜希と一緒に三人で出掛けていた。


 彼女たちと出掛けることは、単純に楽しみではあったが、不安もあった。


 これまで、亜希と瑠羽の接点はほとんどなかった。


 お互いに、非常に複雑な感情を持っていることは、容易に予測できる。




 二人が仲良くやっていけるのか、正直かなり心配だ。




「……まずは、俺から歌を入れます」




 俺は二人に向かってそう言った。


 今は、瑠羽が他人の目を気にしないでいられるように、カラオケボックスに遊びに来ていた。




 亜希は一番手だと変に緊張するだろうし、逆に瑠羽が最初に歌えば、後に歌う人が委縮してしまう。


 俺が歌い、亜希、瑠羽に歌ってもらうのが無難だろう。




「うん」




「楽しみ」




 二人の答えを聞いて、俺は一瞬で選曲を終える。


 メロディが流れ、音量を調節し、俺は歌いつつ、二人の様子を伺う。


 気まずさに、無言で過ごすのでは、と心配していたのだが――。




「そういえばさー、瑠羽の新曲聴いたけど、すごく良いじゃん。衣装も可愛いし、羨ましい」




「ありがとう。そう言ってもらえてうれしいよ。家には他の曲の衣装があるんだけど、今度亜希ちゃん家に来て、衣装を着てみない?」




「えー、あたしは、あーいうフリフリな可愛い衣装は、似合わないし、遠慮しとくわ」




「そんなことない、絶対に似合うって! 今度時間作るからさ、その時試しみようよ!」




「……瑠羽が、そこまで言うなら。分かった、その時は誘って」




 その心配は杞憂だったようだ。


 俺の歌はそっちのけで、おしゃべりに夢中になっている。


 そうしてか、二人はとんでもない勢いで仲良くなっていた。




 俺が歌い終えても、次の曲は始まらなかった。


 おしゃべりに夢中で、選曲が出来ていなかったのだ。


 俺はマイクを机の上に置いてから、二人に問いかける。




「あの……二人はいつの間にそんなに仲良くなったの?」




 俺の言葉に、亜希が「ん?」と首を傾げてから、




「友馬の代わりにノートの写しを送ってたけど、それ以外にも結構やり取りしてたら、自然とって感じ?」




 彼女はそう言って、瑠羽に同意を求める。




「うん、私友達全然いなかったけど、亜希ちゃんは凄く話しやすいし、頼りになるから。なんか、私の方がべったりって感じだよね」




「そ、そんなことないわよ。あたしだって、瑠羽と話すの楽しいんだからねっ!」




 瑠羽の言葉に、亜希が照れくさそうにそっぽを向いた。




 ……NTRやんけ!?




 俯きつつ膝の上で拳を握りこみながら、俺は内心で叫んだ。


 俺が腕を怪我してキレイにノートを書けなくなった隙に、亜希がノートの写しを瑠羽に送るようになっていたのだが、まさかこんな短期間で瑠羽を攻略するなんて……。




 落ち込んだ様子の俺に気づいたのか、瑠羽がニヤニヤと笑みを浮かべている。




「あ、そうだ。亜希ちゃんが家に来るときは、友馬くんもきてくれるよね?」




 彼女は俺に向かってそう言った。


 良かった、俺のことをちゃんと覚えていてくれた……。




「もちろん! お招きください!」




 俺の言葉を聞いた瑠羽は、亜希の微笑みを向けてから、揶揄うように言う。




「良かった。それじゃあ、二人で友馬くんに可愛い恰好見せなくちゃ、だね?」




「は、はあっ!? なんであたしがそんな……ば、バッカじゃないの!?」




 顔が真っ赤になった亜希は、ふん、とそっぽを向いた。


 そんな亜希に向かって、瑠羽はなおも揶揄うように言う。




「じゃあ、私だけ見てもらっても良いのかなー、亜希ちゃん?」




「そ、それは……んぅ……」




 言葉に詰まる亜希。


 彼女はそれから俺をじっと見た。




 二人きりの時はデレデレな亜希だが、瑠羽も一緒にいる時は恥ずかしさが勝るのか、ツンなところが出がちだ。


 そこが可愛かったりする。




 亜希が決して嫌がっているわけではないのを、瑠羽も分かったのだろう。




「じゃあ、楽しみにしててね、友馬くん?」




 瑠羽は照れながら、俺に向かってそう言った。


 俺は彼女の問いかけに、




「もちろん、楽しみだ!」




 と答えた。


 良かった、俺の居場所はちゃんとここにあるんだ――。




 そんな風に感動を覚えた俺は、そう言えばと思い出し、問いかける。




「そうだ、次は何を歌うつもり?」




 亜希は「あ、そうだった!」と言ってから、タッチパネルを操作する。


 選曲を終えると、聞き覚えのあるメロディが流れ始めた。


 あれ、この曲は……。


 俺がそう思っていると、亜希と瑠羽・・・・・の二人がマイクを持って立ち上がる。




「本人と一緒に歌えるって、めっちゃ緊張するんだけど!」




「私も、何か変に緊張してきちゃった!」




 そう言ってから、二人は歌い始める。所謂デュエットと言う奴だ。


 曲は何を隠そう、瑠羽の所属する『3ニン娘。』のもの。


 自分の歌を完璧に歌い上げる瑠羽も、楽しそうに歌う亜希も。


 二人とも、凄く可愛らしいと、彼女らを見ながらそう思った。




 ――だが、しかし。


 もしかして俺ってば、二人にとって邪魔虫なんじゃなかろうか?


 と、その尊い様子を見て思うのも、仕方のないことではなかろうか……。

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