プロローグ・下
「……?」
一瞬何が書かれているのか、わからなかった。
それだけこの一文は、ただ情報量の多い、わけのわからない文でしかなかった。
真っ白になった頭の中にだんだんと色が戻ってくる。
「つぐみって、あのつぐみだよな……」
藤宮つぐみ。熱海の幼馴染。昔はよく遊んでいた。中学生になってからは遊ばなくはなったものの、たまに一緒に学校に行っているということになっている。というのも熱海は一緒に学校に行っている、というよりもただ付いてきているだけだとしか思えないのだが、つぐみ的には一緒に行っていると思っているらしい。
「つぐみが、清水さんを……?」
清水伶香。熱海の通う、北浜高校二年十二組、熱海と同じクラスで隣の席の静かな子だ。今日は四月二十八日、月曜日。新年度が始まってから三週間しか経っていないため、授業で話さなければならないとき以外はまったくと言っていいほど話したことがない。
基本新年度は出席番号順だが、十二組では生徒同士のトラブルがあったため席替えがあった。結果、熱海の隣が伶香となった。
「誰かいる……?」
実は家族の誰かが帰ってきており置いたのではと、熱海は部屋のドアから顔を出し聞いてみる。
「……わけないよな」
「ニャー」
返ってきたのはスコティッシュフォールドのトラの鳴き声のみだった。やはりまだ帰ってきてはいないらしい。
「こっちは、たぶんDVDか……?」
熱海はノートの横に置いてあったディスクを、テレビについているDVDプレイヤーになんの躊躇もなく入れた。
すぐに映像が再生された。
「うわっ、なんか気味が悪いなぁ」
画質は悪くはないがよくもない。だが、まるで誰かの目線をそのまま録画したかのような揺れがある。両手が映っているため、目線カメラだろうか。それに、荒い息遣いが聞こえる。
場所はおそらく学校の廊下だろう。教室の中をドアのガラスから覗いている。
教室には、つぐみと伶香がいた。二人は言い争っているように見える。するとつぐみは伶香の両腕を掴み、体を揺さぶる。
何かを問いただしているのか、訴えているのか……。
つぐみの声は聞こえるが、何を話しているかまではわからない。
お互いの表情は険しい。
この映像で今わかっていることは、二人とも本人だろう。顔を見ればわかる。伶香の顔をまじまじと見たことはないが……。でもこの二人に接点なんてあったのだろうか。
数秒後、つぐみは諦めたかのように伶香を突き放す。
その瞬間、バランスを崩した伶香は仰向けに倒れていく……。
黒板の下にある踏み台に後頭部をぶつけ、動かなくなった。伶香の頭からは血が流れだす。
つぐみがこちらに気づいたようで、恐怖で歪んだ顔を向けてくる。徐々に目が見開かれていくのがわかった。
そこで映像は終わった……。不気味と本当に目が合った感じがしたため、テレビ画面から目を逸らす。
熱海はすぐにDVDを取り出し、見開きに文の書かれたノートと取り出したDVDを持って家を飛び出した。空は曇っているため薄暗い。
視界が悪くなる。気分も悪い。吐き気がする。
走ってたどり着いた場所は、家からさほど遠くないところにあるそこそこ大きな川だ。
熱海は持っていた二つのモノを川に着くと同時に、走りながら投げ飛ばした。
「なんだ! なんなんだよこれは!!」
静かな朝の川に響き渡る。
頭がおかしくなりそうだった。いや、すでにおかしいのだろうか。あんなものが見えているのだから。
「はぁ……はぁ……落ち着け、落ち着け」
膝に手をつき、息を整える。落ち着いてきたところで、数回の深呼吸。
頭痛がする。吐き気もする。
「くそっ!」
何がなんだかわからない。だが、ここでのたうち回っていても意味がない。冷静に推測するしかなかった。
伶香は死んでしまったのだろうか。だが、あのノートに書かれていた文を見る限り、事後ではないだろうか。なら、これから起こるとでもいうのだろうか。ありえない。
仮にこの先起こったとしても必ずしも伶香が死んだとは限らない。それにつぐみも故意ではないだろう。でも……。
熱海は決断した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます