第49話 裏

「じゃあ、お風呂入ってくるから期待しててね。」


「あまり可愛くなると俺が困るんだけどな。」


 葵は私がお風呂に行く前にそんなことを言った。葵が困ってくれるくらい可愛くなれるといいなぁ。


「ふんふふーん。」


 脱衣所で服を脱いでいく。最近ちょっぴりだけお腹周りが大きくなった気がする。うぅ、考えたくはないけど太っちゃったのかな?


「ダイエット、しなきゃかな?」


 でも私1人でやると長続きしなそうなんだよね。私はよく3日坊主だからすぐに辞めちゃううんだよね。


「葵、手伝ってくれるかな。」


 葵と一緒にするってなったら長続きするから葵に手伝ってもらえるといいんだけど……でも、そうなると葵に太っちゃったこと言わなきゃならないんだよね……うぅ。


「と、とりあえず私だけで頑張ってみよう。それでやっぱりだめだったら葵に頼んでみるしかないかなぁ。」


 葵にそんなことを言うのは恥ずかしいけど、太って葵に愛想を尽かされるなんて嫌だ。いつまでも葵の好きな私でいたいしね。


「ふぅ……きもちぃ。」


 髪も体も洗い終わって浴槽に体を沈める。やっぱりお風呂はこの瞬間が1番好きだなぁ。眠い時は本当に寝ちゃいそうで危ないんだよね。


「んふふ……夫婦かぁ。えへへ……」


 それはご飯の時に葵に言われたこと。今日のご飯は私がカレーが作った。葵が料理できないのに作ろうとしえたからさすがに止めた。


 食材焦がしちゃったりしたらもったいないし、何より私が作った料理を食べてもらいたかったし。


「美味しいって言ってくれて嬉しかったなぁ。」


 葵はカレーをお代わりしてくれた。3杯目はお腹いっぱいで無理だったらしいけど2杯も食べてもらえて良かった。


「葵と結婚かぁ。」


 食器を洗ってるときに葵がこぼした言葉。私と葵が結婚してるみたいだって。それを聞いたせいでいろんなことを考えてしまった。


「結婚って言えば夫婦になるってことだよね。葵がそういうってことは私と葵の2人が夫婦になるってことだよね。」


 そんなことを考えてしまって葵が私のことを呼んでいることに気づかなかった。私だけが多分あるかもしれない未来のことを妄想していたみたい。


 少しして妄想から戻ってきたら葵が私のことを見ていて無償に恥ずかしくなった。だから八つ当たり気味に叩いちゃったけど葵は笑って流していた。痛くなかったのかもね。


「そろそろ上がろうかな。」


 長風呂しちゃうと逆上のぼせて大変なことになっちゃうし。それに早く葵と一緒にいたいしね。


「葵、私のこと可愛いって言ってくれるかな……」


 体を拭いてお泊りする前に決めたうさ耳付きのパジャマを着る。少しだけフワフワしていて今だけ着れる服になりそう。


 とんっ、とんっ


「ふぅ。」


 階段を上がって葵の部屋の前に立つ。何でかいざ葵に見せるってなったら緊張してきちゃった。でも、このまま部屋の前にいるのもいけないし。


 こんこん


「そ、葵。」


「お、風呂入ったのか。ん?入らないのか?」


 ドアをちょっとだけ開けて葵の方をちらって見る。葵は何とも思ってなさそうでいいなぁ。


「や、やっぱり恥ずかしくて……」


「自信があるパジャマなんだろ?なら絶対可愛いはずだから見せてくれないか?」


 葵がそんなこと言ってくる。確かに自信はあるけど……私が可愛いって思うのとほかの人が可愛いって思うのは違うし……でも、


「葵がそういうなら。」


 だって、葵に見せるために今日このパジャマを選んだんだし。私は意を決して葵の部屋に入っていく。葵は私を見て目を少し見開いている。


「……っ!」


「ど、どうかな?」


 いつまで経っても何も言われないから私から聞いてみる。だって、このままだとずっと固まってそうなんだもん。


「あ、あぁ。その、なんだ。」


「な、なに。」


「凄く、可愛いです」


「そ、そうなんだ……えへへ。」


 やった、葵が可愛いって言ってくれた。その一言を聞いただけで凄く嬉しくなっちゃう。そのせいで頬が緩みすぎちゃって仕方がない。


「な、なぁ。」


「どうしたの?」


「その、フード被ってくれないか。」


「ふぇ?」


 フード?それってうさ耳がついているこれのことだよね。そ、そんなに被ってほしいのかな?


「その、被って……ほしいの?」


「あぁ、今も可愛いがもっと可愛くなると思ってな。」


「葵が見たいなら、被るよ。」


「そうか、ありがとうな。」


 それって今も私のこと可愛いって思ってくれてるってことだよね。それにもっと可愛くなるって言われたら見せたくなるよね。えいっ。


 ぽふっ


「ど、どう?」


「やばい、前よりかわいい。」


「えへ、そうなんだ。ぎゅー。」


 ぎゅっ


 私は嬉しくなったあまり葵に抱き着く。あ、良いこと思い出しちゃった。私が今着ているパジャマはウサギをモチーフにしたパジャマ。


 ウサギって寂しがり屋ってよく聞くし、甘えん坊っても聞くから私は遠慮なしに葵に甘えることにした。今の私はウサギなんだし、良いよね?


「ウサギってさ、寂しがりで甘えん坊ってよく言うし。今の私はウサギだから葵に甘えちぇって思って。構ってくれないと寂しくなっちゃうな。」


「そうか、寂しいならしょうがないな。いっぱい甘えて寂しくないようにしようか。」


 なでなで、なでなで


「んふふー、まだまだ寂しいなぁ。」


 もっともっと、葵にいろいろして貰いたいな。

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