第37話 表

「さて、そろそろ玲奈から貰った袋の中身を見るか。」


 家に帰り、晩ご飯を食べた後俺はゆっくりしていた。いや、それよりもそわそわしていたと言った方が正しいのかもしれない。


 中身を見るかと言ったのは良いものの、その前からずっと開けたかった。晩ご飯の時間と被ってなかなかできなかったからな。


「重さは全く無く軽いんだよな。それに、大きくもないから部屋に飾るものではない気がするな。」


 袋を持ってみて重さを確認するが全く無かった。入っているのは鞄とかに付けたりするストラップとかが近いのではないだろうか。


 ガサガサ


「とりあえず何個あるか分からないが1つずつ取ってみよう。」


 そう思い袋の中身を1つ掴み取り出した。出てきたものはペンギンのぬいぐるみだった。もしかして俺の袋か?


 いや、違うか。あの時しっかり交換したもんな。じゃあ、玲奈も俺と同じものを買ったのか?


「……そういえばそうだったな。」


 ペンギンのぬいぐるみは3月の誕生日の人用だ。玲奈は3月だが、実は俺も3月だった。自分の誕生日はよく忘れてしまうな。


 というかペンギンが入ってるならほぼセットのあれも入っているはずだよな。俺のはいったいどんな色だっただろうか。


 俺は袋に手を突っ込んでそれらしきものを探す。どれだ………お、あったあった。それを手に取り袋から取り出す。


「やっぱりあった。13日の浮き輪ってこんな色だったんだな。」


 浮き輪の色は薄い紫色だった。これをペンギンの上から被せてってと……不格好になったな。下からなのか……お、良い感じになった。


「そういえば2日しか違わないんだよな。」


 俺は3月13日。玲奈は3月15日だ。しかもお隣ということもあって病院も一緒。その事もあって母さんとおばさんはとても仲良くなった。


 昔はよく誕生日パーティーを2人の間の14日に一緒にしてたものだ。


 俺はいつかの誕生日パーティーを思い出した。





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「「「「ハッピバースデートゥーユー」」」」


「「ふー!」」


 親たちが歌い終わった後に2人で蝋燭に思いっきり息を吹き掛ける。あっという間に蝋燭の日は消えてしまった。


「はい葵、誕生日プレゼントよ。」


「おばさんからもどうぞ。」


「ありがとう!お母さん、おばさん!」


 俺は嬉しそうにプレゼントを貰った。ケーキを食べていた玲奈はその光景を見て俺の方へ近づいてきた。俺と言うよりは母さんとおばさんにか。


「ねぇ、れなのプレゼントは?」


「ふふっ、もちろんあるわよ。はいどうぞ、玲奈ちゃん。」


「心配しなくても玲奈の分もちゃんと用意してるわ。どうぞ。」


「うんっ!ありがとっ、えへへ。」


 俺に続いてプレゼント貰った玲奈はとても嬉しそうにしていた。


「ねぇ、今開けちゃダメ?」


「先にケーキを食べてからね。」


「「はーい!」」


 小さい時はケーキよりもプレゼントを見たかったから速く食べてたんだよな。それで毎回母さん達から小言を言われたな。


「プレゼントは逃げないからもう少しゆっくり食べなさい。」


「そんなに急いでるとプレゼントが逃げちゃうかもよ?」


「やだっ!ゆっくりたべる……」


「ぼくも。」


 毎年言われてたな。それで、ゆっくり食べ終わった後は楽しみにしていたプレゼントを開けるんだ。


「みてみて、お母さん!これかわいい!」


「うわぁ。欲しかったおもちゃだ!あ母さんありがとう!」


 2人で喜んでたっけ。玲奈は洋服、俺はおもちゃが主なプレゼントだったな。


「みてみて、そうくん!」


「どうしたのれなちゃん………わっ、すごい!かわいいね!」


 この年は玲奈が貰った服を今きてる服の上から着て俺に見せたんだっけ。


「えへへ、ありがと!」


「れなちゃんはかわいいから良いお嫁さんになれるね!」


「そうなの?やったぁ!」


 今思うと恥ずかしいな。子供だったとはいえ、なんてことを言ってるんだ。


「あらあら、じゃあ、玲奈の旦那さんは葵君かしら?」


「ぼく?」


「れなはそうくんがいいなぁ。」


 俺が言ったことから変な方向に話が進んでいったんだよな。


「じゃあ、大きくなったら、れなちゃんと結婚する!」


「れなも、そうくんと結婚すりゅ!」


 2人でそんなことを言い合ったんだ。結婚とかも意味が分からずに言ったことだ。


 その後は何事もなく楽しいまま誕生日パーティーが過ぎていった。





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 まぁ結局その事は忘れたから意味がなかったことなんだけどな。子供の頃の約束は約束にならないのがほとんどだし。


「おっと、思い出に浸るのも良いが今は袋に入っているものを出さなきゃな。」


 思い出に浸った後は中身を取り出すことに集中する。まだ入っているだろうか。


 ガサゴソ


「お、あった。」


 入っていたものを掴み取り出す。感触はとても柔らかく、それに小さい。ぬいぐるみではないな。


「これは……ストラップか?」


 出てきたのは小さいペンギンが2匹のストラップ。1匹のペンギンがもう1匹のペンギンに覆い被さるようにして羽で叩いている感じの。


 これは、怒ってるのだろうか。もしかしたら怒っていなくて別のことを表してるのかもしれない。


「調べてみるか。」


 ペンギン 羽パタパタっと


「えっと……え?」


 調べると一番上に出てきたのはだった。ペンギンってこんな風にして求愛を行うのか……ってそうじゃない。


「何でこれ渡したんだよ……」


 これを渡した意味が分からないし、求愛という部分に意識してしまう。それと電車で聞いた寝言を一緒にして考えてしまう。


「くそっ……他のことが考えられない。」


 どうしても玲奈が俺のことを好きだという考えに至ってしまう。それ以外のことが考えられない。


「他にどんな理由でこんなの贈るんだよ。」


 幼馴染だからって求愛行動のストラップを贈るなんておかしいだろ?……もしかして意味を知らずに贈ったのかもしれない。それとも、


「……本当に俺のことを好きなのか?」


 結局いつまで経ってもどっちなのかは分からなかった。

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