第28話 表

「さすがに機嫌治してくれないか?」


「ふんっ!知らないもん!葵のばかぁ。」


 俺は今大変機嫌が悪い玲奈のご機嫌を治そうと色々手を打っている。だが、玲奈のご機嫌は全く治らない。


 玲奈は何で怒っているのかというと俺の胸に顔を埋めて顔を隠している時にまた匂いを嗅いでいたことが俺にばれたからだ。


「馬鹿って言われてもなぁ。玲奈が俺の存在を忘れそうな位に夢中になってたから見られたんだろ?」


「そこは見なかったことにしてくれても良かったじゃん!」


 俺はまた匂いを嗅がれているのが分かった時、また玲奈に言ったんだがそれが良くなかったらしい。


 俺に指摘されると、人には見せられないくらいの顔をしていた玲奈が我に返り恥ずかしがって逆ギレしてきたのだ。


「とにかく!私怒ってるんだから。」


「……そうだな。」


 もう何も言うことが見つからないので適当に返事をする。というか、実際は怒っているのかいないのか怪しいところだ。


「葵が素直に謝るまでずっと顔隠してるから!」


「………」


 これ実は怒ってないのか?全く分からない。怒っているのなら何で顔を隠してるんだろうな。


 本当に顔を埋めて隠してるため、顔を見てどのように思っているのかは出来ないがただ抱きついていたいだけな気がする。


「…………」


「うぅ……」


 明確な証拠があるわけではなく、あえて言うなら玲奈がコアラみたいに強くしがみついてることが証拠な気がする。


「……」


「何で何も言ってこないのぉ……」


 いや、そもそも抱きつきながら怒るってあるのか?怒ってる時ってもっとこう、緊張した空気があると思うんだが今はぽわぽわした感じの空気だ。


 まぁ、実際には玲奈しか分からないことだから俺が考えても意味ないのだが。俺が悪いのか分からないがとりあえず謝ってみることにしよう。


「なぁ。」


「な、何。」


 この時俺は幻覚が見えた気がした。玲奈に犬の耳と尻尾がついたような気がした。目でもおかしくなったか?


 俺が話しかける前は耳と尻尾がへにゃんと垂れて寂しそうだったのだが、今は耳がピンと立ち、尻尾をブンブンと振っているようにしか見えない。


 それに、心なしか話しかけられて嬉しそうにしている気がする。そんなに嬉しくなることだろうか。


「俺が悪かったよ。許してくれないか。」


「わ、分かれば良いの!………えへっ。」


 俺が謝るとすぐに許してくれた。もう少し許すのを伸ばしそうな気がしたんだが。許すのに条件があるとか言ってな。


「じゃあ、許してもらったし、下でごはん食べるか。」


「うんっ。そろそろごはんの時間だもんね。」


 許してもらったので身体を離してもらい2人で下に降りる。


 さて、今日の朝ご飯はパンかご飯かだっちだろうな。




 ____________________________________________





 ふぅ、疲れたなぁ。


 俺は朝ご飯を食べた後、おばさんに少し手伝ってと命令され逆らえずに手伝いをしていた。玲奈は先に部屋に戻っている。


 そして、無事に手伝いを終えたので部屋に戻る。玲奈は何をやっているだろうか。多分ベッドでゴロゴロしているだろう。


 ガチャ


「……何してるんだ?」


「あ、葵。さっきはごめんなさい。」


 部屋に戻ると玲奈が体育座りで俺を待っていた。そして、急に謝ってきた。さっきのことと言えば逆ギレのことだろうか。


「いや、その話はもう終わってるし、掘り返さなくても良いだろ。」


「で、でも。葵嫌だったよね。」


 ふむ、全く話が見えない。どうして玲奈はそんなことを言ってくるのだろうか。まぁ、とりあえず……


「とりあえずお願いの続きするか。」


「ふぇ?」


「しないのか?」


「し、したい……けど。」


 するしない以前に続きなのだから必ずするに決まっている。それなのに玲奈は悩んでいる素振りを見せる。


「ほら、早く。」


「うん……」


 俺は胡座をかき、いつも通り玲奈を座らせる。腕を回して軽く抱きしめて、いつものやつの完成だ。


「それで?どうして謝ってるんだ?」


「それは………葵に嫌われたくなくて……」


「はぁ?」


 俺に嫌われるってどう言うことだ?別にあの程度なら嫌うはずない。むしろ可愛いと思っていたんだが。


「何でそう思ったんだ。」


「ネットのサイトに書いてたから……」


「どんなサイトだよそれ。」


 玲奈によると、俺が手伝いを任されていた時、暇でネットサーフィンをしていたらしい。それで幼馴染について書いているサイトを見つけた。


 気になってサイトを見てみたら、こんな幼馴染は嫌みたいなことを書いていたらしい。玲奈はそれに自分が当てはまるか確認してみた。


 嫌な幼馴染の特徴に何も悪くないのに逆ギレしてくるというものがあって、玲奈はさっきの自分がそれだと思ったらしい。


 それで俺が戻ってきたら謝ってきたのか。やっと納得した。別にそんなの気にしなくても良いと思うんだがな。


「だから……ごめんなさい。」


「別に気にしなくて良いぞ。」


「えっ?」


 玲奈がもう一度謝ってきたので気にしなくて良いと伝える。そうすると玲奈は驚いていた。何をそんなに驚いているんだ?


「むしろ可愛いと思ったしな。ほら、身体こっち向けて。」


「か、かわっ……う、うん。」


 俺がそういうと玲奈は照れながら身体の向きを返る。そして、さっきの玲奈が怒っていた?時と同じ光景になった。


「じゃあはい。ぎゅーってな。」


「ぎゅ、ぎゅー。」


 ギュッ


 俺は自分から玲奈を抱きしめる。玲奈は少し恥ずかしがりながらも抱きしめ返してきた。脚を回してコアラみたいにしがみついてきた。


「いちいち、そんなのに気にしなくて良いからな。」


「うん……」


 さっき体育座りをしていた玲奈が涙目になっていた気がしたので安心させようとする。こんなので安心するか分からないけどな。


「葵、ありがとぉ。」


「どういたしましてだ。」


 俺たちはしばらく完全密着していた。

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