第38話 表

 ピピピピピ!


「ぁ゛ぁ゛……?」


 カチッ


 朝、気持ちよく眠っていたところを目覚ましによって起こされた。煩いのでとりあえず消しておく。


 起きたと言って良いのか分からない程眠かった。そもそも休日だから目覚ましは付けなくても良いはずなのに。


 そういえば、昨日玲奈から貰ったプレゼントのことをずっと考えていたせいで時間が経っていたことに気づかなかった。


 その結果日が回った時間に寝ることになり寝坊しそうだったから目覚ましかけたんだっけか?


「まだ寝れる……」


 幸い、まだ玲奈は来なさそうなので寝る時間はある。眠い中で玲奈といると確実に抱き枕にする自信があるからな。


 だから、眠いという欲求に従うことにした。これは玲奈を抱き枕にしないためだ。仕方のないことなんだ。


 そうやって、1人で言い訳をしながらまた深い眠りに落ちることにした。


 ガチャ


「……葵、起きてる?」


 意識が落ちようとした時、玲奈の声が聞こえた。まだ来るのには早い時間だしきっと幻聴だろう。


「あれ?寝てる。目覚まし聞こえたから起きてると思ったのに。」


 段々と玲奈の声が近づいてきた。何てリアルな幻聴だろう。いや、もしかしたらもう夢の世界なのかもしれない。


 フニッ


「えへへ、いつかのお返し。」


 ほっぺをさわられた感触。幻聴じゃなくて夢だったのか。なら少しだけ好きにしても良いよな。


 グイッ


「きゃっ。」


 眠くて力がでない状態で思いっきり引き寄せる。夢の中で寝てしまおう。玲奈を抱き枕にして。


「ちょ、ちょっと?」


 じゃあおやすみ。






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 もぞもぞ


 なんだ?腕の中で何か動いているんだが。そもそも今何時だ?玲奈が来る時間より前だろうか。


「そ、葵。早く起きてぇ。」


 すぐ近くから玲奈の声が聞こえる。それに連動して抱きしめてるものの動きが少し激しくなる。


 もしかしなくとも俺、玲奈を抱き枕にして寝てたのか?


 目を開けてみると玲奈と目があった。向い合わせで寝てたらしい。玲奈は顔が赤くなっていた。


「おはよ。」


「お、おはよっ。」


 とりあえず基本の挨拶。というか、玲奈はいつ来て俺に抱き枕にされたんだ?全く記憶がないんだが。


「今何時だ?」


「もう10時過ぎたよ。3時間もこのまんまで。」


 それなら、7時に玲奈が来てそのまま抱き枕にされたのか。あれ?そうしたってことは俺もその時起きてたんだよな?


「早く離してよぉ、も、漏れちゃう。」


「漏れちゃうって………わ、悪い!」


 慌てて玲奈を離す。どうやらすごくお花が咲いていたらしい。3時間も摘んでないならそうなるのか。


「っ!そうのばかぁー!」


 ドタドタ


「……馬鹿って察せないよりはましだと思うんだが。」


 お花摘みに行きたいことを察したら怒られてしまった。玲奈は急いでお花摘みが出きる場所に行った。





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 ポコポコ、ポコポコ


「ばか、ばか?うん、ばか!」


「なんで一瞬悩んだんだよ。」


 お花を摘んだ後は俺に怒りをぶつけている……俺に向い合わせの状態で座りながら。それに、叩いてくるんだがポスッという感じで全く痛くない。


「うぅ、デリカシーなし。」


「うっ……いや、誰だってああ言われたらそうならないか?」


「むぅぅ……」


 誰だって漏らしそうと言われたら行ってらっしゃいって言うはずだ。行かせなきゃ漏らすことになるし。


 正論を言われた玲奈は俺に顔を埋めてむぅむぅ唸っている。私怒ってますアピールかもしれないが正直可愛いとしか思えない。


 なでなで、なでなで


「むぅ……っ!」


 ボスボス


「はいはい、おとなしくしましょうね。」


 撫でたら頭を物理的に使って抗議してきたので抱きしめる力を少し強める。頭が動かなくなったのを良いことにまた撫で始める。


 すんすん


「むきゅ………ふわっ」


 玲奈は俺の匂いを嗅ぎ始めた。匂いを嗅がれるのは未だに慣れないのだが、玲奈が大人しく撫でさせてくれるので我慢しよう。


 俺は玲奈を撫でて、玲奈は俺の匂いを嗅ぐ。どちらもWin-Winじゃないか。


 すんすん


「んふふ……いいにおいー。」


 あー……やっぱ恥ずかしいな。





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「もうっ!あんなことするために来たんじゃないんだから!」


「そうだな。」


 確かに、さっきのあれは凄かった。暫くして気づいた玲奈が恥ずかしがるのもまた良かったりした。


「葵は朝早くから私を抱きしめて寝ちゃうし!」


「……そうだな。」


 その事に関しては全く覚えてないんだよな。玲奈の怒りを静めるために相づちを打っていよう。


「せっかく私のプレゼントがどうだった早く聞きに来たのに。」


「そうなのか………なぁ。」


「なに?」


 玲奈から貰ったものに関しては聞きたいことがたくさんある……が。今はそれよりも聞きたいことがある。


「なんでまた座ってるんだ?」


「……私の特等席だから。」


 玲奈は胡座あぐらをかいた俺にぽすりと座っていた。俺に寄っ掛かり体重をかけてくる。


「これだと怒っててもそう見ないぞ?」


「……別に怒ってないから別に良いもん。」


 ぐりぐり


 そういって俺に頭をぐりぐり押し付ける。まぁ、怒ってないのは分かってたし、この体勢にした理由もなんとなく分かってる。


「実は嬉しかったし、にやけた顔を見られたくなかったんだろ?」


「んにゃ!?……そ、そんなことないから。」


 ほら、絶対図星だろ。

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