第38話 裏

「んみゅ?」


 唐突に目が覚めちゃった。部屋のなかは明るいけど今何時だろ?


 6時30分


「ふわぁ~」


 せっかくの休日なのに早く起きちゃった。葵の家に行くまで暇だし何していようかな?


「もっかい寝ようかな?」


 うん、そうしよう。まだ朝早いから今寝ても葵が起きる頃には間に合うよね。よしっ、お休みなさいっ。


 ……


 ………


 …………ガバッ!


「寝れないよぉ!」


 全く寝れなかった。眠気すらなかったんだけど。いつもならすぐ2度寝できるのに……


「うぅ、とりあえず下に行こ。」


 お母さんもうご飯作ってるかな?作ってたらご飯食べて、それから色々考えようかな。


「おはよぉ。」


「おはよう。今日は早いわね。」


「うん、なんだか目が覚めちゃって。」


 リビングには良い匂いが充満してた。ちょうど朝ご飯を作ってたのかな。匂いを嗅いでいたらお腹減ってきちゃった。


「もう少しで出きるから顔洗ってきたら?」


「うん、そうする。」


 お母さんに言われて顔を洗いに行く。洗う前に鏡を見るとそこには、寝癖がぴょこっと出た髪と少しだけよだれの後があった。


 いつもより、時間かけなきゃ。





 ____________________________________________





「そうだ、今から葵の家に行ってのんびりしよう。」


 だって暇なんだもん。葵が寝ているそばでゆっくりしてて良いよね。葵の寝顔も見れるかな。


「行ってきまーす。」


「もう行くの?」


「寝ている葵の横で静かにゆっくりするから。」


「ふーん……まぁ、行ってらっしゃい。」


 家からでてすぐ隣の家に向かって歩く。それから、インターフォンを鳴らしておばさんが来るのを待った。


 ガチャ


「いらっしゃい、早いわね。」


「早く起きちゃって。今から葵の部屋でゆっくりしようかなって。」


「ふふっ、葵は多分寝てるわよ。さ、入って。」


「お邪魔しまーす」


 葵はやっぱり寝てるらしい。休日になると途端にだらしなくなるっておばさんが前に言ってたなぁ。


 ピピピピピ!


 階段を上がって葵の部屋に向かう。その途中で目覚ましが聞こえた。今ので起きたのかな?


 ガチャ


「……葵、起きてる?」


 ドアをゆっくり開けて中を見てみる。目覚ましは止まってたから葵が起きて止めたってことだよね。


「あれ?寝てる。目覚まし聞こえたから起きてると思ったのに。」


 目覚まし止めてからまたすぐに寝たのかな?別に寝てても良いんですけどね。


 フニッ


「えへへ、いつかのお返し。」


 いつもほっぺとか頭とか撫でられてるからお返ししてみる。これくらいは別に邪魔にならないよね……多分。


 グイッ


「きゃっ。」


 そのまま少しだけツンツンしようと思ってたら葵に引き寄せられた。寝てたんじゃなかったの!?


「ちょ、ちょっと?」


 そのまま抱きしめられた。腕だけじゃなくて脚も使って私を逃がさないようにしてくる。


 すぅ、すぅ


 そのまま寝息が聞こえてきた。え、この状態のまま寝ちゃったの?私、葵が起きるまでずっとこのまま?


 うぅ、恥ずかしいから早く起きてよぉ。




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 もぞもぞ


 うぅ、まだ起きないの?もう3時間も経ってるんだけど。それにこのままじゃ大変なことになっちゃう。


「そ、葵。早く起きてぇ。」


 未だ起きない葵に懇願する。起きないのか確認するために顔をあげると目を開けた葵と目があった。


「おはよ。」


「お、おはよっ。」


 至近距離に葵の顔が。その事を再認識してドキドキする。


「今何時だ?」


「もう10時過ぎたよ。3時間もこのまんまで。」


 葵が時間を聞いてきたので正直に伝える……って、それどころじゃなくて!


「早く離してよぉ、も、漏れちゃう。」


「漏れちゃうって………わ、悪い!」


 葵は私の言葉から察してくれたのか慌てて離してくれる。これでやっとトイレに行ける。あれ?葵にも伝わっちゃった?


「っ!そうのばかぁー!」


 ドタドタ


「……馬鹿って察せないよりはましだと思うんだが。」


 私は急いで1階のトイレに向かった。





 ____________________________________________





 ポコポコ、ポコポコ


「ばか、ばか?うん、ばか!」


「なんで一瞬悩んだんだよ。」


 葵って勉強面では勉強できるから馬鹿じゃない?……それでも普段がだめなら馬鹿なんですぅ!


「うぅ、デリカシーなし。」


「うっ……いや、誰だってああ言われたらそうならないか?」


「むぅぅ……」


 確かにそうだけど……そこはなにも言わなくても良かったと思う。そっと離してくれたらちょっと席外すねみたいな感じでさ。


 なでなで、なでなで


「むぅ……っ!」


 ボスボス


「はいはい、おとなしくしましょうね。」


 また向い合わせの状態で座ってる。頭を撫でられたからやめてと言う意思を込めて頭で葵の胸を叩く。


 でも、それも葵に抱きしめる力を強くされたことで出来なくなった。


 すんすん


「むきゅ………ふわっ」


 しょうがないから叩く代わりに匂いを嗅ぐ。やっぱり良い匂いしかしないんだよね。男の人って良く臭いって言うのになんでだろ?


 すんすん


「んふふ……いいにおいー。」


 んふぅ、暫く匂い嗅いていよっと。






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「もうっ!あんなことするために来たんじゃないんだから!」


「そうだな。」


 匂いを嗅いでから暫くして正気に戻った私は葵に文句を言っていた。今日は2回も失態を晒しちゃった。


「葵は朝早くから私を抱きしめて寝ちゃうし!」


「……そうだな。」


 そのせいで3時間もトイレに行けなかった。それに、葵に漏れちゃうって聞かれちゃうし。


「せっかく私のプレゼントがどうだった早く聞きに来たのに。」


「そうなのか………なぁ。」


「なに?」


 ゆっくりしたかったのもあったけど葵が起きてたら早速聞こうと思ってた。結局起きてても聞けなかったんだけどね。


「なんでまた座ってるんだ?」


「……私の特等席だから。」


 私は葵が胡座をかいて出来た穴に座って文句を言ってる。もう何回もしてるし、私専用だから別に良いよね?


「これだと怒っててもそう見ないぞ?」


「……別に怒ってないから別に良いもん。」


 ぐりぐり


 ただ文句言ってただけだから別に怒ってないという意思を込めて頭をぐりぐり押し付けた。伝わったかな?


「実は嬉しかったし、にやけた顔を見られたくなかったんだろ?」


「んにゃ!?……そ、そんなことないから。」


 急になんてこと言ってくるの!?嬉しくなんてないしっ、この体勢だって私が楽になれるからしてるだけだもん!


 変な勘違いしないでよ!絶対違うんだから!

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