第29話 表

「ねぇ。」


「なんだ?」


 玲奈の機嫌も戻ってゆったりし始めて数時間。今は無言の空間を楽しんでいたのだが、玲奈が話しかけてきた。


「さすがにひまぁ。」


「まぁ、たしかにな。」


 玲奈の言う通りだ。誰が好きで数時間も抱きっぱなしにするんだよ……いや俺だけどさ。とはいえさすがに暇である。


「そうだ!愛してるゲームってやつやらない?」


「あぁ、少し前に流行ってたな。」


 愛してるゲームか。確か、相手に愛してるって言って先に照れた方が敗けなんだよな。どんな遊びだよ。


 やるからには向き合ってやるのだが、身体の向きを変える必要は今の俺達にはなかった。さっきから向い合わせで抱きしめてるしな。


「暇だしそれでもやるか。」


「そうこなくっちゃ。」


「玲奈からで良いよ。」


「ふふんっ、後悔しないことだね!」


 玲奈が先に愛してるを言うことになった。そして嫌に自信満々だな。もしかして、ポーカーフェイスが上手かったのか?そんなわけないか。


「じゃあいくよ?」


「おう。」


「愛してるっ。」


「………」


 早速始めてみたが意外にも破壊力があった。くそっ、玲奈に愛してると言われるとこんなに嬉しいとは。


「じゃあ次は俺だな。」


「負けないから。」


「……愛してる。」


「んむぅぅぅぅ!………えへへぇ。」


 玲奈が必死ににやけまいと我慢していたがしばらくするともういいと思ったのか遂ににやけた。もう少し耐えられなかったのか?


「………はっ!まって!今のなしだから!」


「ソウダナ。テレテナカッタヨナ。」


「全然照れてなかったもん!」


 あれはにやけてただけだしな。照れていた訳でもないんだがにやけてるのも駄目になるんじゃないか?


 まぁ、今回は初回ということもあったので見逃した。玲奈は必死に取り繕ったが俺は嘘をつくのに苦労した。お陰でカタコトだ。


「ごほんっ!じゃあ気を取り直してもう1回いくね。」


「ああ。」


「あ、愛してりゅ!」


「………」


 ぷるぷる


 噛んだな、思いっきり噛んだな。赤くなった顔で噛みながら愛してると言った玲奈はとても可愛かった。


 しかも噛んだことを自覚しているため顔を俯けてぷるぷる震えてる。小動物みたいでこれはこれで可愛いのだが、なんかいじめたくなってくる。


「じゃあ次は俺だな。玲奈はそのままで良い。」


「わ、分かった。早くぅ。」


「……愛してる。」


「ひゃうあ!」


 未だにぷるぷるしている玲奈にその状態でいてもらった。そして、顔を俯けている玲奈の耳の近くで愛してると言った。


 そうすると玲奈は驚いていた変な声を出していた。顔を上げて俺を見てくるのだが、玲奈の顔はすごく赤かった。


「な、なにを……」


「ただ、愛してるって言っただけなんだが。」


「それは……そうだけど………うぅ。」


「今度は玲奈の番だぞ。」


 今回は確実に照れていたのだがもう少し続けさせる。もうちょっと工夫して言ってみて玲奈を照れさせたい。


「ぁぃ……してゅ。」


「よく言えたな。」


「馬鹿にしてぇ。」


「してねぇよ。じゃ、次俺な。」


 3回目の玲奈の愛してるはめちゃくちゃ小さい声だった。これもこれで恥じらっているからありだな。


 さて、次は俺なのだが今回はどうしようか。さっきは耳の近くで言ってみたし、他になにか良いやり方ないだろうか。


「愛してるよ。」


 なでなで、なでなで


「うぅ……もぅ無理でしゅ。」


 プシュー、ぷしゅぷしゅ


 玲奈の容量は限界だったようだ。あっという間に大量の湯気を出して照れてしまう。どうやら刺激が強かったらしい。


「ほら、次玲奈の番だぞ。」


「………」


「あ、これしばらく戻ってこないやつじゃん。」





 ____________________________________________






「葵のばか、女たらし。」


「さすがに今回は悪かったと思ってる。後、女たらしじゃないし、たらしたこともない。」


 やっと玲奈が戻ってきた。と思ったもののやっぱり何か言われた。さすがにやりすぎたと自覚しているため素直に謝る。


「むぅ……じゃあ今1つだけお願い聞いて。」


「俺に出来ることなら別に大丈夫だ。」


 いったい何のお願いだろうか。しかも今お願いするときた。お願いは少し限られてくるがさっぱり分からない。


「じゃあ、大好きって1回だけ言ってくれる?」


「は?」


「駄目?」


 お願いの意味が分からなかった。どう言うことだ。何で玲奈はそんなお願いをするんだ?分からない。


 しかしお願いで、しかも一応俺が出来ることなので断ろうはしなかった。怜奈の上目使いのお願いっていうのもあったかもな。


「ま、まぁ。別に良い。」


「いいの?」


「ああ。」


 了承してしまったがどうやって言えば良いのだろう。すぐに言ったりしても良いんだろうがどうせなら喜ばせたい。


「じゃあ、お願い。」




 ギュッ


「大好きだ、今までもこれからもずっと。」


「……ぅん。私も大好き。」




 自然と身体が動いて玲奈を胸に抱き寄せそう言った。何か要らない言葉をつけたせいで感情が乗ってしまった気がする。俺の気持ちばれてないよな?


 俺が要った後に玲奈も大好きと言ってきた。この言葉に動揺してしまった。まさか玲奈も言ってくるとは思わなかった。


 玲奈はどんな気持ちで言ったのだろうか。俺にはそれが分からない。だけど、


 玲奈が俺と同じ気持ちだったら良いな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る