第一章 清水伶香は砂糖のように……。

第一章 友人の友人

席替えと企み

「いや~、疲れた。やっと終わったよ」

「今日は授業なかっただろ」

「あろうがなかろうが、学校があること自体が疲れるんだよ。このあとどうする? 熱海、暇だろ?」

「まるで俺はいつもでも暇なやつ、みたいな言い方だなぁ」

「実際暇だろ? 彼女がいるわけでもないんだし」

「勝手に決めつけんなよ」

「何、いるの?」

「いない……。お前はいるからって調子に乗りやがって」

「それがさぁ、最近上手くいってないんだよぉ」


 四月七日、月曜日。新年度初日のため、始業式やホームルームを終えるとすぐに下校になった。クラスメイトたちはぞろぞろと教室から出ていく。数人のクラスメイトたちが残ってわいわいと話をしている教室で、熱海と熱海の中学のころからの友人の牧之原まきのはらたくみは背面黒板の前で話をしていた。

 すると熱海たちの近くで話をしている二人の男子たちの声が耳に入ってきた。


「そういえば、朝のニュース見た?」

「なんの?」

「ここからちょっと離れたところの山で、口の裂けた男の腐乱死体があったってニュース」

「やべぇな」

「数か所刃物で刺された痕があったってさ」

「こわっ」


 巧もその話に耳を傾けていたらしい。眉をひそめ、口を開く。


「物騒だな」

「うん、そうだね」


 巧は熱海の返事を聞くなり、話をしていた二人のうちの一人、メイド服を着せてみたくなるほどの可愛い系イケメンで男子の中では比較的小柄な牧野まきの亜輝人あきとを見やる。

 そしてなぜか見つめ合っていた。


「何してんだよ」


 不気味に思い半笑い気味に聞いてみるが、巧の返事が返ってくる前に二人の男子たちはニヤニヤしながら話を始める。


「あの人だよ。ほら、さっき言ってた人」

「へぇ、あいつがかぁ」


 それを聞いていた巧は再び眉をひそめた。


「なんだ、あいつら」


 巧は少々ご機嫌斜めらしい。見つめ合っていたのは気のせいだったようだ。そう思うほどに彼からは怒りを感じた。


「気にしないほうがいいよ」


 新年度初日からトラブルは勘弁してほしい熱海は、そう言うことしかできなかった。


「どうした、亜輝人」


 巧が亜輝人に話かける。巧と亜輝人は小学校のころからの友人でよく殴り合っていたと今朝言っていた。冗談な気もするが。

 それに加え彼らの教室の席は近い。苗字が二人とも『ま』から始まるからだ。そして彼もまたリア充だ……。


「いや、別になんでもないよ」


 亜輝人はそう言いながらも二人でまたニヤニヤしている。


「おい、それは誰のことを笑ってるんだ。もし熱海のことを笑ってるなら――」

「いいって巧」


 巧に向かって熱海は怯えた声を絞り出す。巧は熱海のことになるとすぐにムキになる。

 よい奴であることはたしかなのだが、そこまでしなくてもいいのにといつも言っている。だが言っても聞かないのだ。それに関しては困った奴だ。


 このあと、巧と亜輝人の言い合いはヒートアップしていき、亜輝人が手を出してしまった。

 熱海は何もできなかった。熱海には何かをする勇気がない。勇気が必要なこと、何か新しいことをするのが苦手だ。


 その日のうちに、担任の先生と巧、亜輝人の話し合いにより解決した。解決したのはよかったのだが、巧と帰る予定だった熱海は話し合いが終わるまで待つ羽目になってしまった。何もできなかった熱海に文句を言う資格はないが……。

 これが原因で席替えが行われた。


 その日の帰りに巧から聞いたことだが、亜輝人たちがニヤニヤしていた理由は巧が小学校のころにいじめを受けていた件について話していたかららしい。いじめられていた子を庇った結果、巧がいじめられてしまったそうだ。それでも熱海を庇ってくれた巧はやはりよい奴だ。


 と思っていたのだが、帰り際に巧と亜輝人が笑い合っていたのを見てしまった。


「はぁ……まったく」


 困った人たちだ、と熱海は息を吐く。

 今ではいじめられていたという話が本当かどうかも、本当だったらと躊躇してしまい聞くに聞けなかったため、わからないままだった。

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