第36話 表2

「それでお客様、どうしますか。」


「……」


 どうしようか。もしこれを渡しても玲奈が花言葉を知らなかったら渡した意味がないのではないだろうか。


 それだったら買わずに別の商品を買った方が良い気がする。


 しかし、そう思うものの俺はそのストラップに惹かれていた。何かを引っ張られるような感覚。


「その感覚は正しいですよ。これはお客様自身ですから。」


「俺自身?」


 どういうことだろう。その花が俺を表しているということだろうか。


「ええ、そういうことになります。」


 つまり、この花のストラップを俺の願いがつまったものでもあるのだろう。


「というか、さっきから心を読んでいるのか?」


「ええ、読めますよ。」


 勝手に話し出すし、話していることが俺の考えていることに対して答えている感じがした。そしたら、案の定読めていたらしい。


「今はどうでも良いか。」


「そうですね。今はお客様がこの商品を買う買わないの方が重要です。」


 それはどうだろうか。心を読むのもかなり重要な気がするんだが。


 そんなことよりもいつまでも悩んでいる方が失礼か。実は話をし始めた頃から決めたんだが。


「それでどうします?」


 店員は俺をニヤニヤとした表情で見てくる。心を読んでいるのに分からないはずがない。それなのにあえて俺から言わせるのだろう。


「……買います。」


「そうですかそうですか。それはよかったです。」


 くそっ、嘘っぽい喜びかたと安心の仕方だ。多分俺が買わないといってもそんなに変わらなかっただろう。


「それで?いくらですか。」


「お値段は要りません。その代わり……必ずお連れ様と添い遂げるという約束をしてください。」


「それはどういう……」


 支払う代わりに約束を守って欲しいと。お金が要らないのは俺的には嬉しいが約束はどうやって確認するのだろう。


「いえ、お客様とお連れ様を見ていたいのです。心配要りませんよ、あなた方はいつも通り過ごしていれば良いのです。今のことは忘れてしまいますから。」


 不思議な言い方をする店員だ。まるでいつも俺たちの近くにいるような言い方。


「それより、お時間の方はよろしいのですか?」


「うん?……やばっ、もうこんな時間か。」


 気づいたらかなりの時間が経っていた。もう少しで30分経ってしまう。急いで戻らねば。


「ご武運をお祈りしております。」


「ありがとうございます。それでは。」


 俺急いで来た道を戻った。時間に遅れると玲奈に怒られるかもだからな。


 俺がもとの場所へ戻る頃には今あったことは全て忘れてしまっていた。覚えているのはストラップをということだった。




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「すまん、遅れた。」


「大丈夫だよ。私も今終わった感じだから。」


 俺が集合場所へ向かうと玲奈はもういた。玲奈も丁度終わったらしい。どんなものを買ったのだろうか。


「じゃあ、お互い渡しあお?」


「それなんだがワクワク感が出るように家についてからにしないか?」


 ここでさっき買ったストラップを渡すのは何だか恥ずかしかった。せめてもの悪あがきでそんなことを言ってしまった。


「確かにドキドキするかも。私もそうしたいな。」


「なら、家についてからってことで。」


 とりあえず凌ぎきった。まぁ、結局は渡さなければならないのだが、家についてからだと渡した後すぐに家に入れて逃げれるからな。


「そうだ、もう昼だしご飯食べるか。」


「そうだね。気づいたらあっという間だったよ。」


 本当にそう思う。玲奈と一緒に魚を見ているだけで楽しかった。一番長居したのはペンギンだな。


「ここにもあるみたいだしそこにするか。どんなものがあるだろうな。」


「うーん……海鮮丼とか?……うぅ、やっぱりなしで。」


 玲奈は自分で言っといて自爆していた。水族館で魚を見たのに中にある食事処で海鮮丼を出すとか嫌だな。


 そんなのがあったら楽しかったのが台無しになる気がするんだが。さすがにないよな?あってもシーフードカレーか。


「美味しいものだったら良いな。」


「うんっ。」





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「んむぅ……すぅ。」


「またか。」


 玲奈は帰りの電車でも寝ていた。まぁ、水族館であれだけはしゃいでいたら納得だ。ご飯も普通に食べてたから眠くなったんだろう。


 こくん、こくん


「危ないな……また同じやつで良いか。」


 玲奈の首がこくこくしていて落ちそうな気がして危なかった。なので朝と同様にひざ枕にする。これなら落ちる心配もない。


「……んぁ、もふもふ……」


「……寝言か。」


 もふもふとはペンギンのことだろう。確かに子供のペンギンはとてももふもふで暖かかった。


「んんっ……だめぇ……葵は私の……かれしぃ……」


「もう水族館じゃないっての。」


 俺の方に来てくれたペンギンに嫉妬した時のことが夢になっているのだろう。あの時の拗ねた玲奈もかわいかったな。


「そう……だいしゅきぃ………」


「え?」


 最後に出た寝言に混乱する。玲奈は今俺を大好きと言った。寝言だから誤解かもしれない。だけど、


 もしかしたら玲奈は俺のことが好き?





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「家にとーちゃく!」


 電車を降りて家に向かってあるいていた。曲がり角を曲がって家が見えたときに玲奈が先に家に向かっていってしまった。


「行きは良かったが帰りは辛く感じたな。」


「楽しんで疲れたからかな?」


「そうかもな。」


 電車でのこともあって考えすぎたのだろうか。結局答えは見つからないし玲奈は起きるしで考えるのを中止した。


「じゃあ、お土産交換だよっ。」


「ああ、そうだった。」


「じゃあ私から。はいっ、まだ開けないでね!」


 玲奈から袋を受け取った。何が入っているが気になるが、玲奈の言う通り自分の部屋で、ゆっくり開けよう。


「じゃあ俺のも家に帰ってから開けてくれ。」


 俺も玲奈に袋を渡す。中に入っているのは玲奈の誕生日のぬいぐるみセットと花のストラップだ。


「明日葵の家で感想言い合うのはどう?」


「無難なことしか言えないと思うがいいぞ。」


「やたっ。じゃあそうしよ。」


 明日が不安になってきたな。玲奈に要らなかったとか言われたらかなりショックなんだが。多分言わないと思う……言わないよな?


「じゃあね!」


「じゃあな。」


 玲奈が家に入っていく。俺も家に入ってお土産を確認するか。



 こうして最初のデートはとりあえず終わった。

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