第27話 裏

 私は葵がいなくなる夢を見ていた。この前見た夢の内容と同じ。葵に彼女ができて、それを私に報告する夢。


『玲奈、ごめんね』


『………えっ?』


『私、仮色君の彼女になったから。』


 だけど内容は少し違っていた。葵に出来た彼女が私の友達の翠ちゃんだった。翠ちゃんは申し訳なさそうにしている。


『な、なんで……』


『玲奈が仮色君のことを好きなことは知ってたけど私も好きになっちゃったの。』


 翠ちゃんが言うには、葵に元々翠ちゃんが好きな人のことで恋愛相談をしていたんだって。それで段々葵のことが気になって好きになったらしい。


『玲奈には申し訳ないけど私も諦めたくなかったの。だからごめん。』


『………』


 そのことを聞いた私は何も言えなかった。好きになってたなら私にも言ってほしかった。それでお互いが同じ人を好きになっても恨みっこなしで頑張り合いたかった。


『翠、そろそろ行こう。』


『え、ええ。それじゃあ玲奈。また明日。』


 葵が翠ちゃんに話しかけて2人は私から離れていく、やっぱりこれからデートなのかな。2人は恋人繋ぎをして歩いている。


『「やっ……葵、行かないでぇ……」』


 私はもう無理だって分かっていても腕を伸ばす。もう距離は結構離れていて私の声も聞こえていないようだった。


 大好きだった幼馴染が親友と言っても良いくらい仲が良かった友達に奪われたと思ってしまった。


 そう思うのはお門違いなのに。いつまで経っても私が行動しなかったから。だから葵は翠ちゃんと付き合ったし、翠ちゃんは葵と付き合うことが出来た。


 だけど、そう思っても目から溢れる何かが止まらない。翠ちゃんが今いる位置には私がいたかった。


『「待って、まってよぉ……おいてかないでよぉ……そう……」』


 もう一度そう呟く。だけど何度言っても葵に届くことはなく葵はどんどん離れていっちゃう。伸ばした手が何かを掴むことは無かった。


 チラッ


『ふふっ。』


『………っ!』


 もう見えない距離まで離れていった2人。距離は離れていたけど翠ちゃんがこちらを振り向き葵にばれないように嗤った気がした。


 それは、嗤った意味は私を馬鹿にするためかな。私から好きな人を奪って、そのことに対する愉悦がつい漏れたのかな。


『う゛ぅ………ひぐっ、ぐすっ。』


 私はここが外だということも忘れて地面にペタンと座り静かに泣いた。親友が裏切って、幼馴染がいなくなってもう限界だった。



 そうして悲しい夢を見たまま、私の意識は深いところに落ちようとしていたけどそうはならなかった。


 は温かかった。最初は一部分だけだったけど次第に私を包むようになっていった。まるでもう泣かなくて良いって言ってるようだった。


 その温もりのお陰で悲しい気持ちは薄れていった。そして、私は安心したまま意識を深いところへ落とした。




 ____________________________________________





 私はゆっくり目を開けた。葵の部屋は明るくなっていた。まだ起きる時間じゃなくてそれよりも少し早い時間なのかな。


「んみゅ?」


 気づいたら葵に抱きつかれてた。私の目の前には葵の胸がある。いつの間にこうなってたんだろう?


 グリグリ


「んんっ……そう………」


 私は何故か寂しく感じて葵の胸に顔をグリグリする。何か変な夢でも見たりしたのかな?寂しさを消すように何度もグリグリした。


 すんすん


「……落ち着く。」


 グリグリしている時に葵の匂いも同時に嗅いだ。その匂いに私は安心してしまった。もっと嗅いじゃおっと。



 ____________________________________________



「んぐっ………んむぅ。」


 すんすん、すんすん


「えへぇ……葵の匂い。堪らないよぉ。」


 しばらくずっと匂いを嗅いでいた。はぁ、やめられないよぉ。これだけで安心できちゃうよぉ。


「んぁ?」


「葵が起きるまでだからっ。起きたらやめるからっ。」


 すんすん、すんすん


 私はそう決めて、また匂いを嗅ぎ出す。なんだろう、葵の匂いを嗅いじゃうと幸せになっていく感じがする。


「葵はぁ、まだ起きない………あっ。」


「………おはよう、もう起きてるぞ。」


「お、おひゃよう。」


 葵が起きてるのか確認しようと思って顔を上げて葵を見たらばっちり目があっちゃった。そのことに驚いちゃって声が裏返った。


「お、起きてたんだね……」


「ああ、3、4分前くらいからな。」


「てことはだよ。もしかしてだけど……匂い嗅いでるの見てた?」


「勿論だ。」


 3、4分前じゃなくても私はずっと匂いを嗅いでいたから葵が起きたらすぐに分かっちゃうよね。葵が起きたことでその場面を見られちゃった?


「あっ……見られた………見られちゃった?」


 プシュッ、ぷしゅぅー


「あ、オーバーヒートした。」


 自覚したとたん顔が焼けるくらい赤くなった気がするし、頭から何か出てる気がする。やばいよぉ、すごく恥ずかしい。


「なぁ、顔見せてくれないか?」


「ダメっ!」


 顔を見せられないくらい赤くなってるのに見せてくれって言われても駄目に決まってるじゃん。


「治まるまでもうちょっと強く抱きしめていて!」


「はいはい。」


 私は赤くなった顔を見られたくなかったから葵の胸に顔を埋めてやり過ごすことにした。もとに戻るまでどのくらい掛かるかな?


 あ、葵の胸がこんな近くに………うぅ、ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけだからっ。少しなら良いよね。


 私は今度はばれないようにこっそりと葵の匂いを嗅いだ。

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