第35話 裏
「やっと着いたな。」
「ゆっくりしすぎたよね。」
葵とゆっくり過ごすのが好きでもさすがにゆっくりしすぎたかな。本当なら開店前に着く予定だったのにもう開店しちゃってた。
「まぁ、開いたばかりだしゆっくり見れるだろ。」
「そうだね。早く見に行こっ。」
ゆっくり見れるなら見たい動物を長く見れるってことだよね。ペンギンとか、カワウソとか見れるかなぁ。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2人です。」
「2名様ですね。こちら2名様で通常3000円です。」
むむっ、通常料金が3000円ってことだよね。それって他にもあるってことだし……もしかしたら……
「通常とはどういう……」
「お2人が恋人なら特別料金になります。特別料金ですと2000円になります。ですが、条件としてお2人が恋人であることを証明させてもらいます。」
やっぱり。今の私達って周りから見ると恋人に見えてるのかなぁ。えへへ、実はまだなんですけど。
だけど、恋人の証明ってやつはチャンスかも。ここでアピールすれば葵も意識してくれるよね。
「恋人ですよ!」
ギュッ
「なっ……」
「これでダメでもき、きしゅもできますから!」
これはお金を節約するために必要なことだから!だからしょうがないんだよ。私がやりたい訳じゃない……ごめんなさい、嘘です私がしたかったの。
「はい、それで十分ですよ。それでは、恋人同士でのご来店で特別料金となります。2000円です。」
ぷしゅぅぅ
それで十分。それって抱きついたことだよね。他に何かあるのかな?………あれ?
『これでダメでもき、きしゅもできますから!』
あ、ああ!言っちゃった。周りに人がいるのに大きい声で言っちゃったよぉ。しかも噛んでるしっ。
うぅ、私を見ないでください。つい出来心だったんです。1回だけでも葵とキスしたかったんです。
「はい、丁度2000円ですね。レシートとこちらカップル限定のおまけがついた入場券です。」
「ありがとうございます。玲奈、行くぞ。」
「はひっ。」
葵に言われて戻ってきた。あれ?いつのまにかお会計終わってる。また葵にお金払ってもらっちゃった。1000円くらいは自分で払えるのに。
(なにこれ!なにこの子達。カップルじゃないってと思うけど絶対両思いよね!この初々しさ、堪らないわ。ふふふふふ……じゅる。あ、よだれが垂れそうに。)
私は店員の前を通りすぎる時に店員が少しだけ恍惚とした表情になったのを見逃さなかった。絶対何か妄想してるよね。
できればさっきのことは忘れてください。
私はそう願うしかなかった。
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「うわぁ、可愛い。」
「……」
ぴいぴい、ぴいぴい
私の周りに沢山ペンギンが群がっている。まだちっちゃい子ペンギンだけどそれはそれで可愛いんだよね。
ふにふに
「うわぁ、なにこれ!すごいふわふわしてる。」
「……」
触れて良いか迷ったけど少しだけ目の前の子を触ってみる。触ってみたら、思ってた以上にふわふわで気持ち良かった。
「ねぇ、葵も触ってみよう……あ、ご、ごめんね。」
「いや別に俺に1匹しか来ないからってそんなこと言われても。」
私には10匹くらい群がっているのに葵には1匹しか行かなかった。なんだろうペンギンにも人間の好き嫌いってあるかな?
ぴい、ツンツン
「なんだ?慰めてくれるのか。ありがとうな。」
葵がペンギンに慰められている。私もペンギンにあんな風にされたいなぁ。葵にも何かあったら慰めてもらったりするのも良いかも。
「あれ?その子が人に寄り付くなんて珍しいですね?」
「ん?」
ちらちらと葵の方を見てると葵の後ろから従業員さんが話しかけてきた。
「そうなんですか?」
「はい。人が来てもいつも無反応なんですが……あなたを気に入ったのかもしれませんね。そのペンギンちゃんメスですし。」
「はい?」
ピクッ
あの人は今なんて?普段無反応なメスペンギンが葵にだけ近寄ってたの?その様子を見て葵を気に入ったと?
ぴいぴい、ツンツン
「そうだ。試しに手に乗せてみたらどうです?心を許してたら乗ってくれるはずです。」
「じゃあ……」
ぴい、ちょこん
葵は従業員さんに言われるままに手を近づけるとペンギンは簡単には手に乗っていた。うう、羨ましい。私の方はそんな子いないよ。
「おお、まさか乗るとは。ほぼ無理だと思ってたんですけどね。きっとあなたのことが好きなんじゃないですか?」
ぴい!ツンッ
「むっ?」
「ははっ。そんなわけないですよ。でも、可愛いですね。」
さらに聞いてはいけないことが聞こえた。そのペンギンが葵を好き?いくら人じゃなくても私っていう彼女(仮)がいるのに横取りしようなんて。
「じゃあ次は肩に乗せてみてくれませんか?これで乗ったら絶対にそうですよ。」
「乗らないと思いますけどね。」
ぴい♪ぴょん
「むむむっ……」
さすがに乗らないと思ってたら寧ろ嬉しそうに乗っちゃってさぁぁ。小さいからできる特権だって分かってるのに羨ましいぃ。
「これは……珍しいので写真を撮ってもよろしいですか?あ、お客様が良ければ私がお客様のスマホでもお撮りしますが。」
「はい、顔さえ写さなければ良いですけど。あ、俺のは顔を写してお願いします。」
「分かりました。じゃあ失礼しますね。」
パシャ
チラッ、ぴぴぃ!
写真を撮るとき葵の肩に乗ったペンギンが私を見た気がした。
あなたには無理ね。
そういわれた気がした。うぐぐ、私があんなペンギンにそんなこと思われるなんて。
確かに無理だけど、ペンギンができないことを私はできるしぃ?ハグとかキスだってできるし馬鹿にしないでっ。
「うぐぐ……」
「はい、どうぞ。ご協力ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
「むぅ~~!葵、早く別のとこ行こ!」
もうあのペンギンと居させないんだから!早く次の魚見たいし。ここには思ったよりも居すぎちゃった。
「ふふっ、彼女さんがそのペンギンちゃんに嫉妬してるようですしそろそろ終わりますか?」
「嫉妬は別としてそろそろ他の魚も見たいので終わります。」
「か、かのじょ……えへへ。」
やった。従業員さんに彼女って思われちゃった。それって、私は周りから見ると葵の彼女に見えるってことだよね。
「ほら、お前も降りてくれ。」
ぴ、ぴぃ……
「そんな悲しそうにしないでくれ。今日は楽しかった。ありがとな。」
ぴい!
最後の最後まであざといペンギンめ。そんな悲しそうにしてももうここには来ないから。葵には私っていう将来のお嫁さん(不確定)がいれば良いの。
「むぅ、ほらっ、早く行こっ!」
「ハイハイ分かったよ。」
「ありがとうございました。また来てください。」
ぴいぴい!
「んぐぐ………葵は私の彼氏なんだから!」
最後にまた鳴いて印象に残さないでよ。葵がまた来たいってなっちゃうじゃん。
むぅ、葵は、絶対渡さないんだから!
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