「たいあっぷ」さんの今後を応援したい
前回から少し時間が空いてしまいましたが、書くと宣言したにもかかわらずまだ書いていないことを思い出しましたので再度筆を執らせていただきました。本連載は、今回で最終回となります。
まずはじめに、本コラムの趣旨はたいあっぷさんの今後を応援したいということです。そのため、かなり長文な上に厳しい内容が含まれております。そのような内容を読みたくないという方は今すぐブラウザバックをしていただけますよう、何卒よろしくお願いいたします。
重ねて申し上げますが、筆者にはたいあっぷさんを貶めたいといった意図はございません。あくまで外部の視点から見ておかしいと感じた部分をご指摘申し上げることで今後ともたいあっぷさんが成長していき、「クリエイターへの還元率を高く設定することでお客さんの人数が少なくとも、作家もイラストレーターも最低限生活していける」という世界を実現するための一助としていただけたなら幸いです。
本コラムは以下のような構成となっております。結論のみを知りたいという方は「4.まとめ」までスキップしてください。
1.現状において「縦書き」は問題しか生んでいない
2.サービスを成長させたいように見えない
3.イラストレーターさんのリスクが大きすぎる
4.まとめ
それでは、本論に移りたいと思います。
1.現状において「縦書き」は問題しか生んでいない
たいあっぷさんの売りの一つでもある「縦書き」ですが、現時点において百害あって一利なしであると断言できます。おそらく運営の方々は「横書きと縦書きでどちらの小説が読みたいか」といった類のアンケートで「縦書きのほうが良い」というデータを得たため、この「縦書き」を採用したのではないかと推測しております。
筆者も、「小説は縦書きで読みたい」というニーズを否定するつもりはありません。ですが、たいあっぷさんでの「縦書き」の採用は確実に失敗です。
1-1.読者にとって
まず第一に、たいあっぷさんでの「縦書き」は読者に多大な負担を強いています。運営の方々はすでにたいあっぷさんのリーダーを利用して多くの小説を読んで慣れてしまっているのかもしれません(まさか、ドッグフードテストをしていないなどということはないですよね?)が、「初見のITリテラシーが高いわけでもない一般読者」にとっては使いづらいことこの上極まりありません。
筆者も Kindle や Kobo といった電子書籍リーダーを使ってきましたので、電子書籍を読むということには抵抗がないつもりでいました。ですが、最初にたいあっぷさんのリーダーを使った際はあまりの動きの悪さにかなりイライラさせられました。
また筆者には、筆者の小説を面白いとお金を払って自分用だけでなく布教用まで購入してくれるリアルの知人がいるのですが、その人に「あなたの小説は面白いしお金を払いたいと思うが、たいあっぷは読むことがストレスになるので無理だ」と言われました。その知人はKindleの利用経験はあるものの電子書籍は好きではないというタイプですので、慣れていないということはあるでしょう。ですがそんな知人もここカクヨムさんや小説家になろうさんは特にストレスな読めるそうですし、チャット小説アプリという初めて触る形式でもお金を支払って読んでくれました。
もちろん全員がその知人と同じ意見であるとは申し上げるつもりはありません。ですがこういったサービスを提供するにあたり、ユーザーに要求するITリテラシーを高く設定するというのは「原則としてやってはいけない」というレベルの愚策です。
これを聞くと「Kindle や Kobo に代表される電子書籍リーダーで縦書きが受け入れられているではないか」という反論をしたくなるかもしれません。
ですが、それは全くの筋違いです。そもそも既存の電子書籍リーダーは専用端末や専用のアプリによって提供されています。そのうえで、電子書籍リーダーで読むこと自体が「慣れれば気にならない」というレベルであるというレベルのユーザー体験であることを忘れてはいけません。
ましてや、たいあっぷさんは専用アプリではなくWebブラウザ上でサービスを提供されています。Webブラウザは本来横書きで使うことを前提として作られています。もちろん縦書きにするための css の設定はありますが、ブラウザごとに挙動が微妙に異なるはずです。また、紙の本と同様にページをめくるような操作をすることはブラウザ本来の挙動ではありません。
そのWebブラウザ上であの「縦書き」を実現したエンジニアの方はさぞ苦労しただろうと想像いたします。
ですが、その苦労はサービスを利用して小説を読む読者にとってなんの価値もないということを忘れてはいけません。サービスを提供する側が考えなければいけないのは、「いかにサービス利用者が快適に使えるか(お金を支払おうと思えるか)」ということのはずです。
わかりやすい例を挙げるならば、かつて日本の検索サービスはYahooが圧倒的な強者でしたが今はGoogleに取って代わられました。Yahooへ行くと検索ボックスの他にニュースやら天気予報やらの様々なものが雑然と並べられていましたが、Googleは検索ボックスのみがぽつん設置されていただけでした。
そして当時のGoogleのエンジニアたちは、「ユーザーがGoogleにやってくるのは検索をするためだ。であればユーザーにとって必要なことはキーワードを入力できる場所がすぐに分かることで、それ以外のことができるということはユーザーにとって邪魔になるだけだ」と言っていました。細かいお話は割愛させていただきますが、そうしてGoogleは「調べ物をしたい」というユーザーのニーズを満たすために徹底的にサービスの改善を行うことで、かつて圧倒的強者であったYahooを逆転しました。
では翻って、たいあっぷさんはどうでしょうか?
慣れが要求されるたいあっぷさんの「縦書き」は果たして読者がお金を払ってでも小説を買いたいと思う理由となるでしょうか?
筆者はそうは思いません。読者は「面白い小説」を読みに来ているのです。そのため、「面白いかもしれない」と思って小説を読み始めたにもかかわらず操作の問題でイラッとするようなことが起これば、続きを読もうという気持ちが削がれるのは当然です。そしてそれが度々起こるのであれば、筆者の知人のようにたとえ作家のファンとして読みに来てくれている読者であっても「ここで読むのはいやだ」となるのは当然の帰結です。
たいあっぷさんは以前、筆者に対して「クリエイターへの還元率を高く設定することでお客さんの人数が少なくとも、作家もイラストレーターも最低限生活していける」という世界を作りたいと仰っていました。
ですが、その世界に「読者」の存在は含まれていますか? 運営の方々の中で「読者」は「お金を払ってくれる人数」という数字として見てはいませんか?
たいあっぷさんを運営されている株式会社トレンダーズさんは、過去に様々なサービスを運営されてきています。その中にはたいあっぷさんのようなCGM系のサービスもあったかと思いますが、その時の経験が活かされているようには思えません。
作家もイラストレーターも、作品を良いと言ってくださる方々がいて、そして資金的・時間的余裕があって初めてその活動を続けることができます。
作家やイラストレーターを集めるためのコンテストも良いとは思いますが、その前にまずは「読者」に寄り添うことをしたほうが良いのではありませんか?
・自分好みの面白い作品がすぐに見つかり、
・美麗な挿絵付きで、
・簡単な操作で快適に読むことができ、
・無料の小説投稿サイトや出版された書籍と違ってほとんどエタらない
これらの全てが満たされて初めて、たいあっぷさんは読者にとって良いサービスと言えるようになると筆者は考えます。
1-2.作家にとって
たいあっぷさんの「縦書き」は読者だけでなく、作家にも害を及ぼしています。
というのも、縦書きとなったせいで既存の小説投稿サイトでは正しく表示されていたものを一から修正する必要が出てきてしまうからです。
数字やアルファベットの扱い、横書き特有の空行や表現など、読者に読みやすさを提供するためにやるべきことが縦書きと横書きでは大きく異なります。そのためそのままコピペで移植をしたとしてもレイアウトがガタガタになってしまい、とてもではありませんが読めたものではない酷い状態になってしまうのです。
そもそもたいあっぷさんは他の小説投稿サイトでのブックマーク数の入力を要求しているわけですから、基本的に他の小説投稿サイトからの転載、もしくは同時掲載を想定しているはずです。にもかかわらず、同じ原稿を共有できないというのは作家にとって大きな負担となります。
そしてわざわざそんな苦労をしてまで縦書き用に書き換えたにもかかわらず、他の大手小説投稿サイトと比較して読みづらくなる始末なのです。
作家は一体なんのためにこのような無駄な労力を割いてまで作品を劣化させなければならないのでしょうか?
カクヨムさんや小説家になろうさんのような大手小説投稿サイトで投稿を続けている方でしたら、こうした問題にはすぐに気づくのではないかと思うのですが……。
2.サービスを成長させたいように見えない
もしかすると運営の方々には深い考えがあって秘密にしており、筆者がわざわざ指摘するような内容ではないのかもしれません。ですが、傍から見ていてたいあっぷさんがやっていることは、サービスを成長させるという観点からするとあまり役に立たない、もしくはブレーキを踏んでいるようにさえ見えます。
たいあっぷさんの運営の方々がどのような目標を設定して、どうサービスの状態を計測しているのかは存じ上げません。だた、こういったCGM系のサービスでは一般的に次のような指標を確認することが多いと思います。
・アクティブユーザー数
・投稿されたコンテンツ数
・PV
・売上
たとえばコンテンツ数が多ければ多いほど読者にとっては多くの作品を読めるようになるわけですので良いと言えますし、アクティブユーザー数が多ければ作品を読んでもらえる可能性が高くなりますので良いと言えるでしょう。
そこで、たいあっぷさんは一年後はどのような状態になっていて欲しいのでしょうか? そのために次の四半期ではどのような状態を目指すのでしょうか? どういった指標がどうなっていれば目指した状態になったと言えるのでしょうか?
少なくとも筆者の目からは、そのあたりが全く見えてきません。
たいあっぷさんは書籍を一冊220円で販売し、その三割を手数料として徴収し、他にグッズ販売をすることで利益を得るとしています。
ここでグッズは作品が人気にならければ売れないでしょうから、まずは小説について感がることとします。
すると、売上を上げる(=サービスを継続する)ためには以下の指標を改善していく必要があります(本来はもっと細かく分割してチェックする必要がありますが、本コラムでは大筋の部分のみを説明するため詳細な説明は省略します)。
・収益化コンテンツ数(第二巻以降が発売された小説の数)
・コンテンツあたりの購入数
現在のたいあっぷさんの施策はオープニングコンテストを開催したにもかかわらず、さらに新たなコンテストを開催しようとしています。
失礼なことをあえて申し上げますが、一体何がしたいのでしょうか?
コンテストを開催することで直接的に見込めるのは「投稿コンテンツ数」、「作家・イラストレーターの人数」の増加でしょう。しかしながら、第一回のコンテストですでにある程度のコンテンツと人数を集めてしまいました。ですのでその状態でさらに新規コンテストを開催したところで、積み増せる人数もコンテンツ数もさほど多くはないということは誰にでもわかることだと思うのですが……。
たいあっぷさんはどういった指標を追いかけていて、その指標を追いかけることでなぜ目指すべき場所に到達できるとお考えなのでしょうか?
今一度、冷静にそのことをお考えになることをお勧めいたします。
なお、筆者が考える「たいあっぷさんのサービスが成功した状態」というのは、「多くの読者が存在している」という状態です。
読者が多くいるため、その読者に向けて作家が多くの小説が投稿する。その投稿された作品にイラストレーターがイラストをつける。そうすることで作品が増え、その作品を目当てにさらに多くの読者がやってくる。
このようなサイクルを完成させることがたいあっぷさんの理想の形なのではないでしょうか?
もちろんこの理想を達成することは難しいですし、鶏と卵でもあります。運営の方々としてはコンテンツ数が増えないと読者は来てくれないとお考えなのかもしれません。ですが、そもそも作品を読んでくれる読者がいなければ作家には作品を投稿する動機がありません。
たいあっぷさんはオープニングコンテストを行って作品を集めたのですから、今度は作家やイラストレーターではなく読者を集め、小説を読むならたいあっぷさんを一番にと考える熱心なファンを多数つくるための努力をすべきだと筆者は考えます。
他の小説投稿サイトで公開している小説でオープニングコンテストに参加した筆者が申し上げるのも少々おかしな話ですはありますが、他で無料で読めるのであれば、そうした読者はたいあっぷさんで一巻を読んだ後に他のサイトで続きを読んでしまうのではないでしょうか?
もちろん書籍化されたというのであれば、たとえ無料で読めたとしてもお金を払いたい仰って下る読者がいらっしゃるのは事実です。
ですがそれは書籍化の際にイラストがつくことはもちろんのこと、編集さんと専門の校正さんによるチェックを受けて文章のクオリティが担保され、さらに装丁から本文内の空白レイアウトまでプロの技術で徹底的に品質を高められているからだと筆者は考えています。
もちろんその分は値段に跳ね返ってくるわけですが、それでもそこに価値を見出す読者の方はいらっしゃいますし、紙の書籍であればそのこと自体が付加価値ともなるでしょう。
ですが、たいあっぷさんの販売価格ではよほど販売数が伸びない限りそこまでのクオリティを担保していては採算が合わないのではないでしょうか?
ではどうするのか?
「原価を下げる(≒そこまでのクオリティは担保しない)」、そして「販売数を採算が合うまで伸ばす」という二点になるでしょう。
であれば、とこのまま論を続けても良いのですが、これ以上は細かい個別の施策の領域に踏み出さなければなりませんので、ここまでにしておこうと思います。
もし運営の方が詳しく話を聞きたいという場合は、なんらかの手段でご連絡ください。
3.イラストレーターさんのリスクが大きすぎる
今回、筆者たちの作品は二作品ともオープニングコンテストにおいて残念ながら選外となってしまいました。この点については筆者たちの実力不足であり努力不足でもありますので、含むところはございません。
ですが、そこで改めて感じたのはイラストレーターの先生がたの負担の大きさです。
通常であればそれなりの金額をお支払いして依頼すべき内容です。にもかかわらずそれを無償で行っていただいたわけですから、やはりかかった負担はイラストレータの先生がたのほうが大きかったと思います。
筆者はここカクヨムさんの他に小説家になろうさん、アルファポリスさんでも同時投稿をしています。そのため、基本的にはそちらから作品を持ってきて手直しするだけで済みました。
ですがイラストレーターの先生がたはキャラクターデザインをするところからの作業となりますので、かなりのリソースを割いていただく結果となりました。
そのうえでのあの投票数でしたので、意気消沈されてしまったのもやむを得ないかな、と思いました。というのも「賞金がもらえたとしてももうたいあっぷさんでは出したくない」という話まで出たほどでした(一応、筆者は各小説投稿サイトからの送客数は計測していまして、そこから割り出された投票率はおおむね想定の範囲内でした)。
もともとお二人の先生がたとはよく相談させていただいておりまして、実は当初から「賞金が出ないのであればコンテストの賞は辞退する」という腹積もりではおりました。もっとも、選外でしたのでそれは捕らぬ狸のなんとやらではありましたが……。
そんな状況ではありますが、イラストレーターの先生がたは「描いたイラストも実績となるので問題ない」と仰って下ってはいます。ただ、やはり筆者としては申し訳ないと思うのも事実です。
ここで根本的なお話をいたしますと、小説の挿絵は著作権の観点から考えれば二次著作物にあたります。そのため、法的にみれば作家とイラストレーターは対等にはなりえないのです。
なぜなら原著作物である小説の著作権を有する作家は、小説を他の小説投稿サイトに投稿する、ブラッシュアップして新人賞に持ち込むなどといった再利用を自由に行うことができます。
しかしながらイラストは二次著作物であるため、イラストレーターにはSNSなどで実績の一つとして掲載するくらいしかできません。もし他に合法な可能な活用方法があれば、ぜひともその方法を発信していただきたく思います。
そんなわけですので、いくらたいあっぷさんが作家とイラストレーターは対等と言ったとしても現実問題としてどうしても差がついてしまうのです。
ですので、筆者としてはたいあっぷさんに参加されるイラストレーターになんらかの優遇措置を検討して頂きたく思います。
ジャストアイデアではありますが、たとえばこんなものはいかがでしょうか?
・第一巻はイラストなしで公開し、続刊を出せると決まった作品に対してのみイラストをつけられるようにする
・小説とは関係なくイラストのみでの販売を許可する(たいあっぷさんの趣旨には反しますが……)
4.まとめ
ここまでのご指摘の内容をまとめますと、以下のとおりです。
①たいあっぷさんは今すぐに「縦書き」に起因する諸問題を解決すべき
→もし技術的に解決できないのであれば、今からでもブラウザの標準である横書きを採用するべきです。
②たいあっぷさんは読者を増やし、定着してもらうための努力をすべき
→オープニングコンテストで作品を集めたのですから、それらの作品を活用するべきです。また、もしコンテストで集めた作品では不足だとお考えなのでしたら、コンテストでは集められなかった作品や作者を集めるべきです。
③サービスの理想的な状態を定義し、きちんとそこに向かえる施策を打つべき
→現状において、外部から眺める限りにおいてサービスを成長させる気があるようには見受けられません。何もそれを公表する必要はありませんが、筆者のような外部の人間から見てもたいあっぷさんはどこに向かおうとしていて、それは信頼できそうなのかということが分からなければ長く使い続けようとは思いづらいです。
④イラストレーターが少しでも参加しやすい環境を作るべき
→現状のサービスは、筆者が本コラムおよび本連載の初回コラムにてご指摘したとおり負担がイラストレーターに偏っています。このような状況では将来的にイラストレーターの減少と質の低下が懸念されますので、なんらかの対策を取るべきだと筆者は考えます。
長文となりましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。かなり厳しいことを申し上げましたが、何かの参考にしていただけたなら幸いです。
末筆ながら、たいあっぷさんの今後の益々のご発展をお祈り申し上げます。
「たいあっぷ」さんについて 一色孝太郎 @kotaro_isshiki
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