第16話 カノジョも彼女

   俺たちの様子を見て、唖然として立ち尽くしている亜希。




 どうして休日の学校に生徒が来たの? ――という疑問が、瑠羽にはあるだろう。


 しかし、その理由を俺は知っている。


 何故なら――俺が彼女をここに呼んだからだ。




「あ、これはねっ、彼に授業のノートを借りようと思って、来てもらって。それで、その……目にゴミが入って、取ってもらっていたところで!」




 早口にまくしたてながら、瑠羽はそう言って。俺から離れた。


 アイドルに恋愛は、御法度だ。


 クラスメイトとはいえ、他人に俺と瑠羽が恋人だとバレるわけにはいかないのだろう。




「こんな人気のない場所に呼び出して、わざわざ?」




 亜希は疑うように、瑠羽に向かってそう言った。




「ほら、男の子と私が会っているところ、人にはあんまり見られたくないし」




「それなら、女子に頼めばよかったんじゃない?」




「女の子の友達がいないというか、そもそも頼れる友達が彼しかいなくって……」




 弱々しい声音で、瑠羽は俯きながら言った。


 その様子を見た亜希は、俺を見てから不機嫌そうに言う。




「友達の少ない大人気アイドルと、何故か仲の良い男友達の阿久友馬くん? 事情を説明してもらっても良いわよね?」




 亜希からしてみても、俺と付き合っていることを瑠羽に知られたくはないのだろう。


 決定的な言葉は用いずに、彼女は俺を問い詰める。




 ――ここから先は、ぶっつけ本番だ。公人はこれまで、二股をしたことがなく、参考となる経験はない。


 俺は深呼吸をして、まずは亜希の前に立ち、瑠羽に向かって言う。




「瑠羽、紹介する。俺の彼女の真木野亜希です」




「「……ええっ!?」」




 突然の言葉に、亜希と瑠羽は同時に驚きの声を漏らした。


 亜希としては、周囲には恋人関係を隠しているのになぜ瑠羽には言うのか、という戸惑いがあるのだろう。


 そして瑠羽は――「彼女は私なんじゃ……?」という驚きだ。




 俺は二人にフォローの言葉を告げないまま、今度は瑠羽の前に立って言う。




「亜希、紹介する。俺の彼女の愛堂瑠羽です」




「「……はぁっ!!??」」




 突然の言葉に、亜希と瑠羽はまたしても同時に驚きの声を漏らした。


 瑠羽としては、アイドルだから恋人関係は隠して欲しいのに、なぜ亜希に言うのだろう、という戸惑い。


 亜希は「彼女は私って、今紹介してたよね……?」という驚き。




 そしてなにより、二人とも。


 ――『何を言ってんだこいつ』と、俺の言葉の意味が分からないでいるのだろう。


 その答えを、俺は二人に向かって頭を下げる。




「二人とも、これまで隠しててごめん。俺は……二股をしています」




 俺の言葉は完全に二人の理解の範疇を越えていたのか、亜希も瑠羽も呆然としていた。


 これから先も、ヒロインの攻略は続く。


 それだけでも大変なのに、彼女らに二股を隠したまま各イベントを進めていくのは不可能だ。


 だからここで、二人にはこの関係を受け入れてもらわなければならない。




 しばらくして無言だった亜希だが、首を振ってから口を開いた。




「何言ってんのよ、友馬みたいな普通の男子が、大人気アイドルの愛堂さんと付き合えるわけないでしょ!?」




 その言葉に反応をしたのは、瑠羽だった。




「……あの、その前に真木野さん。本当に、友馬くんと付き合ってるの?」




 その質問に、うっと言葉に詰まってから、亜希はコクリと頷いた。




「ちょっと前から、付き合ってる。愛堂さんも……本当に友馬と付き合ってるの?」




 瑠羽は少しためらう様子を見せてから、




「うん。……一応、アイドルだから、誰にも言わないで欲しいけど」




 と答えた。


 二人は顔を見合してから、同時に俺へと視線を向けた。




「それって、つまり……」 




 亜希はそう呟いてから、きっと俺を睨んできた。




「あたしのこと飽きて、愛堂さんのことが好きになったってこと? ……それなら、わざわざこんなことしないで、はっきりとそう言いなさいよ」




「何を言ってるんだ? 俺が亜希に飽きたと思ってるのか? 俺の亜希に対する想いは、むしろ日に日に募るばかりなんけど?」




 俺は亜希をまっすぐに見る。


 この言葉に、嘘はなかった。亜希はとても素敵な女の子だ。


 瑠羽を攻略しつつも、その裏で彼女と一緒に時間を過ごしたが……可愛くって仕方がなかった。




「な、な……なんなのよこの男!?」




 顔を真っ赤にした亜希が、俺の横っ面を思いっきり引っ叩いた。


 避けられそうだったが、甘んじて受け入れる。


 彼女は俺の頬を叩いた手を眺めてから、言った。




「あたしが友馬を好きになったのは……色々あったからだけど、愛堂さんは、この馬鹿でスケベな二股男のどこが良かったっていうの!?」




 水を向けられた瑠羽は、ムスッと頬を膨らませて、俺を見た。


 それから、俺の腕を見てから、一つ溜め息を吐いてから言う。




「初めて仲良くなれた同年代の男の子で、色々と親切にしてくれたことと……ナイフを持ったストーカーから、身を挺して、怪我をしてまで私を守ってくれて、そしたらもう……大好きになってた」




 瑠羽は恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてそう言った。


 面と向かってそう言われ、俺も恥ずかしくなってしまう。




「何それ……」




 亜希は瑠羽の言葉を聞いて、辛そうに俺を見て、言う。




「友馬、あたしには『俺のために生きろ』って言って。……愛堂さんのためには、命を懸けて守るんだね」




「それは誤解だ、亜希」




「何が誤解なのよ、この最低二股男!」




 俺は亜希の肩を掴んで、真直ぐに言う。




「瑠羽だけじゃない。俺は亜希のためにだって、何のためらいなく死ねる!」




 俺の言葉を聞いた亜希は、狼狽えてから、プイッと顔を背けてから言う。




「っな、は、はぁ!? 確かに友馬はあたしのこと、危険を省みずに助けてくれたけど……だからといってそれで絆されると思わないでよねっ!?」




「真木野さん。顔を真っ赤にしてそんなことを言っても、説得力がないような……」




 亜希の言葉に、端から見ていた瑠羽が声を掛ける。




「んなっ!? そ、そんな私チョロくないしっ!」




 亜希は慌ててそう言った。


 それから、咳ばらいをしてから、改めて俺に尋ねた。




「……友馬は、あたしたちに二股していることを、どうして暴露したのよ。これからもこそこそ隠れて付き合うこと、出来たんじゃない?」




 俺は、二人をまっすぐに見てから、口を開く。




「俺は、二人のことが大好きだ。どちらか一方を選ぶことが出来ないくらい、同じくらい大好きなんだ! だから、認めて欲しいんだ……」




 俺の言葉を黙って聞いている二人に、俺は続えて宣言する。






「二股をすることを!!」






 堂々とした俺の二股宣言に、二人ともはぁと大きなため息を吐いた。




「……手遅れだったみたいね。愛堂さん、この女の敵はきっちり躾けておくから。後はあたしに任せて。――ごめんね、嫌な思いさせちゃって。お詫びにもならないと思うけど、これからはあたしがノートの写し、見せてあげるから」




 そう言ってから、亜希は俺の尻を蹴り上げてきた。普通に痛かったが、文句を言える立場ではない。




 瑠羽は亜希の言葉に、「ちょと待って」と言って引き留めた。


 それから俺に近づいてから、問いかける。




「友馬くん、二股されてたのはショックだったけど、事情を説明してくれて嬉しい。……私は君からもらったものが大きすぎるから。……どうしたって、嫌いになんてなれないよ」




 彼女の言葉に、亜希は




「頭大丈夫、愛堂さん……?」




 と問いかけた。




「ねぇ、私と真木野さんのどっちの方が好きか、順番をつけられないっていうのも、本当?」




 瑠羽は亜希の質問には答えず、俺に問いかける。


 俺は、彼女の視線から逃げずに、しっかりと頷いた。




「嘘じゃないんだよね、うん……分かった」




 瑠羽は俺に向かって、優しく微笑んでから言った。






「私は、二股でも良いよ」






「は、はぁっ!? 良いの!? アイドルの愛堂さんは、男なんて選り取り見取りでしょ!? それなのにこんなのに二股されても良いなんて……!?」




 亜希が驚きを隠さずに言った。




「うん。私は、友馬くんと一緒にいられない方が、ずっと嫌だから。それに、二股だったとしても。友馬君が私に向けてくれる好意が本物なのは分かるよ。……それは、真木野さんも、同じじゃないの?」




「それは……」




 瑠羽はそれから、口ごもる亜希に向かってニコリと笑みを浮かべてから言う。




「でも? ここで真木野さんが友馬くんに愛想を尽かして、私に譲ってくれるって言うなら……。彼に対する不満なんて、何にもなくなるかもだけど」




 瑠羽の言葉に「そ、そんなことって……」と亜希は呟く。


 彼女は逡巡した様子を見せてから、




「あ、あたしだって別れられるわけないでしょ……っ!」




 と、必死な表情で叫んだ。


 それから、俺に視線を向けて亜希は問いかける。




「友馬。……約束は、今もちゃんと覚えてるわね?」




「当たり前だ。俺は絶対に亜希を幸せにする。彼女が二人になっても、幸せだって思ってもらえるように、力を尽くす」




 俺の言葉に、亜希は「ん、んもー!」と言ってから、大きく息を吸い、




「あーもう、バカ! 友馬ってばホントバカ!! 馬鹿正直に二股したいなんて、何で言うかな……? バカバカバカっ!!! 最低最悪、女の敵!」




 彼女は顔を真っ赤にして、俺に向かって不満をぶつけた。


 苦しくなったのか、口を閉じてから肩で息をする。


 それから、




「でも、こんな風に言われてもっ! 未だに友馬のことが大好きなんだから……あたしも大概バカみたい」




 先ほどまでとは全く違う様子で、亜希は小さくそう言った。


 それから彼女は、照れくさそうに、上目遣いに俺を見つめてきた。




「……恋人が二人いるからって、その分あたしに向ける気持ちが少なくなったら、友馬のこと嫌いになるかもしれない」




 そう前置きをしてから、彼女は瞳を潤ませてから、不安そうに問いかける。






「だから、これまで以上に可愛がってくれないと、嫌だからね?」






 亜希の言葉に、俺は真剣な表情を浮かべて答える。




「もちろん! これまで以上に、亜希のこと可愛がる。約束する!」




「絶対だからねっ! 嘘だったら……刺すかもしれないから!」




「う、うん……」




 俺の言葉に、亜希は無邪気に笑いながら、そう言った。


 やってることを考えたら刺されても仕方ないので、冗談だろ、と笑い飛ばすことが不可能だった……。




「ねぇ、友馬君?」




 俺が戦慄していると、今度は瑠羽が問いかけてくる。


 彼女の声に振り向いた俺に、




「真木野さんだけじゃなく、私のことも。もちろん幸せにしてくれるんだよね?」




 瑠羽はそう問いかけてきた。


 俺は、大きく頷いてから、口を開く。




「当たり前だ! 二股されて不安だと思う。だけど、絶対に二人とも……俺が幸せにしてやんよ!」




 俺は拳を固く握り、決意を口にした。


 これから先も、彼女たちには不誠実なことをしてしまうだろう。


 ……だからこそ、彼女たちには俺と付き合ってよかったと思ってもらえるくらい、幸せにしないといけないのだ。




 俺の決意を聞いた二人は、互いに顔を合わせる。


 呆れたように苦笑をしてから、彼女たちは口を開く。




「今の言葉、絶対だからねっ!」




「嘘吐いたら嫌だよ?」




 二人はそう言って。


 俺にはもったいないくらいの、素敵な笑顔を向けてくれるのだった――。 





__________________________________

あとがき


ここまで読んでくれてありがとっ(≧◇≦)

【世界一】超巨乳美少女JK郷家愛花24歳【可愛い】です(*´ω`*)


友馬くんが無事、二股を達成しました(∩´∀`)∩

キリが良いタイミングなので、良かったら★や感想をいただけると、

とっても嬉しいのです(*´ω`*)!


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