第28話 裏

「さすがに機嫌治してくれないか?」


「ふんっ!知らないもん!葵のばかぁ。」


 私は今とても、とっても怒ってる。誰がなんと言おうと私が怒ってるって思えば怒ってるのだ。


「馬鹿って言われてもなぁ。玲奈が俺の存在を忘れそうな位に夢中になってたから見られたんだろ?」


「そこは見なかったことにしてくれても良かったじゃん!」


 私が葵の胸で顔を隠して赤くなった顔を見せないようにした時、実は少し経ってからまた匂いを嗅いでたんだよね。


 また匂いを嗅ぎ出すと止まらなくなっちゃって、葵が見ていることを忘れて位夢中になって嗅いでいたんだよね。


 それで、また葵に匂いを嗅いでるところを見られて指摘された。言われたときは夢中だったからぼやっとした感じだった。


 少したってから言われたことを自覚して恥ずかしくなって、葵に逆ギレして今の状態になってる。


「とにかく!私怒ってるんだから。」


「……そうだな。」


 肝心な時にデリカシーがない葵に私は怒ってます。少しくらい何も見なかった、なかったことにしてくれても良いのに……


「葵が素直に謝るまでずっと顔隠してるから!」


「………」


 私がそう言うと葵は黙ってしまった。ふふん、今日の私の決意は強化ガラス並みに硬いんだからっ!いくら葵だからって簡単に許さないもん!


「…………」


「うぅ……」


 あ、でもやっぱり話せないのはやだな。あっ、うんうん全然違う!私にはがあるから話さなくても大丈夫!


「……」


「何で何も言ってこないのぉ……」


 とは言っても、葵はさっきから黙ったきりで全然話さない。もしかして怒らせちゃっかな?そうじゃないなら早く何か言ってよぉ。


 私だって今回のことは八つ当たりだって分かってる。だけど恥ずかしいところを見られたからつい怒っちゃっただけで本当はもう怒ってないのに……


「なぁ。」


「な、何。」


 どうしようって悩んでたらやっと葵が話しかけてくれた。さっきまで考えていた暗い想像はあっという間に何処かに消えていった。


「俺が悪かったよ。許してくれないか。」


「わ、分かれば良いの!………えへっ。」


 やっと葵と話せた!今の私には数分間でも辛いよぉ。話せたことが嬉しくてつい笑みが漏れ出てしまった。


「じゃあ、許してもらったし、下でごはん食べるか。」


「うんっ。そろそろごはんの時間だもんね。」


 もう7時になりそう。私の家はだいたいこの時間帯にごはんを食べるからそろそろ準備できてるはず。


 私の家では、朝ご飯はパンとご飯の両方が用意できてて好きな方を選べる。だからその日によって変えることもできる。


 今日はどっちにしようかなぁ。





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 私は今、部屋に1人でネットサーフィン中だ。葵はお母さんに手伝いを頼まれて働かされてる。肉体労働かなぁ。


 ちらほら適当なサイトを見てるんだど、どれもあんまり面白くない。何か気になるやつとか面白そうなのないかなぁ。


【嫌な幼馴染の特徴 女の子var.】


 ふと目に留まったサイト。嫌な女の子の幼馴染の特徴かぁ。葵にとって私は女の子の幼馴染だしちょっと見てみようかな。


 当てはまってるものがあったらそれを直していこうかな。少しでも葵が好きな私でいたいから。


 あ、でも意外と当てはまらないや。なぁ~んだ、じゃあ私全然嫌な幼馴染じゃないんだ。良かったぁ。


[個人的にすぐに八つ当たりしてくる奴とか俺が全然悪くないのに怒ってくる奴とか嫌じゃね?]


[あぁ~分かるわぁ。そんな幼馴染いたら確かに嫌だな。]


[なんか【ざまぁ】とかしてみたくなるなw]


[ほんとそれなww]


 私はその部分のチャットを見て言葉を失った。だって、それってさっき私がしていたことだったから。


 どうしよう、葵もこんなこと思ってたのかな?私に言われて仕方なく謝ったけど心のなかでは不満しかなかったのかな?


 このままじゃ葵に嫌われちゃう。どうしよう……私は体育座りになって必死に考えたけどなにも思いつかなかった。




 ____________________________________________





 ガチャ


「……何してるんだ?」


「あ、葵。さっきはごめんなさい。」


 なにも思いつかなくても葵が来るまでまだ時間があったからずっと考えてた。結局、何も思いつかなかった。


 そんな時にドアが開いて葵が帰ってきた。私は開口一番、さっきのことを謝る。葵絶対心のなかで怒ってるよね。


「いや、その話はもう終わってるし、掘り返さなくても良いだろ。」


「で、でも。葵嫌だったよね。」


 葵の中では終ってても私の中では始まったばかりだった。それに、葵は必ず、少しでも嫌になったはず。


「とりあえずお願いの続きするか。」


「ふぇ?」


「しないのか?」


「し、したい……けど。」


 思わず正直に言ってしまった。しまったって思ったけど葵は何故か座って胡座を組んだ。な、何で?


「ほら、早く。」


「うん……」


 葵に言われて反射的に動く身体。私は葵の胡座の中心の穴にすぽっと座り込む。どうして葵はしてくれたんだろう。


「それで?どうして謝ってるんだ?」


「それは………葵に嫌われたくなくて……」


「はぁ?」


 葵は不思議がってるけどそうとしか言えないし。私は葵にもっと好きになってもらいたくて、別に嫌われたいわけじゃないもん。


「何でそう思ったんだ。」


「ネットのサイトに書いてたから……」


「どんなサイトだよそれ。」


 私はさっきまで見ていたサイトのことを話した。私がさっきしたことは男の人からしたら嫌で嫌われることも。


「だから……ごめんなさい。」


「別に気にしなくて良いぞ。」


「えっ?」


 もう一度謝ると、葵はまた気にしなくて良いって言ってきた。さっきからそう言ってるけど、どうして?


「むしろ可愛いと思ったしな。ほら、身体こっち向けて。」


「か、かわっ……う、うん。」


 可愛いって葵に言われて顔が赤くなる。顔を赤くしたまま身体の向きを変えて葵と向き合った状態になる。


「じゃあはい。ぎゅーってな。」


「ぎゅ、ぎゅー。」


 ギュッ


 流されるまま葵に抱きしめられて、私も抱きしめる。抱きしめた瞬間に伝わってくる温もりに安心してしまう。


「いちいち、そんなのに気にしなくて良いからな。」


「うん……」


 ここで葵は本当に何も気にしていないこと気づいた。私でも嫌だって思うことなのにそれは優しすぎるよぉ。


「葵、ありがとぉ。」


「どういたしましてだ。」


 私はそう言って少しだけて抱きしめる力を強くした。


 葵はしばらく頭を撫でていてくれた。

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