第35話 表
「やっと着いたな。」
「ゆっくりしすぎたよね。」
あれからゆっくり歩き水族館へ目指したがゆっくり過ぎた。着いた頃にはもう開店していて他の客もちらほらといた。
「まぁ、開いたばかりだしゆっくり見れるだろ。」
「そうだね。早く見に行こっ。」
玲奈は早くお目当ての魚?動物を見たいようだ。たぶん、ペンギンとかカワウソ辺りが見たいものな気がする。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2人です。」
「2名様ですね。こちら2名様で通常3000円です。」
中に入り入場料を払おうとするが、店員のその言葉に疑問を覚える。通常3000円?まるで他の料金があるように喋るのか。
「通常とはどういう……」
「お2人が恋人なら特別料金になります。特別料金ですと2000円になります。ですが、条件としてお2人が恋人であることを証明させてもらいます。」
恋人であることの証明か。要するに恋人同士がすることをしろと。例えばキスとかハグとかか。
「恋人ですよ!」
ギュッ
「なっ……」
「これでダメでもき、きしゅもできますから!」
料金は安くなるとはいえ人前でそんなことするのはさすがに嫌だろうと思ったので通常料金を払おうと思ったのだが……
玲奈が恋人と言い張り抱き締めてきた。突然のその行動に動揺してしまった。さらに玲奈は、キスをしても良いと言った……噛んでたけど。
「はい、それで十分ですよ。それでは、恋人同士でのご来店で特別料金となります。2000円です。」
ぷしゅぅぅ
俺はそれで良いのかと思いつつ入場料を支払う。玲奈は噛んだことと人前で普段言わないことを言ったことにより赤くなっていた。
「はい、丁度2000円ですね。レシートとこちらカップル限定のおまけがついた入場券です。」
「ありがとうございます。玲奈、行くぞ。」
「はひっ。」
俺は未だに固まっている玲奈の手を取り歩く。というか店員の俺たちを見る目が生暖かい感じになったりニヤニヤしたりしている。なんなんだよ。
(なにこれ!なにこの子達。カップルじゃないってと思うけど絶対両思いよね!この初々しさ、堪らないわ。ふふふふふ……じゅる。あ、よだれが垂れそうに。)
まぁ、魚を見ると玲奈ももとに戻るだろう。
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「うわぁ、可愛い。」
「……」
ぴいぴい、ぴいぴい
玲奈は今ペンギンを見てはしゃいでいる。俺からしてみると玲奈もペンギンに負けないくらい可愛いんだが。
ふにふに
「うわぁ、なにこれ!すごいふわふわしてる。」
「……」
この水族館はペンギンとふれあうこともできるのだ。さすがにくちばしが危ないので子供のペンギンだが。
「ねぇ、葵も触ってみよう……あ、ご、ごめんね。」
「いや別に俺に1匹しか来ないからってそんなこと言われても。」
そう、玲奈には10匹位の子ペンギンが群がっているが俺には1匹しか来なかった。愕然とした差に少し悲しくもなる。
ぴい、ツンツン
「なんだ?慰めてくれるのか。ありがとうな。」
俺に来てくれたペンギンが気にするなと言いたそうに優しくつついてくる。偶然かもしれないその優しさが心に染みる。
「あれ?その子が人に寄り付くなんて珍しいですね?」
「ん?」
後ろを振り向くと不思議な顔をしていた従業員がいた。俺の方を見ているからこのペンギンは普段人に寄り付かないのだろう。
「そうなんですか?」
「はい。人が来てもいつも無反応なんですが……あなたを気に入ったのかもしれませんね。そのペンギンちゃんメスですし。」
「はい?」
何を言っているのだろうか。このペンギンがメスだったとしても俺を気に入るとかどんなことだよ。
ぴいぴい、ツンツン
「そうだ。試しに手に乗せてみたらどうです?心を許してたら乗ってくれるはずです。」
「じゃあ……」
ぴい、ちょこん
従業員の言う通りにしてみると普通に手に乗ってくれた。
「おお、まさか乗るとは。ほぼ無理だと思ってたんですけどね。きっとあなたのことが好きなんじゃないですか?」
ぴい!ツンッ
「むっ?」
「ははっ。そんなわけないですよ。でも、可愛いですね。」
無理だと思いながら俺にやらせたのかよ。というかペンギンが人を好きとかないだろ。
「じゃあ次は肩に乗せてみてくれませんか?これで乗ったら絶対にそうですよ。」
「乗らないと思いますけどね。」
ぴい♪ぴょん
「むむむっ……」
さすがに肩は……と思ったが予想に反してペンギンは俺の肩に乗った。しかも鳴き声が若干嬉しそうな気がした。
「これは……珍しいので写真を撮ってもよろしいですか?あ、お客様が良ければ私がお客様のスマホでもお撮りしますが。」
「はい、顔さえ写さなければ良いですけど。あ、俺のは顔を写してお願いします。」
「分かりました。じゃあ失礼しますね。」
パシャ
チラッ、ぴぴぃ!
この光景は非常珍しかったのだろう。写真を撮られてしまった。いやぁ、この写真を撮ってもらえて良かった。
「うぐぐ……」
「はい、どうぞ。ご協力ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
「むぅ~~!葵、早く別のとこ行こ!」
スマホを返してもらい写真を確認する。うん、良い感じだ。
さっきから呻き声をあげていた玲奈が堪えきれずに次を促す。
「ふふっ、彼女さんがそのペンギンちゃんに嫉妬してるようですしそろそろ終わりますか?」
「嫉妬は別としてそろそろ他の魚も見たいので終わります。」
「か、かのじょ……えへへ。」
ここで時間を使って他の魚、動物が見れなくても嫌だからな。玲奈はさっきから表情を変えるのに忙しいようだ。
「ほら、お前も降りてくれ。」
ぴ、ぴぃ……
「そんな悲しそうにしないでくれ。今日は楽しかった。ありがとな。」
ぴい!
なんだか本当に人の言葉を理解しているようだ。そう思えてしまうほどに鳴き声のタイミングが良いんだよな。
「むぅ、ほらっ、早く行こっ!」
「ハイハイ分かったよ。」
「ありがとうございました。また来てください。」
ぴいぴい!
「んぐぐ………葵は私の彼氏なんだから!」
そこで何で俺が彼氏ということに繋がるのだろうか。関係なくないか?
玲奈は早く別のところにいきたそうに俺を引っ張っている。そんなに急がなくてもまだ時間はあるのに。
移動するとき、従業員の言葉が頭で再生される。また来てか。
数年後に今日の子ペンギンを見に行きたいな。
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