彼女は二人で登校していると思っているようだ。・下

「えっと、清水……伶香って、知ってる?」


 二人の接点を知らないため、聞いてみることにした。


「んー。聞いたことないなぁ。何? 好きな人? 彼女!?」

「おいおい勝手に話を進めるな」

「じゃあ何?」


 つぐみが怪訝な顔をする。少し楽しそうだ。


「俺の隣の席の子なんだけど、どんな子か知ってるかなって思ってさ。つぐみ、ちょっとした有名人だし」

「あー、前に席替えしたって言ってたもんね。てか別に私は有名でもなんでもない。だからって人気でもないし、友達だって多くない……。中学のころはたくさんいたのに」


 つぐみはむっとした表情を浮かべている。


「可愛すぎて逆に近寄りづらいよねーとか、気を使っちゃってーとか言ってたの聞いたし。まぁ別にいいんだけどさ、大切な友達が一人二人いればさ。だからその子のことは知らない。てかそんなこと、あんたといつも一緒にいるやつに聞けばいいじゃん。あの意外とモテる変態さんに」

「いや、巧は変態じゃない。ただ友達の多さにいろいろな情報が入ってくるだけだよ」

「嫌味?」

「違う違う!」


 熱海は左手をバタバタ振って補足する。


「ただ巧は変態じゃないってことを言いたかっただけだよ。ごめんな、つぐみ」

「まぁいいけどさ」


 つぐみはとても楽しそうだ。

 今の段階では接点すらないらしい。仮にあの映像が本当に未来に起こったことだとしても故意ではないだろう。こんな子が故意に人を殺すはずがないだろうから。


 そう、冷静に考えてみればあれが本当なのかどうか。つぐみと伶香の内に何か計画があるのではないか。「ドッキリでしたー!」という展開はないだろうか。

 だとしたら、夜にはなかったモノが朝には机の上にあったという奇妙な現象……。


 もしもあの映像が本当だった場合、行動しなければもっと多くの後悔をすることだろう。

 幼馴染だとしても殺人犯になったり、ほとんど話したことのない人だとしても命を落としたりしていいわけがない。


 家から学校までは約二十分。すでに十分以上は経っているため、周りには登校中の生徒が増えてきていた。


「なぁ、つぐみ」

「今度は何? いちいち名前呼ばなくていいから、さっさと言ってよ」


 熱海のウジウジした態度に、ほんの少し頬を膨らませる。


「部活は楽しいか?」

「何、急に」


 再び怪訝そうな顔をする。いつもはこんなことを聞かないうえに、まるで親のような言い方をしたのだから仕方ない。


「楽しいのかなって。映画鑑賞部」

「まぁそれなりにね」


 それは楽しいのか楽しくないのかどっちなのだろう。熱海は特に気にせず流した。


「熱海も入ってよ。映画鑑賞部。そしたらもっと楽しいのに」

「俺は部活には入らないよ。それにもう二年だしさ、今さらでしょ」

「えぇー」


 やらなくてもいいことはやらない主義の熱海。


「恋愛映画好きだったよな。今もそうなのか?」


 昔は一緒によく見た記憶が頭の中になんとなく残っている。


「そうだね。映画鑑賞部じゃ、恋愛映画ばかりは見れないけどね」

「まぁ、だとしても楽しいことはいいことだ」

「そうだねぇ」


 よいことを言ったつもりだった熱海だったが、さらっと流されてしまった。

 そうこうしているうちに、学校に着いた。


「じゃ、またね、熱海」

「うん」


 元気に手を振ってくるつぐみ。

 つぐみは十組のため、階段で別れた。

 北浜高校二年の学級は全部で十二組。

 一組から十組までは三階だが、十一組と十二組は二階に教室があるからだ。そこに特に意味はないらしい。教室の数の問題だろう。


 次は伶香と話そうと思う。伶香がつぐみを知っている可能性があるからだ。熱海だって好き好んで話しかけたいわけでない。できれば何もしたくない。だがここは、ただ頑張るしかない。少々ヒーロー気取りな気もするが。

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