第27話 表

『ねぇお父しゃん。』


『うーん?どうした?』


 俺はまたどこかの知らない家にいた。目の前に俺のことをお父さんと呼ぶ女の子がいるから夢の中だとすぐに気づいた。


『お父しゃんとお母しゃんってどうやって付き合ったのぉ?』


『……その年でそんなこと聞くのか……最近の子供はマセてるのか?』


 見た感じまだ幼稚園・保育園の年頃だろうに。それなのに自分の親の恋愛を聞くとかどんだけマセてるんだよ。


『むぅ、教えてよぉ。』


『もう少し大きくなってからな。』


『父しゃん!』


 女の子を諭したら後ろから元気な声が聞こえた。もう1人いたのか。この夢の俺は頑張ったんだな。


『何話してるの!』


『面白くないはな………』


『えっとね!お父しゃんとお母しゃんがどうやって付き合ったか聞いてたの!』


 面白くない話と言おうとしたのだが女の子の大きな声に遮られてしまった。てか、まだ諦めてなかったのか。


『え~!僕も聞きたい!』


『お前もか……』


『『聞きたいぃ~!!』』


 2人が大きな声を揃えて喋る。大変うるさく、ご近所迷惑になりそうだ。はぁ、どうしようか。


 ガチャ


『ただいまぁー。』


『あ、お母しゃんだ!』


『母しゃーん!』


 玄関から俺のお嫁さんに当たる人が帰ってきたようだ。2人の子供はあっという間にいなくなり、玄関に向かっていった。


『出迎えてくれたの?』


『『うんっ!』』


『えらいねぇ。』


 なでなで


『『えへへっ。』』


 俺も子供達についていくと、2人は頭を撫でられていた。嬉しそうに撫でられている姿は俺の子供という認識もあってか可愛かった。


『お帰り、玲奈。』


『あ、葵も出迎えてくれたんだ。』


『ああ、俺が家にいる時は出来るだけそうしようと思ってるからな。』


 どうやら俺のお嫁さんは玲奈らしい。大人になった玲奈が顔をあげる。玲奈はとても綺麗だった。それでいて少女時代の可愛さも残っている。


『じゃあ、はいっ。』


『分かったよ。』


 ギュッ


『ぎゅー。』


 玲奈が手を広げて何かをして欲しそうにした。これって最近現実の玲奈もしていたことだよな。そう思っていたら、俺は玲奈を抱きしめていた。


『んふふっ。幸せ。帰ったら毎日これが良いな。』


『俺が休みの時に限るけどそれで良いなら。』


『それで大丈夫だよっ。』


 俺達は新しい約束をしたそうだ。というか子供を産んで数年が経ってるので結婚して結構経っているってことだよな。滅茶苦茶ラブラブなんだが。


『ねぇ~お母しゃーん。』


『どうしたの?』


『お母しゃんってどうやってお父しゃんと付き合ったの?』


 しばらく抱き合ってようやく満足し、離れた後女の子の方がさっき俺に聞いたことを玲奈にも聞いていた。


『う~ん?知りたい?』


『『知りたいっ!』』


『じゃあ教えちゃおうかな。』


『『やったぁ~!』』


 玲奈によって俺達がどうやって付き合ったのか子供達に知られるようだ。夢の俺は嫌がっている気がするが正直俺も知りたい。


『でも、その前にお買い物した物運ばなきゃね。』


『『(お)父さんしゃん頑張って!』』


『こういう時だけ俺に頼る?』


 どうやら俺の子供はずる賢かったらしい。まぁ、何時ものことなのだろう。俺は文句を良いながらも荷物をもってリビングに移動した。


 そこで急速に夢が遠ざかっていく感覚に陥る。どうやらこの夢はここまでらしい。もうちょい、もうちょっと先まで待って欲しい。どうやって付き合ったんだ。


 待ってくれと願うものの俺の意識は急速に現実に戻されていく。知りたかったがしょうがないか。


 そこで俺は目を覚ました。





 ____________________________________________






「んぐっ………んむぅ。」


 すんすん、すんすん


「えへぇ……葵の匂い。堪らないよぉ。」


 目が覚めた時とても息苦しく感じた。首が閉められているわけではないが胸が圧迫されている感覚があった。


「んぁ?」


「葵が起きるまでだからっ。起きたらやめるからっ。」


 すんすん、すんすん


 目をうっすら開けると俺の胸に顔を埋め、何やら匂いを嗅いでいる感じの玲奈がいた。丁寧に俺の背に手を回し思いっきり抱きついている。


 そんな玲奈は、俺が起きたことに気づかずにずっと俺の匂いを嗅いでいる。思うんだが臭くないのだろうか。


「葵はぁ、まだ起きない………あっ。」


「………おはよう、もう起きてるぞ。」


「お、おひゃよう。」


 玲奈は俺が寝ていることを確認しようとして顔をあげる。そこで玲奈を見ていた俺と目があった。


 玲奈におはようと言ったのだが、返ってきたのは裏返った声のおはようだった。油断しすぎじゃないか?


「お、起きてたんだね……」


「ああ、3、4分前くらいからな。」


「てことはだよ。もしかしてだけど……匂い嗅いでるの見てた?」


「勿論だ。」


 俺は正直に言った。玲奈はもう少し俺を見るのが早かったらセーフだったんだが。まぁ、玲奈の自業自得ってことで。


「あっ……見られた………見られちゃった?」


 プシュッ、ぷしゅぅー


「あ、オーバーヒートした。」


 玲奈は顔を真っ赤にし頭から湯気を出していた。凄いな。人間って湯気を出すこと出来るんだな。


「なぁ、顔見せてくれないか?」


「ダメっ!」


 そんなことをお願いしてみたら即座に言い返してきた。あ、そんなに嫌だったのね。可愛いと思うんだけどなぁ。


「治まるまでもうちょっと強く抱きしめていて!」


「はいはい。」


 顔を見られたくないからか俺の胸に顔を埋め見られないようにしている。



 はぁ、しばらくはこの状態のままか……

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