第17話 運命を変える
亜希と瑠羽、二人のヒロインを攻略し、俺は改めて自分の行動で、彼女らの運命を変えられるのだと確認できた。
そして、俺が運命を変えられるのは、何もヒロインに限った話ではないということも。
例えば、亜希を轢きそうになったトラック運転手。
バッドエンドとなる世界では、彼はあの場で亜希を轢き殺すことになっていた。
亜希を救う傍ら、彼の運命も変えたのだ。
そして、恐らく瑠羽の時も。
俺は一人の男の運命も変えてしまった。
瑠羽のストーカーだった男「スネイクマン」だ。
彼がストーカー男なのは間違いなかったが、俺が瑠羽と一緒にいるところを、過去の記憶を生かして立ち回れば、彼の凶行を回避することや、ストーカー行為をやめるように説得することも、恐らく可能だった。
そうしなかったのは、瑠羽との攻略を急ぎたかったからだ。
瑠羽は多忙なアイドルであり、単純に接触できる回数が限られているヒロインだ、
俺が把握していない死亡イベントが、この世界で発生する可能性も否定はできない。
――だから俺は、自らが把握していた死亡イベントを発生させ、その後に折った。
瑠羽の身に危険が及ぶ可能性があることもいとわずに、そのイベントを利用して、彼女からの好感度稼ぎさえ行った。
目論見通り、瑠羽は俺に対して好意を抱いたが……。
代わりに、「スネイクマン」は豚箱にぶち込まれることになった。
亜希を、瑠羽を救い、彼女らと恋人になれたのは、俺の望み通りの展開だ。
だけど……どうしても。
彼女たちから笑顔を向けられると、罪悪感に似た感情を抱く。
今の俺の状況を考えると、トロッコ問題を思い出す。
線路を走っている制御不能のトロッコがある。
このままでは、線路の先にいる5人の作業員が死んでしまう。
ただし、分岐器を操作してトロッコの進行方向を変えれば、作業員Aの犠牲のみで済む。
分岐器を操作できるのは俺だけ。
……要約すると、多数を助けるために、少数を犠牲にするのは許されるのか? という問題だ。
この問題に、正解はないと俺は思っている。
だが俺がやっていることに関しては……正解ではないと断言できる。
死ぬはずだったヒロインを生かすために、その他大勢を不幸にし、その上救ったヒロインの気持ちを、二股、三股という形で、俺自身が裏切っているのだ。
ループを回避するため。
そしてヒロインを生かすため。
いくら大義名分があるからといって、俺の行いを正当化するわけにはいかない。
今後もループを繰り返し、理想的なエンディングに辿り着くまで繰り返せば、不幸になる人数を限りなく0に近づけることも可能かもしれない。
公人が脇谷と恋人になる、という不測の事態が既に起きている。
このままループを繰り返せば、勝手に最高のエンディングを迎えるルートも、ありえないと言い切れない。
だが、そのために、何度も試行錯誤をすることはできない。
それはすなわち、ヒロインたちが死ぬ可能性を放置することに繋がるからだ。
だから、俺は――多くの人間を不幸にしてでも、ヒロイン達の攻略を進めると決意したのだ、
このままヒロインたちの攻略を続け、予想通りにループを抜け出し、幸せなアフターストーリーが始まったとして。
俺が最後に行きつく先は……地獄に違いない。
それでも良い。
俺はただ、これ以上ヒロインたちの死を見たくないという自分勝手な考えで、彼女たちを欺き、心を奪っていくのだから。
俺の行いを、彼女ヒロインたちの命を救うため、なんてお題目を掲げるつもりはない、
その考えでは結局、俺が多くの人間を不幸にする責任の片棒を、ヒロイン達に押し付けてしまうことになる。
だから俺は、誰に言われるでもなく、俺自身の意思で、たくさんの人間を不幸に突き落とすのだ。
……その上で、俺は彼女たちを必ず幸せにしなければならない。
亜希と瑠羽――それ以外のヒロイン達も含めて。
同時に複数の恋人がいるからと言って、愛情に優劣をつけず、彼女たち全員を絶対に幸せにする。
そうしなければ……俺が切り捨ててきたものが、全て無駄になってしまうから、
俺自身の結末が、地獄行きが決定していたとしても構わない。
重ねて言う。俺は選んだのだ。
誰を傷つけようと――それが彼女ヒロインたち自身だとしても。
彼女たちが生きてくれるなら、どれだけの犠牲を払っても構わない、と。
――感傷に浸るのは、一先ずここまで。
うじうじと迷っている時間ももったいない。
すぐにでも3人目の攻略を、始めないといけないのだから――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます