第19話 表
「……なんだこれ?」
いや、分かってはいるんだがこう言わずにはいられなかった。
俺は母さんとのオハナシを終えた後自分の部屋に戻ったんだが、そこに大きい亀がいたんだ。いや、本当だぞ?
大きい亀の正体は言わずもがな風呂に入っていた奴だ。そうだ、あいつしかいない。というか何してんだ?
「玲奈、何してるんだ?」
ビクッ!
声をかけてみたが返ってきたのは身体が跳ねる位驚いた反応だけ。亀になっているってことは何か恥ずかしがっていると経験上分かってるんだが、何に恥ずかしがっているのかさっぱりだ。
「何をそんなに恥ずかしがってるんですかっと。」
バッ!
「ひゃあ!」
思い切り布団を剥ぎ取る。布団を必死に握っていたようだが女が男の力に敵うわけもなく呆気なく剥ぎ取られた。玲奈は案の定亀になっていた。
「おいおい、どうしたんだ?」
「……ぅの…………ら。」
玲奈は起き上がりプルプルしながら小さく喋った。その声があまりにも小さかったため俺には何て言ったのか聞こえなかった。
「すまん、もう1回言ってくれ。」
「だっ、だからっ!葵のせいなんだから!」
今度は俺にも聞こえるように、少し大きすぎる気もするがはっきりと言ってくれた。これ、下にいる母さんにも聞こえてるんじゃないか?
「俺のせい?俺なんかしたっけ?」
「うぐっ……」
さっきまで玲奈は風呂に入っていたし、俺は母さんと話してたから何もしてないよな。風呂を覗いたわけでもないし。というか出来ないし、しないんだけどさ。
「な、なにもしてなぃ……け、けどぉ。」
「けど?」
結局何だろう?玲奈も俺は何もしていないって言ってるし……けどの続きは分からないけどな。
「……やっぱり何でもない。」
「少し気になるが、まぁ良いか。」
玲奈はまだ恥ずかしいのだろう。身体の向きを変えて俺を見ないようにしていた。向きを変えるときに揺れた猫耳付きのフードが目に入った。
「……それ、今日俺が買ったやつ、だよな?」
「……っ!う、うん。可愛かったから着てみたの。」
「見せてくれないか?」
「えっ?……分かった。」
猫耳パジャマを着た玲奈を見たいので聞いてみたら良いらしい。玲奈は恥ずかしそうにしながらもこちらを向いた。
「お、おお。」
「どっ、どうなのっ。」
俺は感動していた。めちゃくちゃ可愛かった。頬を染め、恥じらいながらも見せてくるその姿も相まってめちゃくちゃ可愛い。でも、できれば……
「その……フードも被って貰って良いか?」
「う、うん。」
玲奈がフードを被った。そして、目の前に現れたのは恥ずかしがっているのか猫耳の女の子。
パシャ!
「あ、ちょっと!」
「悪い。めちゃくちゃ可愛いかったからついな。」
「消してよぉ。」
咄嗟に写真を撮ってしまった。消してと玲奈は言ってくるが絶対に消さないつもりだ。それくらいに可愛かった。
「むぅ、は・や・く消してよぉ。」
「あ、おい。そんなに暴れないでくれ。」
ギュッ
「うにゃぁ!」
俺の側に来てポコポコと叩いてくるので抱きしめた。それで気付いたんだが、玲奈のお願いって今から明日の夜まで一日中抱きしめてほしいってやつだよな。
「丁度良いな。」
「そ、そう!?」
「今から玲奈のお願いを実行するから。」
俺は積極的に抱きしめた。全ては玲奈に好きになって貰うために。まぁ後は、俺もしたかったから……かな。
なでなで、なでなで
「……ぅぅ。」
「すまんな。丁度良い位置に頭があったから。」
俺は自然と玲奈の頭を撫でていた。風呂上がりということもあってしっとりしている。少し湿っているが撫でにくいわけではなく、むしろもっと撫でたくなるような感じだ。
俺はしばらく玲奈を抱きしめたり、撫でたりを同時にしていた。
____________________________________________
1時間後……
「ねぇそう、もっとぉ。」
「はいはい。」
俺はあれからずっと玲奈を抱きしめていた。撫でるのは腕が疲れることもあり休憩を挟みながらやっている。
一方的にそれらを受けていた玲奈はというと、ふにゃふにゃになっていた。30分も経つとこうなっていたのだ。
なでなで、なでなで
「えへへぇ……きもちぃ~。」
「……」
玲奈のふにゃふにゃ具合に俺はもう言葉も出なかった。猫耳玲奈と同じかそれ以上に可愛かったのだ。これも写真で撮りたいと思った。
「玲奈、こっち見て。」
「んぅ、どぅしたのぉ。」
パシャ
玲奈がとろんとした顔でこちらを向いたのですかさず写真を撮った。ふぅ、とりあえずまた宝物が増えた気がする。
「むぅ、また撮ってりゅ~。駄目なんだかりゃー。」
「ごめんな。どうしたら許してくれる?」
今回も玲奈は怒るが、全然怒っているように見えない。俺は一応許してくれる方法を聞いてみた。
「ならぁ、もっとなでてぇ~。」
「分かったよ。」
ちょろい、ちょろかった。そんなことを言うとまたふにゃふにゃの玲奈に怒られるので黙って頭を撫でる。髪はすっかり乾いているが撫で心地は全く変わらなかった。
「そぅ……もっ……と。」
「眠そうだしそろそろ寝るか。」
撫でていたら玲奈が眠そうに、というかほぼ寝ている状態でまた撫でるのを催促してきた。だが、玲奈が寝たそうなので横にさせるのが優先だ。
「玲奈、横になろうな。」
「んんぅ………そぅ……もっと、ギュッて……」
抱きしめながら横にするのは大変なので一旦離して横にしたんだが、またすぐに抱きしめてほしいと言ってきた。
「今電気消すから待ってな。」
「はや……くぅ。」
いかにももう寝ますという感じなのでしなくても良いと思ったのだが、玲奈にお願いされている以上しなければならない。
俺は電気を消した後横になり、玲奈をもう一度だきしめた。
ギュッ
「んふぅ……あったかぁ……すぅ。」
「寝るの早いな。」
玲奈は抱きしめたらすぐに寝てしまった。え?俺ってもしかしてずっとこのまま?結構辛いんだけど。
この姿勢がついというわけではないんだ。実は、さっきから心臓が激しく動いている。原因は目の前で眠る玲奈だ。
さっきから心臓が限界だったのだ。それなのに明日の朝までこの状態のままとか死ぬ自信しかないんだが。
「俺、今日寝れるのかなぁ。」
そう呟いて一応は目を瞑った。俺は寝れるか心配していたが杞憂だったようでしばらくしたらすぐに寝てしまった。
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