第20話 表

 俺は胸に何かが当たっている感触で起きた。寝ぼけ眼で見てみると、玲奈の頭がコツコツと当たっていただけだった。


「んふぅ……もっとぉ……。」


 何か幸せな夢でも見ているのだろう、玲奈の顔はだらしなくなっていてとても可愛い。だが、人に見せられないような顔。


 しばらく玲奈の顔を見ていると尿意が襲ってきた。どうしようか、俺今、玲奈を抱きしめて寝ってるんだよ。玲奈も俺の背中に手を回してるし。


「……ゆっくり抜け出そう。」


 まずはそーっと玲奈の背中に回していた手を戻し、こっそりと下から抜け出した。よしっ、これでトイレに行ける。


 トイレに行くときも玲奈が起きないようにした。ゆっくりドアを開け、階段も音をたてないように降りる。


「ふぅ……」


 下に降りてトイレをし手を洗ってから一息つく。帰りは音をたてて玲奈が起きてもまた一緒に寝れば良いので、さっきよりかは音が出ている状態で戻った。


 部屋に戻るときに気づいたが、もう一度抱きしめ直す時はどうしようか。なかなかに難しそうだ。


「そぅ、どこぉ……どこなの……」


 部屋に戻ると目尻に涙を溜めながら俺を探している玲奈がいた。寝起きだからか声はふにゃふにゃで、目も半分くらいしか開いていない。


「玲奈。」


「そぅ?そぅだぁ……はやくきて……」


 ポンポン


 俺が声をかけると玲奈は俺の存在に気づいたようだ。そして早く戻ってきてと言う風にベッド叩いた。


 ギュッ


「泣きそうになってどうしたんだ?」


「葵が居なくなって寂しかった……」


 ベッドに戻り抱きしめながら泣きそうになっていた理由を聞くと玲奈は滅茶苦茶胸にクる台詞を言った。可愛すぎるんだが。


「そっか……居なくなってごめんな。」


「うん……戻ってきて良かった。」


 モゾモゾ


 トイレに行ったとしても居なくなったことは事実なので謝る。そうしたら、玲奈が俺の胸に顔を埋めながらそう言った。


「もっかいねよ?」


「そうだな。まだ6時だし起きるのには早いな。」


 俺はまた、玲奈を抱きしめながら横になる。2回目ともなると抱きしめながら横になるのも少し慣れた。


「ぎゅ~。」


「俺はこうするかな……」


 なでなで、なでなで


「えへぇ……安心すりゅ……」


 玲奈が力を入れて抱きしめ返そうとするもののあまり力が入っておらず、ただ可愛いだけだった。


 その代わりとして頭を撫でてみたら安心した顔をしてくれるのだ。安心しきった顔をしているが無防備にも程があるだろう。


「玲奈、お休み。」


「そぅも……おやすみぃ……すぅ。」


 お休みと言った後、玲奈はすぐに寝息をたてた。やっぱり眠かったんだろう。それなのに俺を探すとかどういう事なんだろうな。


 まぁ今はそんなことどうでも良いか。俺もまだ眠いから寝る。


 俺は玲奈の温もりを感じながら意識を落としていった。




 ____________________________________________





 フニフニ、フニフニ


「…………ぁぁ?」


 誰かにほっぺを触られている。うっすらと触られていることが分かった。そうだ、俺は二度寝したんだった。


「葵、起きた?」


「…………ぁあ。おはよう。」


「もうこんにちはの時間だよ。」


 目を開けると俺のほっぺを触っていたであろう玲奈がいた。おはようと言ったものの、もう昼近いらしい。


「結構寝てたんだな。玲奈はいつ起きたんだ?」


「私もさっき起きたの。それで葵のほっぺで遊んでたの。」


「そうか。」


 いや俺のほっぺで遊ぶなよ、と思ったが別に言う程でもないので聞かなかったことにする。玲奈もさっき起きたのか。


「このままだとあれだし、今日は何かしたいことあるか?」


「え?葵とギュッてすること?」


 玲奈のお願い以外ですることを聞いたのだが、玲奈はお願いの事だと思ったらしい。そうじゃないんだよ。


「それ以外にだよ。それは今日ずっとやるから大丈夫だ。」


「うーん……あ!1つだけあるよ。」


「そうか。ならそれを後からしようか。」


「うんっ。」


 起きてからやることを決めたのでまたしばらく玲奈をただ抱きしめる。玲奈も素直に抱きしめられている。


 なでなで、なでなで


「葵って、頭撫でるの好き?」


「うーん。好きと言うより丁度良い位置にあるから触りたくなってな。」


 丁度良い感じにいると手が出やすいのだ。後触ってみるととても触り心地が良いからいつまでも触っていたくなるんだよなぁ。


「私も嬉しいからうぃんうぃんだね。」


「嬉しいのか?……まぁ玲奈がそれなら良いや。」


 俺がやっていて何で嬉しくなるのかが分からないのだが……。まぁWin-Winなら良いだろうと思った。


 キィ


「2人とも~、そろそろご飯……あら?」


「「……」」


 頭を撫でているところに母さんが部屋に入ってきた。不思議がる母さんと押し黙る俺達。俺はての動きも止まった。


「か、母さん!?勝手に部屋に入ってこないでくれ!」


「えー、どうせ寝てるから良いと思ったんだけど……」


 いやまぁ、寝てたんですけどね。俺は別に見られても別に気にしないんだけどさ。玲奈がさ……


 かぁぁぁぁ


「ふしゅー……」


 玲奈は顔を真っ赤に染めて慌々あわあわとしていた。どうすんだよこれ……

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